ESG(環境・社会・ガバナンス)は、投資家にとっても大手企業にとっても、投資先や取引先を選択するため、企業の持続的成長を見る重要視点になってきている。

2022年3月23日(水)、ZUUonline編集部が、エネルギーマネジメントのリーディングカンパニーである、株式会社アクシスの坂本哲代表(写真=右)にインタビューを実施した。また、同社と資本提携を結んでいる鹿島建設株式会社・デジタル推進室の真下英邦室長(写真=左)から、アクシスの取り組みについてコメントをもらった。

(取材・執筆・構成=ZUU online編集部)

アクシス
(写真=アクシス提供)

目次

  1. 1:アクシスのESG関連の取り組み、鹿島建設との資本業務提携について
  2. 2:カーボンニュートラル・脱炭素が与えるビジネスへの影響と今後の課題
  3. 3:株式会社アクシスが目指すスマートシティ
  4. 4:ニューエコノミー時代における脱炭素経営の社会・未来像
  5. 5:消費するエネルギーの「見える化」の意義
  6. 6:アクシスの今後の抱負
坂本 哲(さかもと さとる)
―― 株式会社アクシス代表取締役

1975年6月21日生まれ。埼玉県出身。東京都にて就職し、24歳で独立。情報通信設備構築事業の株式会社アクシスエンジニアリングを設立。その後、37歳で人材派遣会社である株式会社アフェクトを設立。38歳の時、株式会社アクシスの事業継承のため家族と共に東京から鳥取にIターン。

株式会社アクシス
エネルギーを通して未来を拓くリーディングカンパニー。1993年9月設立、本社は鳥取県鳥取市。事業内容は、システム開発、ITコンサルティング、インフラ設計構築・運用、超地域密着型生活プラットフォームサービス「Bird」運営など。
真下 英邦(ましも ひでくに)
――鹿島建設株式会社デジタル推進室室長

1970年6月15日生まれ。群馬県出身。東北大学大学院情報科学研究科を卒業後、鹿島建設株式会社に入社。建設業のデジタル化に長く携わった後、グループ会社の取締役を3年勤めた。鹿島建設に戻ってからは経営戦略部門にて中長期のグループ経営計画の立案に携わり、2021年1月デジタル推進室の設立と共に現在の職に就き、現在に至る。

鹿島建設株式会社
日本の大手総合建設会社の1つ。1840年創業、1930年設立。本社は東京都港区。事業内容は、土木建築及び機器装置その他建設工事全般に関する請負又は受託、ならびに、地域開発、都市開発、総合的エンジニアリング、マネージメントおよびコンサルティングなど多岐にわたる。

1:アクシスのESG関連の取り組み、鹿島建設との資本業務提携について

――ESG関連において、アクシス様はこれまでどのようなことに取り組まれ、現在どのようなサービスを展開しているのか教えてください。

アクシス 坂本氏(以下、敬称略):当社は、人口最少県・鳥取県に本社を構えるシステム会社です。現在は、首都圏と地方の地域格差のフラット化を目指し、事業を展開しています。「鳥取で業務を実行し、雇用を創出する」を一貫して行っています。

ESG事業では、再エネ関連や脱炭素に向けた自社システム開発などを展開しています。例えば、太陽光発電に関わるさまざまな監視ニーズをスマートに解決する自社開発ソリューションの「Solar Plants Viewer」や、使用電力情報やエネルギー利用状況を統合表示できる電力トレーサビリティシステム「ecoln」などです。

▽ecolnのダッシュボードの例

アクシス
(画像=アクシス提供)

また、地域貢献を含めて、鳥取県内でデジタルとリアルを融合させた生活プラットフォームの構築を始めています。超地域密着型生活プラットフォーム「Bird」といい、加盟いただいている地域のスーパーなどの品物を、インターネット上で買い物することができるサービスです。ご自宅や職場への配達も、自社で担っています。

