資産が1%しか減らなかったインドの超富裕層
そうした状況下で注目されているのが、総資産額4,100億ドル(約55兆3,741億円)を有するインドのビリオネアだ。
同国のビリオネアの資産は増加しなかったものの、わずか1%(50億ドル/約91兆1,647億円)の減少でとどまった。
同国には2022年上半期、166人のビリオネアが存在したが、BBIにランクインしているのはそのうち18人と、米国の10%、中国の25%のみだった。それにもかかわらず、総資産額では大幅に資産を減らして4位に後退したフランスに代わり、世界3位に順位を上げた。
「コロナ禍の持続的な需要拡大」が資産急減回避の要因か
なぜ、インドの超富裕層は資産の急減を回避することができたのか。
BBIにランク入りしている同国のビリオネアを見てみると、通信やエネルギー、医薬、鋼鉄など、コロナ禍で持続的に需要が拡大しているセクターのエクゼクティブが圧倒的に多い。特に、エネルギーや鉄鋼などの資材価格はインフレで高騰しており、これが資産の増加に貢献したものと推測される。
例えば、「インドのインフラ王」の異名を取る大富豪、新興財閥アダニ・グループのゴータム・アダニ会長の純資産は、1,000億ドル(約13兆5,063億円)強と22%減少したが、増加額はBBI中最大の220億ドル(約2兆9,719億円)だった。
一方、インド最大のコングロマリット、リライアンス・インダストリーズのムケシュ・アンバニ会長の資産は2022年6月上旬、わずか1日で62億ドル(約8,375億5,629万円)増加。総額1,040億ドル(約14兆 510億円)となり、アダニ会長から「インドで最も裕福な大富豪」の座を奪還した。同社の時価総額が過去3ヵ月で25%以上急増したことが、資産を大幅に押し上げた。
その他、国際IT企業、ウィプロ・テクノロジーのアジム・プレムジ会長兼CEO、HCLグループのシブ・ナダール名誉会長、量販チェーン「Dマート」の創設者ラダキシャン・ダマニ氏、世界最大のワクチンメーカーであるセラム・インスティテュート・オブ・インディア(SII)を有するサイラス・プーナワラ・グループのサイラス・プーナワラ会長兼CEOなどが、BBIにランクイン入りしている。
インドでは欧米の4~8倍のペースで超富裕層が増加?
英投資顧問企業ヘンリー・アンド・パートナーズは、2022年3月に発表した国際居住と市民権に関する報告書『international residence and citizenship』の中で、欧米や中国の富の成長が鈍化するのに対し、インドの富が急拡大し続ける可能性を指摘している。
報告書によると、特に金融サービスや医療・健康、テクノロジーセクターの力強い成長に支えられ、2031年までにインドにおけるミリオネア及びビリオネアの数が80%増加すると予想されている。それに対し、欧米の増加率は10~20%にとどまる見込みだ。
もっともその一方で、インドでは富の国外流出も指摘されている。
特に、国際市場へのアクセスを熱望する若い起業家や、家族のために高水準な教育・医療環境を望む超富裕層世帯による、ドバイやシンガポール、欧州連合(EU)などへの移住が目立つ。「2022年は8,000人の超富裕層がインドから海外へ移住する」と、同報告書は推定している。
推定1万人の超富裕層流出が見込まれている中国に次いで高い数字だが、インドでは海外に移住する超富裕層を上回る数の超富裕層が毎年続々と生まれているため、「深刻な懸念材料とはならない」可能性が高い。
また、海外に移住した富裕層が帰国する傾向も見られ、今後同国の生活水準の向上に伴って、帰国する超富裕層の数が増えていくことも予想される。
文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)