世界的にインフレが加速している。日本でも約7年ぶりに全国消費者物価指数が2%を超えるなど(2022年4月)、物価は上昇基調だ。このインフレに対抗できる投資手段について、考える人も増えているだろう。

とくに、金融資産の大半を円預金にしている人、インフレ時に値下がりしやすいグロース株中心の資産構成の人は、今後さらにインフレが強まってきた際、大きな転換が必要かもしれない。本稿の前半ではインフレの株価への影響などについて、後半ではインフレ耐性があると言われるバリュー株投資について解説する。

目次

  1. インフレとは? 良いインフレ、悪いインフレがある
  2. インフレの株価への影響はプラス? それともマイナス?
  3. インフレに対抗する株式以外の3つの資産
  4. 株式の中でもバリュー株がインフレに強い理由
  5. インフレに対抗する注目のバリュー株7選
  6. まとめ:悪いインフレ、景気後退局面で強いバリュー株を研究しよう

インフレとは? 良いインフレ、悪いインフレがある

インフレの株価への影響は? 良いインフレと悪いインフレ、注目したいバリュー株7選を解説
(画像=niphon/stock.adobe.com)

インフレの株価への影響を理解するには「良いインフレ」と「悪いインフレ」の違いを知ることが大事だ。なぜなら、同じインフレという名の現象でも、真逆の影響が出る可能性があるからだ。

そもそもインフレとは?

インフレとは、一定期間、物価が持続的に上がり続ける現象だ。ポイントは、「一定期間」「持続的に」という部分である。一時的な値上がりはインフレに含まれない。

なぜ、インフレになると物価が持続的に上がり続けるかというと、物価上昇によって生活者や企業の収入が増えること、さらには「今後もモノやサービスの価格が上がる可能性が高い」とみんなが判断するからだ。これにより「今のうちに買っておこう」という心理が働き、物価上昇を持続的に支える。

ただし、ここまでお話ししてきたインフレの定義は、「良いインフレ」のものである。インフレには、下記のように「良いインフレ」と「悪いインフレ」の2種類がある。

良いインフレとは?(デマンドプルインフレ)

良いインフレ(デマンドプルインフレ)とは、前述のように一定期間、物価が持続的に上がり続ける現象だ。良いインフレの好循環サイクルを整理すると、以下のようになる。背景には、消費需要が持続的に旺盛であることが挙げられる。このサイクルが繰り返されることで、一定期間、物価が持続的に上がり続ける現象が生まれるのだ。

▽良いインフレ(デマンドプルインフレ)の好循環サイクル

  1. 需要が供給を上回るインフレへの期待感
  2. 消費が喚起される
  3. 企業活動などの経済が活性化
  4. 社員などの所得増
  5. さらに購買力増

良いインフレは、株価にプラスの影響を与えやすい。儲かる企業が増え、それが株価や利回りに反映されやすいからだ。

悪いインフレとは?(コストプッシュインフレ)

悪いインフレ(コストプッシュインフレ)とは、需要が供給を超えていない段階で、企業の生産コストが上昇することで起こるインフレのことだ。

良いインフレのように消費喚起や所得増などではなく、エネルギーや原材料などのコスト高によって起こっているため、不景気を招きやすい。不景気とインフレがそのまま続くと、スタグフレーションになるリスクも出てくる。

当然ながら、悪いインフレは株価にマイナスの影響を与えやすい。企業活動の停滞や不景気によって、株価が下落しやすいからだ。

良いインフレ、悪いインフレの見極め方

良いインフレと悪いインフレを見極めるポイントは、次の3点だ。

▽良いインフレ、悪いインフレのチェックポイント
1. 多くの企業が儲かっているか?(指標:日経平均など)
2. 多くの個人の所得が増えているか?(指標:家計調査など)
3. 持続的に物価が上がっているか?(指標:卸売物価、消費者物価など)

上記3つを達成できていれば「良いインフレ」の可能性が高く、3つのうち、1の企業の利益と2の個人所得が伸びていないのにも関わらず、物価が上がっていれば「悪いインフレ」の可能性が高い。

インフレの株価への影響はプラス? それともマイナス?

