この記事は2022年3月2日に「株式新聞」で公開された「永濱利廣のエコノミックウォッチャー(23)=行動制限延長を繰り返す日本経済の危機」を一部編集し、転載したものです。
政府は2022年2月、新型コロナウイルスのオミクロン株の感染拡大を受けてまん延防止等重点措置を適用している31都道府県のうち、首都圏、中京圏、関西圏の10都府県の期限を延長する方向で調整に入った。こうした中、欧米と日本で景況格差が拡大している。
PMIの改善遅れる
景況感の代表的な指標であるマークイットPMIによれば、米国の総合指数は2022年1月の51.1から2月には56まで上昇し、明確な景気の加速を示した。内訳をみると、オミクロン株の影響が弱まったことで製造業・サービス業ともに上昇している。ユーロ圏でも、総合指数の2月分は55.8と1月分の52.3を上回った。2月の域内経済活動規制緩和などにより、サービス業を中心に景況感が改善している。
対照的なのは日本だ。オミクロン株の感染拡大に伴う経済活動の自粛で、サービス業の悪化が続いた結果、総合PMIは主要国で唯一大幅に悪化している。
日本の総合PMIは2021年10月に拡大・縮小の分岐点となる50を上回り、12月まで同様の傾向を維持していたものの、2022年1月以降は再び50を大きく割り込んでいる。これは、まん延防止措置の適用が全国で頻発しているためだけではなく、ワクチンのブースター接種が欧米に比べて遅れていることも関係している。つまり、主要先進国で日本だけが行動制限の延長とワクチン接種の遅れに苦しめられる構図は2月以降も変わっていない。
低いブースター接種率
筆者は、日本の総合PMIが諸外国に比べて劣後してきた理由は、脆弱(ぜいじゃく)な医療提供体制にあるとみている。すなわち、人口当たり病床数などは世界トップレベルなのにもかかわらず、いざコロナ・ショックのような有事になると、当局がコントロールしやすい公営病院の割合が低いことなどから、諸外国より少ない感染者数でも医療がひっ迫してしまう。また、日本人の良い意味でも悪い意味でも慎重な国民性も影響していそうだ。
このように、有事における医療提供体制の構築が遅れ、慎重な国民性の日本の経済を正常化に近づけるには、諸外国以上に接種希望者に対するブースター接種の必要性が高まる。しかし、人口当たりのブースター接種率の国際比較をすると、日本が圧倒的に低い。医療提供体制の差がある一方で、ブースター接種率が遅いとなると、景気回復が今後も遅れる可能性が高い。
一方で、欧米諸国では金融・財政政策が出口に向かいつつある。こうした議論が波及した場合、欧米と比べて経済の正常化からほど遠い日本は厳しい。日本はコロナ・ショックの前から景気後退下の消費増税などにより、経済が痛んでいた。
また、過去を振り返っても、日本はバブル崩壊以降に経済が少し好転すると、経済が完全雇用に達成する前に金融・財政政策を引き締めてしまい、回復の芽を摘むことで、いわゆる「失われた30年」を余儀なくされたと筆者は考えている。
「K字型」回復が続く
コロナ・ショック後の景気回復局面でよく指摘されてきたのが「K字型」回復だ。これは、人の移動や接触を伴う宿泊・飲食や運輸などのサービス関連産業の回復が遅れる一方で、逆に人の移動や接触が減ることの恩恵を受ける情報通信などは大きく回復するため、K字のように二極化することを意味する。
しかし、すでに行動制限が緩和されている国では、サービス関連産業も回復している。これに対し、有事における医療提供体制が脆弱な日本では、行動制限が延長されている。
このままでは、他国が脱したK字型回復から脱却できないだろう。世界経済観点では、行動制限が緩和されている多くの先進国が正常化に近づく一方、行動制限緩和が遅れる日本経済の回復が遅れることによるK字が続くと推察される。デフレ克服はより困難になる。
永濱利廣 第一生命経済研究所首席エコノミスト。1995年早稲田大学理工学部工業経営学科卒業、第一生命保険入社。2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。2016年より現職。専門は経済統計、マクロ経済分析。 |