加盟いただいている地元に根ざした人気店のお料理をインターネット上で注文できるサービス「トリメシ」、地域の薬局と連携し、処方薬をご自宅へ配送することで、薬局の待ち時間を有効活用できるサービス「トリメディ」、県内のフードロスの課題解決と、子ども食堂の支援を目的に、地元鳥取の規格外野菜や余剰野菜を地域の皆様に販売する「Axisのやさい」などが関連サービスです。

▽「Bird」では、配送のほか店舗での受け取りも選べる

アクシス
(画像=アクシス提供)

――アクシス様は、2021年11月に鹿島建設様と資本提携を結ばれましたが、提携にはどのような目的や期待があったのでしょうか?

坂本:鹿島建設様とはグループ会社を含めて10年近くお付き合いさせていただいており、当初は「システムの開発、運用、保守などを鳥取県内でやっていこう」と連携を開始しました。しかし、取り組んでいく中で、業務系システムに偏りがちになっていきました。

今後、地方の特性を生かしながら脱炭素の動きを意識した事業や、スマートシティ創造を目標に事業を展開する中で、連携が必要だと感じていました。

スマートシティ創造の実現には、どうしてもIT企業だけでは難しい部分があります。実際に建物を建てるということが、スマートシティ創造のためには必要となるため、大手ゼネコン・鹿島建設様との提携は、非常にありがたく、チャンスだと感じています。

鹿島建設 真下氏(以下、敬称略):坂本さんとの出会いは、私がIT系のグループ会社の取締役をしていた時です。当社がITを活用した建設の生産性向上を強力に推進し始めた時期で、新たなパートナーを探索している中で坂本さんを知りました。

坂本さんは、ご家族で東京から鳥取県に移住され、首都圏と地方を繋いで鳥取県に新たな産業と人材を育てることに情熱をもって取り組まれていました。私は、その志に惹かれるとともに、「坂本さんが経営するアクシス様だったら、将来すばらしいパートナーになるだろう」と思い、当時はまだ珍しかったニアショアを活用してITシステムの開発・運用をお願いすることにしました。そして、坂本さんとはこの時から「両社がWin-Winの関係で、互いに発展するパートナーを目指しましょう」と話していました。

「地方創生」や「カーボンニュートラル」は、当社が社会課題の解決に貢献する際の重要なテーマです。今回の資本提携が、こうした社会課題を共に解決する関係に発展できればと考えています。

2:カーボンニュートラル・脱炭素が与えるビジネスへの影響と今後の課題

――2011年ごろから「再生可能エネルギー」という大きな波が生まれ、その後、脱炭素の実現に向けてマーケットはますます広がっています。この動きは、アクシスのビジネスにどのような影響や変化を与えてきましたか?

坂本:日本では、2012年ごろにFIT法ができて太陽光発電所などの建設が進む一方、その監視システムは「CO2削減量がどれくらいなのか」を計測するくらいにとどまっていました。

当時、我々は、日本の太陽光発電などの発電所には、中央監視のような「設備を監視するシステム」が重要だと考えました。そこで、ドイツの会社と連携し、新事業として「太陽光発電所の監視計測システム」を自社で作り、販売するということを始めました。

当時、監視計測を行う会社は少なく、ニーズも少なかったということもあり、発売当初は苦労しました。しかし、2〜3年すると、発電所の運用化に伴い、さまざまな機器に故障が生じ、「やはり監視が必要だ」と徐々に認知されるようになりました。

今日では、大型のメガソーラーに対応できるシステムとなると、扱っているのは日本でも4〜5社に絞られますが、当社はその中の1社になっています。

また、昨今の脱炭素に向けた動きの中で、再生可能エネルギーのトレーサビリティ、いわゆる「見える化」のニーズが発生しています。

我々はオランダの会社とも連携し、オランダで実証されているシステムを日本に持ち込み、それをローカライズしました。実績としては、すでに地域電力会社のとっとり市民電力様で導入されています。新事業だった再エネ事業が、今では我が社の中心となり、複数の大手企業からご依頼いただけるようになりました。今後も実証実験を重ね、導入を進めていきたいと思います。