インフレの株価への影響については、プラスになる、マイナスになるという対極的な意見がある。ここからは、その背景について整理してみよう。

株式投資はインフレヘッジになる

株式投資がインフレヘッジになる説については、数多くの経済の専門家が提唱している。一例を紹介しよう。日本銀行の前副総裁・岩田規久男氏は著書の中で、卸売物価、消費者物価、日経平均株価の3つを対比しながら、インフレによる株価へのプラスへの影響について解説している。

▽1970年〜1989年間の3つの価格の上昇率比較

指標上昇率
卸売物価1.9倍
消費者物価2.9倍
日経平均株価
(225種)
19倍
出所:岩田規久男 著「インフレとデフレ」(講談社学術文庫)

1970年〜1989年間の19年間といえば、日本が著しい経済成長を遂げた時期だ。この間、卸売物価は1.9 倍、消費者物価は2.9倍に上昇した。これだけでも、デフレ経済が当たり前になった私たちの感覚からすれば驚きだが、日経平均株価はなんと19倍に跳ね上がっている。

インフレの影響で株価が上昇しやすい理由

良いインフレの影響で株価が上昇しやすい理由は2つある。

1つめは、インフレの影響で商品やサービスの価格が上がれば、企業の売上と利益(金額ベース)が増えるからだ。この影響で株価や配当が上がることが期待される。

2つめは、インフレの状況下では、企業が所有する資産(例:不動産や株式など)の金額ベースの価値が上昇しやすいからだ。それによって、株主が保有する資産の価値も増加しやすい。

株式市場の反応は、時間軸でも変わる可能性がある

ここまでの内容で、インフレの影響で株価が上昇しやすいことをご理解いただけたはずだ。ただし、次の2つの注意点を踏まえた上で、投資をするか否かとタイミングを判断することも大事だ。

1つめは、そのインフレは本当に良いインフレか、ということだ。もし、悪いインフレであれば、むしろ株価にマイナスの影響を与える可能性さえある。一方、良いインフレ、悪いインフレのどちらかは、ある程度のスパンがないと判別しにくい面もある。

2つめは、インフレが株価へプラスの影響を及ぼすのは、長期保有し続けることが前提になることだ。先に見た19年間で19倍の株価上昇の局面でも、短期的に見ると、石油ショックや円高ショックなど、株価にマイナスの影響を及ぼす経済危機が起きている。

インフレに対抗する株式以外の3つの資産

インフレヘッジの確度を高めたいなら、複数の種類のインフレに強い資産でポートフォリオを組むのがベストだろう。株式以外のインフレに強い資産例として、物価連動国債、不動産、金(ゴールド)の3つをご紹介する。

インフレに強い資産例1:物価連動国債(インフレ連動国債)

物価連動国債とはその名の通り、インフレが進むほど、元本が増えるタイプの国債だ。その仕組みは、全国消費者物価指数と連動して元本と利子が増減するというもの。個人投資家にとっては、この物価連動国債をテーマにした投資信託(ファンド)が身近だ。主なファンドは次の通りだ。

▽物価連動国債をテーマにした主な投資信託

銘柄名運用会社1年間
リターン
日本物価連動国債ファンド大和アセットマネジメント4.89%
eMAXIS国内物価連動国債インデックス三菱UFJ国際投信4.32%
MHAM物価連動国債ファンドアセットマネジメントOne4.34%
※1年間リターンは「基準価格+分配金」の合計。期間は2021年6月3日〜2022年6月2日。編集部調べ

インフレに強い資産例2:不動産

不動産は、インフレに強い資産の代表である。不動産は現物資産なので、物価が上昇すれば、それに伴って価格が高くなりやすい。

ただし、日本国内の不動産は、インフレ・デフレ問わず、値上がりする不動産と価格が停滞・下落する不動産の二極化傾向がある点に注意が必要だ。

値上がりする不動産の一例は、東京都心部に代表される好立地エリアである。これに対して、価格が停滞・下落する不動産の一例は、地方の小都市や過疎地域など人口減少が顕著なエリアである。

インフレに強い資産例3: 金(ゴールド)

金がインフレに強い理由は、不動産と同様、現物資産だからだ。加えて、金は国際情勢や経済が不透明な局面で買われる傾向が強い。なお、金を買い付ける方法は、次の3つがある。

▽金の投資における買い付け方法例
・金の現物買い
・金積立
・金価格と連動する投資信託

いずれの方法でも、金価格が上がればリターンが出る可能性が高い。

インフレに弱い資産とは?

