この記事は2022年3月11日(金)配信されたメールマガジンの記事「岡三会田・田 アンダースロー『原油や小麦価格が高騰。迫られる判断!」を一部編集し、転載したものです。


岡三証券アンダースロー
(画像=PIXTA)

「おはよう寺ちゃん」での会田の経済分析(加筆修正済み)

問1

アメリカ・イギリス両政府は、ロシアのウクライナ侵攻に対する追加制裁としてロシア産原油の輸入を禁止すると発表しました。エネルギー輸出で国家財政を維持するプーチン政権の資金源を断つ狙いがあります。

ロシアへのエネルギー依存度の高いドイツなどが全面禁輸に難色を示したため、アメリカとイギリスが先行して制裁に踏み切りました。一方、EUは「2030年よりかなり前に」ロシア産化石燃料への依存から脱却する方針を発表しています。ロシア包囲網の動きについてはどうご覧になっていますか?

答1

ロシアのウクライナへの侵攻を止めるためには、その資金源を止める必要があるという考え方です。金融機関の国際決済網であるSWIFTから排除したり、ロシアの中央銀行の外貨準備を凍結したり、ロシアの重要な輸出品である原油の輸入を禁止するなどして、貿易を含む海外との取引を停滞させます。

一連の措置で、ルーブルの価値は大きく下落し、ロシアの金利が急騰するなど、包囲網の効果が出てきています。自由民主主義国は、これまで意見の違いで分裂気味でしたが、ロシアへの包囲網で強い連帯となれたことは収穫です。

問2

ロシア産原油の輸入禁止について、アメリカのバイデン大統領は、すでにガソリン高騰に苦しんでいるアメリカ市民の犠牲を伴うことになると述べています。

日本でもガソリンの高騰が続いていて、今週のレギュラーガソリンの小売価格は、全国平均で1Lあたり174.6円と、先週より1.8円値上がりして、9週連続の上昇となっています。暮らしや産業に欠かせないガソリンや軽油などが高騰している影響についてはどうご覧になっていますか?

答2

ロシアの原油の供給が止まっても、どこかの供給の増加ですぐに補うことはできないため、原油価格には上昇圧力がかかっています。ガソリンを含めた生活コストの増加が、家計を苦しめることになります。

幸いなことに、現状では、自由民主主義国の失業率は低く、雇用は十分に存在しています。日本を除けば、賃金も強く上昇しています。ただ、コストの増加に追いつくほどではないので、それを補う、財政政策で家計の負担を軽減することになると考えられます。日本は、賃金が強く上昇していませんので、もっとも積極的な経済対策が必要です。

問3

こうした中、自民、公明、国民民主の3党の幹事長がおととい、国会内で会談して、国民民主側が求めてきたガソリン税を一時的に引き下げる「トリガー条項」の凍結解除について協議しました。

ガソリンなどの小売価格の上昇を抑えるため、政府は石油元売り会社への補助金の上限を、25円に引き上げた追加対策を始めています。これにより、補助金が1Lあたり17.7円に引き上げられました。

しかし、国民民主の玉木代表は党首会談で、それだけでは「不十分」として速やかなトリガー条項凍結解除の検討を呼びかけています。ガソリンの補助金をめぐってはどのようなことを感じていますか?

答3

現行の補助金に加えて、トリガー条項凍結解除で、家計の負担を大きく軽減すべきです。政府は、補助金には積極的ですが、なかなか減税をやりたがりません。これは、どこかで減税したら、必ずどこかで増税をして、税収を維持しなければいけないという、単年度の税収中立の原則を頑なに守ろうとしているからです。

このような単年度の税収中立はグローバルに見て異常な財政運営で、今回のような機動的な減税を妨げることになってしまっています。トリガー条項凍結解除で、この単年度の税収中立の原則まで打破してしまうべきです。

問4

アメリカとイギリスがロシア産原油の輸入停止を決めたことで、原油価格が下がる余地は乏しくなっています。「本来は市場で決まる価格に政府が介入し続けるには限界があり、拡充させれば歳出に際限がなくなる」との声についてはどう思われますか?

答4

当然ながら、エネルギーの供給を確保する方策を進めるべきです。しかし、供給の確保には時間がかかりますから、まだ大きい財政政策の余地をフルに活用し、それまで、家計と企業の負担をできるだけ軽減すべきです。

1つの大きな問題は、脱炭素などの環境規制や意識などによって、原油を含めた化石燃料の供給への投資がやりにくくなっていることです。経済の成長だけではなく、地政学上のリスクという要因も絡んできてしまっていますので、より現実的に環境政策を進める必要がでてきていると思われます。

問5

また、ウクライナ情勢の緊迫化などによって、小麦の価格も高騰しています。農林水産省は、輸入小麦を4〜9月に民間へ売り渡す価格について、平均17.3%引き上げると発表しました。金額は過去2番目の高さとなります。

小麦は幅広い食品に使われているため、高騰の影響は避けられません。小麦の大半は輸入に頼っていて、価格高騰を受けて政府も動き始めていますが、金子農水大臣は会見で「価格に対する対応はなかなか難しい」と漏らしています。

半年後の次回改定ではさらに大幅な引き上げになる可能性もあるということですが、小麦価格の高騰についてはどうみていますか?

答5

ガソリンに加えて、食料まで値上げの動きが広がり、2022年度には消費者物価は平均で1.5%程度も上昇する可能性があります。しかし、一人当たりの賃金の上昇はわずかですから、家計の負担は大きくなります。

特に、困窮世帯が、さらに困窮してしまうことは、かなり現実的に意識しなければならないと考えます。あと1週間〜2週間で2022年度の政府の本予算が国会を通りますので、その後、すぐに家計と企業の負担を軽減する追加経済対策の補正予算を議論すべきです。もちろん、予備費による前倒しの支援策も必要です。

問6

購入頻度の高い主食の値上げは消費マインドを冷やすことになります。コロナ禍からの回復に冷や水を浴びせかねないのでしょうか?

答6

日々の生活コストが増加しますので、消費者マインドを冷やすことになってしまうと考えます。消費者マインドが冷えてしまうと、コロナの感染が抑制された後の、消費のリバウンドを抑制してしまうことになります。

企業も、消費のリバウンドを予想して、雇用を維持するなど、経営計画を立てていますから、リバウンドがなければ、経営の悪化で、雇用のリストラに動かなければならなくなります。

その負の連鎖を止めることができるのは、家計と企業を支援する政府の財政政策です。所得税や消費税の減税を含めて、積極的にやってもらいたいと思います。

田キャノンの政策ウォッチ:2月消費者物価の予想

3月18日(金)に総務省が発表する、2月コア消費者物価指数(生鮮食品を除く総合指数)は前年同月比0.5%と予想する。1月(同0.2%)から上昇幅が拡大すると予想する。

エネルギー価格の上昇幅が拡大することや、エネルギー以外にも上昇圧力に広がりが見られるだろう。先行きを見通すと、原油価格が再度上昇していることや、4月には昨年の携帯電話通信料の大幅な下落の影響が剥落するため、同2.0%弱まで一気に跳ね上がるだろう。

その後、供給制約が解消していき、エネルギー価格の上昇が止まり、Go To トラベルの再開となれば、同1%台半ばで推移していくだろう。

金融市場のマクロ・フェアバリュー推計
(画像=岡三証券)

▽3月11日放送分のアーカイブ


会田 卓司
岡三証券 チーフエコノミスト
田 未来
岡三証券 エコノミスト

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