▽太陽光監視システムのダッシュボード例

アクシス
(画像=アクシス提供)

――今後、「脱炭素ビジネス」をより発展させていくために、課題となっていることを教えてください。また、その課題を乗り越えるために取り組もうとしていることを教えてください。

坂本:脱炭素への取り組みについては、どの企業もやらないといけないことだとわかっていると思います。ただ、脱炭素への取り組みは企業にとってコストとなります。企業として売上を伸ばしていかないといけない中で、再エネ・脱炭素という取り組みがどう事業に結びついていくのか、どう実現していけばよいのかという具体策で悩まれているのだと感じます。

現状では、大半の企業が「脱炭素をどう実現していくかまだ定まっていない」ということが課題だと思っています。脱酸素を進めていく上で、微々たるコストで始めることが可能な「エネルギーの見える化」をもとにアクションプランを作るなど、企業への支援や足がかりの提供をしっかりやっていきたいと思っています。

真下:両社の専門家で議論を始めた段階ですが、アクシス様が持たれている発電所向けシステムや電力見える化ソリューションは、当社の街づくりや建物・インフラ作りとシナジーが生まれる可能性は高いと感じています。アクシス様は、こうした新しい分野にも一緒に取り組んでいただける共創パートナーであり、今後も新しい関係性を一緒に作れればと考えています。

3:株式会社アクシスが目指すスマートシティ

――先ほどの質問で、アクシス・坂本社長は「スマートシティ」の話をされましたが、それはどのような都市をイメージされているのでしょうか。また、実現に向けて必要になってくることなどをお聞かせいただけますか?

坂本:弊社では、サービスを通して地域のローカルドミナントデータを収集し、そのデータを地域経済の活性化に活用する社会=次世代スマートシティの創造、と考えています。そして、最終的にはドイツのシュタットベルケ(電気、ガス、水道、交通といった公共インフラを整備・運営する自治体所有の公益企業)のように、再生可能エネルギーを中心に、地域循環型経済の実現を目指しています。

現時点では、お金や資源はその地域の外に流出してしまっています。しかし、我々が思い描くスマートシティが実現すれば、地域の中でそれらを循環させることが可能になります。その結果、持続可能な地域づくりを推進できると考えています。

日本では、スマートシティ構想は都会を中心に考えられています。しかし、特に東京などでは、情報量が多すぎて、情報の集約方法に困難な課題が多く存在しています。また、交通網が充実しており、電子決済の拡充など、一部ではすでにスマート化が整っています。

その必要性は少ないと感じています。我々は人口最少県である鳥取県に本社を置くことで知り得た、地方の特異性を背景に、この地でスマートシティのモデルケースを実現することができれば、他の地方でもスマートシティの実現が可能だと考えています。

――アクシス様が知りえた「地方の特異性」とはなんですか?

各地方には、それぞれの生活文化や習慣によって異なる特異性があります。特異性とは、例えば、世帯人口や世帯収入、物価、共働きが多い・少ない、趣向品の傾向や、食品の消費量の違いなどです。まずは、鳥取県内においてローカルドミナントデータを取得する仕組みを構築し、分析をすることで、地域にあった「スマートシティ」を実現していくことが可能だと考えています。

私たちが目指す「スマートシティ創造」というのは、その地域にあった地域特有の「スマートシティ」を実現する企業となることです。鳥取に限らず、自治体との連携を深めることで地方から「スマートシティ」を創造することが重要だと考えています。

私たちが目指すドイツのシュタットベルケの地域循環型経済モデルは自治体主導で実現しています。しかし、日本で同じことを実現するには、自治体の力だけでは困難です。そこで、我々が自治体とタッグを組むことで まずは地方で地域循環型経済モデルを実現していきたいと思っています。