逆に、インフレに弱い資産の代表は、円建ての預貯金、日本の国債・社債などである。これらの資産は、インフレ局面において保有や買い入れの判断を慎重にすべきだろう。

インフレに弱い資産1:円預金

日本円を長期的に預金していた場合、その価値は「額面+税引き後の金利」(定期預金を除く)となる。金利が物価上昇率と同等または上回っていれば、インフレでも資産価値は変わらない。しかし、物価上昇率を下回れば、価値が目減りしてしまう。

そのため、物価上昇率と金利の状況を見ながら、円預金と投資・外貨建てなどのバランスを考えていくのが安全だ。

インフレに弱い資産2:国債、社債等の債券

今後、物価上昇率が高まってくると、低金利政策を続けてきた日銀が利上げに踏み切る可能性もある。金利上昇は、低金利で長期固定している国債や社債にとって、マイナスの影響を及ぼす。

ただし、インフレがすべての債券にマイナスなわけではない。「ハイ・イールド債券」「物価連動国債」など金利上昇に比較的強いタイプの債券もある。

株式の中でもバリュー株がインフレに強い理由

インフレ時には、株式の中でもバリュー株に注目が集まる。逆に、グロース株は敬遠されがちだ。バリュー株、グロース株をあらためて定義した上で、なぜインフレだとバリュー株にプラスの影響が出るのかを整理したい。

バリュー株とグロース株とは?

バリュー株(割安株)とは、その企業の価値(利益や保有資産などで評価)に対して、株価が割安な銘柄を指す。その銘柄が割安かどうかは、PER(=1株あたり利益)とPBR(1株あたり純資産)などの指標を用いて判断されるのが一般的だ。なお、PER、PBRがどれくらいなら割安かは、市況やテーマによる。

▽PERとは

株価が割安か割高かを判断するための指標。株価収益率(Price Earnings Ratio)のこと。利益から見た「株価の割安性」。株価が「1株当たりの当期純利益(単に1株当たり利益、1株益ともいう)」の何倍になっているかを示す指標。

引用:JSDA日本証券業協会 | 投資の時間 | PER(ぴーいーあーる)

▽PBRとは

株価が割安か割高かを判断するための指標。株価純資産倍率(Price Book-value Ratio)という。純資産から見た「株価の割安性」。株価が直前の本決算期末の「1株当たり純資産」の何倍になっているかを示す指標。

引用:JSDA日本証券業協会 | 投資の時間 | PBR(ぴーびーあーる)

一方、グロース株(成長株)とは、成長性や将来の利益などで評価される銘柄を指す。バリュー株よりもPERとPBRが高く、注目される銘柄だとPER数百倍ということもある。

バリュー株優位とグロース株優位は循環する

一般的に、バリュー株を構成するのは、伝統的な産業や安定的な利益を出しやすい業種である。一例では、エネルギー、メガバンク、資源などだ。これに対して、グロース株を構成するのは、革新的な産業や急成長中の業種である。例えば、ITやテクノロジーなどだ。

長期的に株式市場を見ると、バリュー株優位な時期、グロース株優位な時期は循環している。この循環の事例として、三井住友DSアセットマネジメントの情報提供資料(2021年12月10日発行)では、グローバルな株式市場は2006年12月末を境に優位性が入れ替わったと分析している。

▽バリュー株とグロース株、それぞれの優位時期
・バリュー株が優位だった時期:1974年12月末〜2006年12月末
・グロース株が優位だった時期:2006年12月末〜2020年8月末

バリュー株がインフレに対抗できる理由

インフレになると、グロース株の株価が下落しやすいと言われる。その要因として挙げられるのが、インフレ時は金利上昇が起きやすく、金利とグロース株の益利回りを比較した場合、金利が優位になりやすい点だ。

これに対してバリュー株は、金利を上回る益利回りのインフレ耐性のある銘柄も多い。そのため、投資妙味があるというわけだ。

▽金利と株式の益利回りの比較イメージ
・金利:4%
・グロース株:益利回り3%(金利よりも不利)
・バリュー株:益利回り10%(金利よりも有利)

インフレに対抗する注目のバリュー株7選

バリュー株の中でも、インフレ耐性があると言われるテーマの7銘柄をご紹介する。具体的には、エネルギー、資源、商社、メガバンク、インフラなどに関連する銘柄だ。

インフレに対抗する注目バリュー株例1:INPEX

銘柄名(コード)INPEX(1605)
株価1,621円
PER/ PBR7.49 倍/ 0.71 倍
利回り2.96 %
※2022年6月6日時点、編集部調べ

エネルギー株にはインフレ耐性がある、このことを独自の投資リサーチ・ソリューションを提供するネッド・デービス・リサーチのデータも裏付ける。米ブルームバーグの記事では下記のように報じている。

▽エネルギー株のインフレ耐性

エネルギー株は過去50年にわたり一貫して高インフレ時の勝ち組だったと、ネッド・デービス・リサーチの調査が示した。

引用:ブルームバーグ | インフレ不安高まる中の株式投資-ゴールドマンやソシエテのお勧めは

インフレでエネルギー株が有利と考えられるのは国内でも変わらない。例えば、日経ヴェリタスが2022年4月に行った、豊富な経験のある個人投資家アンケートでは、今後、投資したい銘柄としてINPEXが挙げられている。 同社は、原油・ガス開発生産において国内最大手の企業だ。

