この記事は2022年7月1日(金)配信されたメールマガジンの記事「岡三会田・田 アンダースロー(日本経済の新しい見方)『国民生活を直撃している物価高。景気への影響は?』」を一部編集し、転載したものです。


物価高
(画像=PIXTA)

「おはよう寺ちゃん」の会田の経済分析(加筆修正あり)

  • 需要の拡大による物価上昇は家計の所得の拡大をともなうと考えられますが、エネルギーなどの原材料価格の上昇による物価上昇は家計の所得が低迷したままですので、家計の大きな負担となり、消費を下押し、景気回復を遅らせてしまいます。

  • 参議院選挙後に臨時国会をすぐに開き、家計と企業の負担を軽減する経済対策を実施することは急務です。家計が負担の軽減を実感できるのに十分な額と有効な策が必要です。需要不足幅を考えれば、最低限25兆円規模が必要だと考えます。

  • 困窮世帯を救うことは急務で、今困窮してなくても、いつ困窮してしまうのか不安な世帯もかなり多いとみられます。過剰な支援はゾンビを生むなどの強者の論理は脱して、国民全体の思いやりで、この難局を乗り切るべきだと考えます。

問1

家庭で消費するモノやサービスの値動きをみる2022年5月の消費者物価指数は、生鮮食品を除いた指数が、去年の同じ月を2.1%上回りました。

2%を超えたのは、2カ月連続です。

原材料価格高騰の影響についてはどうご覧になっていますか?

答1

資源のほとんどを輸入に頼る日本経済にとって、エネルギーや原材料の価格の高騰は、経済活動の重荷になっています。海外経済の拡大の需要の増加による原材料価格の高騰であれば、日本製品の輸出の増加で、負担は軽減されます。

しかし、今回は、世界的にエネルギーや原材料の供給が滞っていることも大きな原因となっていますので、負担はかなり大きいことになります。

輸出企業は円安による収益の下支えがありますが、それがない非製造業、そして賃金が強く上昇する前の物価の上昇によって家計にとって、より重い負担になってしまっています。

問2

アメリカの中央銀行にあたるFRBは、歴史的なインフレを抑え込むため、金融引き締めを加速させている一方、日銀は大規模な金融緩和を続けています。

*そのため、金利の高いドルを買い、円を売る動きが広がり、円安が加速している
*円安は物価が高騰する要因の1つですが…、

ただ、欧米と日本の物価高は性質が異なるものなのでしょうか?

答2

エネルギーや原材料の供給が滞っていることが物価高の原因になっていることは共通しています。しかし、米国は経済の拡大による需要の強い増加が、物価を更に押し上げている部分がかなり大きいとみられます。

一方、日本経済は、まだコロナ前のGDPの水準までも回復できないほど、需要は弱い状態で、弱い需要からはデフレ圧力がかかってしまっています。この差が、8%台の消費者物価上昇の米国に対して、日本では2%台でしかない理由となっています。

問3

2022年7月10日投開票の参院選では物価高が大きな争点となっています。

野党は物価高に対して、岸田政権が有効な政策を打ち出していないとの批判を全面的に唱えている「止まらない円安を放置する日銀は無責任だ」との声についてはどう思われますか?

答3

まだコロナ前のGDPの水準までも回復できず、内閣府の推計では、供給に対して、需要が20兆円強も足りない状態です。景気回復を支えるため、日銀が金融緩和を継続することは理にかなっています。更に、円安は輸出企業の収益を支え、国内投資を拡大する力を持っています。

しかし、円安による物価高で不利益を被ってしまう非製造業や家計の問題もあります。この問題に対処するのは、日銀の金融政策ではなく、政府の財政政策の役割です。

問4

今、日本で起きているガソリン、電気代、食料品などの価格上昇は、経済全体のインフレ率とは異なる事象です。

エネルギーや食料品の価格上昇は、国際商品市況の上昇によってもたらされているため、仮に円安が修正されたとしても状況はあまり変わらないのでしょうか?

答4

日銀が金融政策を引き締めれば、ドル円は120円台に戻り、円高が物価を若干抑制するかもしれません。問題は、日本経済はまだ回復の途上で、需要が弱い状態だということです。

多くの企業は、経営に必要なキャッシュや雇用を、負債の拡大で必死にまかなっています。金融引き締めで将来の金利が大きく上がるリスクを感じれば、企業はリストラに走りコストを削減し、それでも厳しければ倒産してしまうかもしれません。

そうなりますと、失業率が急上昇することで、円安よりも家計には思い負担となってしまうと考えられます。

問5

では、物価高によって、今後、消費行動がどのような影響を受けるのか?

*内閣府が発表した2022年6月の消費動向調査によると、1年後の物価見通しについて、2人以上世帯の94.2%が「上昇する」と回答して、過去最高だった前の月に続き、5カ月連続で9割を超えた
*「5%以上上昇」との予想は6割以上に達し、現行調査となった2013年以降で過去最高を記録している
*一方、今後半年間の消費者心理を示す消費者態度指数は前の月に比べて2ポイント減って、3カ月ぶりに悪化。食品や日用品、電気代などの値上げが響いた形で、新型コロナウイルスの感染拡大が続いていた2021年1月に次ぐ低水準となっている

となると、リベンジ消費の拡大は難しく、日本の景気回復は遅れてしまうことになるのでしょうか?

答5

需要の拡大による物価上昇は家計の所得の拡大をともなうと考えられますが、エネルギーなどの原材料価格の上昇による物価上昇は家計の所得が低迷したままですので、家計の大きな負担となり、消費を下押し、景気回復を遅らせてしまいます。

参議院選挙後に臨時国会をすぐに開き、家計と企業の負担を軽減する経済対策を実施することは急務です。家計が負担の軽減を実感できるのに十分な額と有効な策が必要です。需要不足幅を考えれば、最低限25兆円規模が必要だと考えます。

問6

電気・ガス、ガソリン、食料品といった生活必需品の値上げが国民生活を直撃しています。

岸田総理は現状を「有事の価格高騰だ」と語り、政治の安定の必要性を訴えましたが…、どういった対策が必要になってきますか?

答6

消費税率を引き下げることが有効ですが、手続きに時間がかかるのであれば、国民一律に給付をすることができます。更に、これまで何度も議論にあがってきた、ガソリン税のトリガー条項の凍結解除も必要でしょう。

当然ながら、困窮世帯を救うことは急務で、今困窮してなくても、いつ困窮してしまうのか不安な世帯もかなり多いとみられます。

過剰な支援はゾンビを生むなどの強者の論理は脱して、国民全体の思いやりで、この難局を乗り切るべきだと考えます。

▽2022年7月1日放送分のアーカイブ

会田 卓司
岡三証券 チーフエコノミスト
田 未来
岡三証券 エコノミスト
松本 賢
岡三証券 エコノミスト

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