――そのスマートシティの中で、アクシス様はどのようなサービスを提供したいと考えているのでしょうか? また、それを実現するために、取り組まれていることがあれば、今後、それをどのように発展させていこうと考えているのかお聞かせください。

坂本:スマートシティでは、建物OSから都市OSに変化していくと考えています。その上で、最終的には3大インフラ(通信、エネルギー、交通)の分野もカバーするサービスを提供していきたいと考えています。

先にも述べましたが、現時点では「Bird」というデジタル(インターネット)とリアル(配送)を融合した、超地域密着型生活プラットフォームを展開しています。このサービスが広まる中で、地域通貨の導入や、小型モビリティによる配送の導入といった交通インフラの分野、エネルギーに関しては電力以外(ガス、水など)の領域に、スマートシティ創造に向けたサービスを提供する会社として関わっていく可能性があると考えています。

電力発電に関しても、いずれアクシスが提供する側になることも不自然ではありません。鳥取県全体を担うことは難しいと思いますが、一部の地域を担うことは不可能ではないと思っています。

4:ニューエコノミー時代における脱炭素経営の社会・未来像

――DX、IoTなどが進み、オンラインとオフラインの連携がますます進むと考えられます。そのきたるべき社会で、御社はどのような役割を担っていきたいとお考えでしょうか。また、そのために現在、どのような経営をされていらっしゃるのでしょうか?

坂本:DX、IoTの流れにおいて、我々の最大の強みはデジタル部分、いわゆるアプリケーション分野から、ネットワーク構築や物理的な配線工事などのハード面を含め、センサーの設置までを一気通貫の事業領域として持っているところです。

さまざまなセンサーを設置し、アプリケーションで動かしてみるといった研究開発(R&D)ができるということが我々の大きな強みだと思っているので、そこはますます伸ばしていきたいですね。

これまで申し上げてきたように、我々は鳥取県内で、デジタル(インターネット)とリアル(配送)を融合させた「Bird」というサービスを展開し、地域住民の生活を支える“生活プラットフォーム”にチャレンジしています。運送業の免許・許可も取得し、実際に運送するというリアルな面をアプリケーションで組み合わせ、サービス化することに取り組んでいます。

最終的に目指すのは“スマートシティ創造企業”になるということです。デジタルだけでなく、リアルの部分までカバーした中で「真の地域循環型経済」を目指して事業を行なっています。

5:消費するエネルギーの「見える化」の意義

――今後「脱炭素」を推進するにあたり、消費するエネルギーの「見える化」にはどのような意義があると思いますか?

坂本:国内の「脱炭素」の取り組みにおいては、再エネ活用にとどまり、見える化が進んでいるとはいえない状況です。

見える化をすることのメリットとしては「どのようなエネルギー」を「どこの発電所から」「どれくらいの割合で使用しているのか」などを、太陽光・バイオマス・水力発電所といった発電所単位で把握できるようになることが挙げられます。

もう1つは、見える化をすることで、会社単位で数値の目標設定が可能になるということです。「現在の再エネ活用度は20%だが、将来何年か後には50%〜70%にしたい」というような数値目標や進捗状況を表明できることは、企業にとって具体的なアピールになります。

6:アクシスの今後の抱負

――ESG分野は投資家からも注目されています。最後に、今後の抱負についてお聞かせください。

坂本:金融機関が融資する際に、今後はますます「実際に企業が再エネの活用や脱炭素に向けた取り組みをしているのか」ということは重要な判断材料になると思います。「見える化を活用するという実証実験をしたい」という金融機関も出てきています。我々は、エネルギーの見える化をすることにより、日本全体の脱炭素のアクションに繋がる支援をしていけると思っているので、注目していただきたいですね。

また、P2P(ピアツーピア)での電力売買の見える化も当社のシステムで実現可能です。日本ではまだ法整備がされていないので、いま需要があるかと言われれば不透明な部分が大きいですが、個人対個人の再エネ売買もできる環境を構築したいと見据えています。長期的に見て日本全体の脱炭素に向けた取り組みに貢献できると思っています。