日本経済研究センターが、「1人あたりのGDP(国内総生産)において2027年には韓国が日本を追い越す」との試算を明らかにした。さらに、2028年には台湾にも追い越されるという。近年、国力の低下が叫ばれている日本は、ますます窮地に追い込まれるのだろうか。
シンガポール、香港に続き韓国にも…
韓国メディア「韓国経済」が引用した日本経済研究センターの「アジア経済中期予測」によると、韓国の1人あたりのGDP(国内総生産)は、2027年に約4万5,000ドル(約517万円)に達し、日本を追い越すという。2035年には6万ドル(約689万円)を上回り、5万ドル(約574万円)強の日本を大幅にリードするとの予想だ。
同メディアは「1986年の日本の1人あたりのGDPは韓国の6.2倍、台湾の4.4倍だった」と、かつて日本が他のアジア諸国を席巻していた点を強調した上で、「2007年にシンガポール、2014年に香港に追いつかれるなど、徐々に陥落ぶりが目に付くようになった」と報じている。
GDPを各国の人口で割った数値である「1人あたりの国内総生産」は、国民の経済力や生産性をより正確に把握するための指標として広範囲に使用されている。GDPにはその時に市場価格を反映した「名目GDP」と、物価変動を取り除いた「実質GDP」、物価・為替変動を調節した「購買力平価GDP」がある。
日本経済研究センターが「追い越されるぞ」と警告しているのは名目GDPだが、物価変動を考慮する必要があるため、本当の価値の指標となる購買力平価GDPや実質GDPの成長率についても比較すべきだろう。IMF(国際通貨基金)2020年のデータをもとに両国を比較すると、以下のようになる。
この比較から分かるように、購買力平価ベースのGDPでは日本はすでに韓国に追い越されている。2020~24年の一人あたりの実質GDP成長率の予測では、日本が0.8~1%に留まるのに対し、韓国はその2倍を上回る1.8~2.5%だ。これは、両国の差がますます大きくなる可能性を示唆している。
年収でもボロ負けの日本
もう一つ、両国の経済力を比較する際に頻繁に見かけるのは、「平均年収で日本が韓国に追い抜かれた」というものだ。
OECDのデータによると、日本の平均年収は2015年の時点で3万7,265ドル(約428万円)と、韓国より878ドル(約10万円)低くなった。年々その差は広がり、2020年は3,445ドル(約40万円)低い3万8515ドル(約442万円)だった。
両国の年収の増加率も桁違いである。平均年収が過去30年間で1,636ドル(約19万円)しか増えていない日本とは対照的に、韓国では2万130ドル(約230万円)も増えた。
「失われた30年」から抜け出せない日本 高度成長を遂げた韓国
日本はバブル崩壊以降、「失われた30年」から抜け出せていない。「3本の矢(大胆な金融政策・機動的な財政出動・民間投資を喚起する成長戦略)」を柱としたアベノミクスでも、その流れを変えることは難しかった。一方、1990年にはGDPが日本の半分以下だった韓国は2018年に日本を追い越すなど、高度経済成長を遂げた。
日本が失われた30年から脱却できないのは、「日本が世界に取り残されているから」と多くの専門家が指摘している。確かに、他の先進国や新興国が際立って国際力を上げている間に日本が衰退したことは、さまざまな「国際競争力ランキング」や「収益ランキング」を見れば一目瞭然だ。
例えば、IMD(国際経営開発研究所)が世界64ヵ国の競走力を多様な側面から評価した「世界競争力年鑑」で、日本は1989~1991年まで首位を維持していた。ところが、1990年代後半にはトップ10から消え、2021年版では31位と低迷が続いている。その一方でグローバル化の波に上手く乗ったシンガポール(5位)や香港(7位)、台湾(8位)、中国(16位)、韓国(23位)は、経済を急速に成長させた。
グローバル化が加速している近年、国際競争力は経済成長の原動力となる企業の収益力から産業の発展、人的資本の向上まで、広範囲に影響を与える重要な要素である。ここで足踏みしている日本の経済が伸び悩んでいるのは、当然の成り行きだろう。
世界で最も収益の高い企業500社を順位付けした「フォーチュン500」の2021年版には、53社の日本企業がランク入りしたが、トップ10入りしたのは9位のトヨタ自動車のみだ。首位の三菱商事を筆頭にトップ10中6社が日本企業だった1995年と比べると、日本の国際競争力の低下は歴然としている。
先進国なのに物価も賃金も上がらない
もう一つ、「失われた30年」が日本にもたらしたものがある。長期デフレ(正確にはゼロインフレ)だ。現在の日本の物価は、先進国にも関わらず、これまで30年間ほとんど上昇していない。しかも、他の先進国よりはるかに低いという異様なポジションにある。
ただし、デフレ傾向が続いているから物価安に傾いているのではない点は明確にしておくべきだろう。デフレ傾向は1998年頃から始まっており、そこへアベノミクスの円安効果が拍車をかけた結果、日本の物価が世界の物価水準より低くなったのだ。この状況が、日本の消費者の間で「物価は上がらない」という思い込みを生みだした。
物価が上がらないのは国民にとって朗報だが、賃金も上がらないというマイナス面もある。人件費の増加を商品やサービスの価格に上乗せすると消費者を逃し、収益が悪化するリスクがあるため、企業は賃上げに踏み出せない。世界的な原材料価格の高騰が続いている今、日本の賃金や物価水準の低さがより一層、衰退感を強めているのは確かである。
日本が返り咲くための課題とは?
日本が経済成長で世界のトップクラスに返り咲く日は、果たして訪れるのだろうか。その答えを紐解く上で重要なカギを握っているのは、「国際競争力の向上」と「デフレ傾向脱却」だ。
さまざまな可能性が論じられている中、東京大学大学院経済学研究科の渡辺 努教授は、「今の日本は危機的な状況だ」と消費者へ喚起すると同時に、「協調的な値上げ」の仕組みを時限的に導入することを提案している。
また、三菱総合研究所政策・経済センターの主席研究員、酒井博司氏は、日本の国際競争力が低下している理由として「せっかくの研究開発力を活かし切れていない」点を指摘している。このような見解を踏まえた上で、日本は先進的な研究開発力を維持しつつ、それを最大限に活用する戦略を模索する必要があるだろう。
文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)