インフレに対抗する注目バリュー株例2:石油資源開発

銘柄名(コード)石油資源開発(1662)
株価3,195円
PER/ PBR5.08倍/ 0.47倍
利回り1.56%
※2022年6月6日時点、編集部調べ

割安感のあるエネルギー株という観点では、石油資源開発も見逃せない。国内外の石油、天然ガス資源の権益を保有し、国内の天然ガス田の操業・供給がベースの企業だけに、天然ガス市場の動向が重要だ。

インフレに対抗する注目バリュー株例3:三井金属

銘柄名(コード)三井金属(5706)
株価3,440円
PER/ PBR6.77倍/0.81倍
利回り3.13%
※2022年6月6日時点、編集部調べ

資源関連もインフレ耐性がある、と言われる業種の1つだ。株価の割安感で見ると、非鉄大手の三井金属が候補に挙がる。スマホ向けの極薄銅箔やリサイクル材に強みを持っていること、2021年3月期以降の経常利益が安定的なことなどの特徴がある。

インフレに対抗する注目バリュー株例4:双日

銘柄名(コード)双日(2768)
株価2,100円
PER/ PBR5.70倍/0.66倍
利回り5.05%
※2022年6月6日時点、編集部調べ

ビジネスに資源を組み込む商社株も、インフレの恩恵を受けやすい。インフレで株価に好影響を受けやすい銘柄だ。

商社株といえば、伊藤忠商事、三菱商事、三井物産、住友商事などが想起されやすいのではないだろうか。もちろん、これらの4大商社株にも注目だが、割安感という視点では、双日なども見逃せない。PER5倍台、利回り5%台と典型的なバリュー株の指標となっている。

インフレに対抗する注目バリュー株例5:三井住友フィナンシャルグループ

銘柄名(コード)三井住友FG(8316)
株価3,982円
PER/ PBR7.29倍/0.45倍
利回り5.27%
※2022年6月6日時点、編集部調べ

また、メガバンク株もインフレ耐性があるテーマと言われる。国内のメガバンク株は全体的に割安感が強いため、どれか1つとなると選択が難しいが、前述の日経ヴェリタスの個人投資家アンケートでは、三井住友フィナンシャルGの名が挙がっている。

インフレに対抗する注目バリュー株例6:三菱UFJフィナンシャル・グループ

銘柄名(コード)三菱UFJ(8306)
株価738.8円
PER/ PBR9.31倍/0.54倍
利回り3.79%
※2022年6月6日時点、編集部調べ

メガバンク株に注目となると、3大メガバンクの一角、三菱UFJフィナンシャル・グループも外せないだろう。ただし、割安感(PER)に着目すると、本稿執筆時点で三井住友フィナンシャルグループよりも割高な点には留意したい。

3大メガバンクを視野に入れると、みずほフィナンシャルグループも浮上するが、近年のシステムダウンを繰り返す企業体質を見ると、長期保有で不安が残る。逆に言うと、企業体質を刷新できれば妙味が出てくる。

インフレに対抗する注目バリュー株例7:日本電信電話

銘柄名(コード)日本電信電話(9432)
株価3,927円
PER/ PBR11.68倍/1.67倍
利回り2.93%
※2022年6月6日時点、編集部調べ

NTTグループ持株会社である日本電信電話は、国内の大型バリュー株をテーマにした投資信託で上位に組み込んでいるファンドも多い。ただ最近の同社株は、景気後退・インフレの懸念から、株価が急上昇している。そのため、「投資するタイミングさえ合えば」という但し書きありの銘柄となる。悪材料が出たときなど、割安になったところを狙いたい。

まとめ:悪いインフレ、景気後退局面で強いバリュー株を研究しよう

本稿では、インフレの株価への影響と、インフレに対抗するためのバリュー株などについてお話してきた。補足すると、バリュー株では悪いインフレ、不景気局面でも業績が影響を受けにくい銘柄も目立つ。日本電信電話はその代表だ。

本稿のポイントを振り返ってみよう。まず、インフレには「良いインフレ」と「悪いインフレ」があった。株式市場に対して、前者ならプラスの影響、後者ならマイナスの影響が考えられる。

良いインフレだと株価が上昇しやすい理由には、インフレの影響で株価や配当が上がるから、企業が所有する資産の価値が上昇しやすいから、などがあった。そして、株式の中でもインフレ耐性があるのはバリュー株である。

今後、インフレが鮮明になってきたときに備えて、バリュー株の銘柄研究をしておくことも資産形成に役立つことだろう。