この記事は2022年6月15日に「The Finance」で公開された「BaaSとは?初心者向けにわかりやすく解説」を一部編集し、転載したものです。
既存の銀行ビジネスモデルに限界が見え、この数年間で銀行が生き残りをかけてDXに舵を切っています。また、ネット銀行や、新しい形態の「BaaS」を利用した非金融企業の銀行サービスも一般的になってきました。本稿では、BaaSが注目される背景と課題やメリットについて解説したのち、国内外の事例を紹介します。
目次
BaaSとは
BaaSとは「Banking as a Service」の頭文字を取った略称です。その名の通り、銀行が提供しているサービスや機能を、APIを利用して「クラウドサービス」として提供されることを指します。
銀行業務は大きく「為替」「預金」「融資」の三つに分類されます。これまでは、これらの銀行業務を行うためにはライセンスや仕組みが必要でした。しかしBaaSを活用することで、銀行以外の事業者にも提供が可能になりました。つまり銀行業務で扱うデータを、IT技術を利用することで、よりオープンに活用できる仕組みです。
そのため銀行以外の事業者がライセンスを持たなくても、自社サービスに金融機能を組み込んで提供できるようになりました。
またBaaSには他にも「Blockchain as a Service」の略称ともされています。ブロックチェーンシステムの開発を簡単に行うための、クラウドサービスとしての意味合いです。
ブロックチェーンとは「正確な取引を行えるようにする仕組み」です。ネットワーク上には時に、不正を働かせる人や正常にサービスを利用できない人がいます。
ブロックチェーンという名の通り、利用者のデータをブロック(箱)に保存し、それらのブロック(箱)に保管されている取引履歴をチェーン(鎖)で結ぶイメージです。ブロック(箱)は非常にセキュリティが高く、これらをチェーン(鎖)で結ぶため、データの書き換えが簡単に行えないのが最大の特徴です。
こうした金融に関わる業務のデジタル化によって、BaaSの市場規模は拡大傾向にあります。
株式会社グローバルインフォメーションの調査によると、BaaSの市場規模は2021年〜2027年の間に54.2%成長すると予測されており、2027年には179億米ドルの市場になるとしています。
こうした予測から、世界はもちろん、日本でもBaaSの普及が広がることが考えられます。
BaaSが注目される背景
BaaSが注目される背景としては「業務のデジタル化」が挙げられます。ITの急速な発展は金融業界のみならず、あらゆる業界でデジタルのニーズが高まってきました。
その中で金融業界では、世界的なオープンバンキングの推進が広がってきています。オープンバンキングとは、銀行で取り扱っていた機能やデータを、APIを通じて公開することです。オープンバイキングが広まったことで、銀行機能の一部を搭載したアプリが多くリリースされ、新たな価値のあるサービスとして生み出されてきています。
他にも金融以外のサービスを提供する事業者が、既存サービスに金融サービスを組み込んで提供する、Embedded Financeが広がってきていることも挙げられます。
Embedded Financeの詳しい内容については、以下の記事が参考になります。
参考:国内での拡大が予想されるEmbedded Financeの可能性と法的留意点
オープンバンキングもEmbedded Financeも、自社のサービスに金融サービスを搭載したいというニーズです。これらのニーズを応えるかのようにデジタル化の波が押し寄せ、BaaSへの注目が集まってきています。
BaaSのメリット
利用者のメリット
利用者のメリットは、ストレスなく銀行機能が利用できる点です。従来であれば、ECサイトで買い物を行なった際に、決済のために外部サイトへ飛ばされる、コンビニでの振込が必要になるなどの手間が発生していました。
しかしBaaSを活用すれば、ECサイト内に銀行機能があるため、そのサイト内で決済が完了できます。他にもスマートフォンアプリを利用しての入出金や振込も行えるようになるため、利用者はストレスなく銀行機能が利用できます。
金融機関のメリット
金融機関のメリットはBaaSによって、多くの企業と提携ができ、自行の利用者が増えることです。
例えば多くの顧客を持つ企業にBaaSを活用して、自行のAPIを提供できれば、企業のサービスを利用している顧客に対して、自行のサービス提供が可能です。提携した企業の顧客に対しても、間接的なアプローチができるので、自行の利用者獲得も期待ができます。
そのためビジネスチャンスの拡大にもつながります。
事業会社のメリット
事業会社のメリットは銀行ライセンスを取得することなく、自社のサービスに金融機能を組み込めることです。BaaSを活用することで、決済機能などを自社サービスに組み込めるため、利便性の高いサービス提供につながります。利便性の高いサービスが提供できれば、利用者の満足度は上がり、自社の価値創造にも貢献できます。
BaaSによって金融機能を組み込むハードルが下がったことは、事業会社の大きなメリットと言えるでしょう。
BaaSの課題
コスト
コスト面の課題は大きいと言えます。なぜなら金融は利用者のお金を厳格に正確に管理する必要があるからです。そのため非常に高度なセキュリティシステムが必要になります。
導入コストはもちろんのこと、運用コストも考えなければいけません。BaaSを活用したい企業は費用対効果を見極め、コストをかける意味があるかを納得させなければ活用は難しいでしょう。
専門性
銀行は高い専門性を持って、信用力の判断や貸し倒れのリスクを想定して資金運用を行っています。そのため事業会社にとっては、こうした金融の専門性が運用時には求められます。
事業会社が専門性を身につけるためには、専門家に助力が必要になる他、スペシャリストを確保するなども必要になるでしょう。また合わせて社内での教育も必要と言えます。
相互運用
BaaSがより広く運用されるためには、銀行とFinTech企業の相互運用が欠かせません。なぜなら利用者が多くなればなるほど、BaaSに関わるネットワークが広がり、利便性も高まるからです。銀行とFinTech企業の相互運用ができれば、利用者は拡大され、サービスに対する付加価値の創造やイノベーションの創出も期待ができます。
BaaSの考え方は相互運用によって、自社の顧客が広がっていくというものです。これまでのビジネスの考え方である「ユーザーの取り合い」ではないため、考え方も変えていく必要があります。
日本国内のBaaSの事例
住信SBIネット銀行「NEOBANK」
「NEOBANK」は住信SBIネット銀行が提供している銀行機能です。「銀行をインストールする。世界をアップデートする。」をコンセプトに、パートナー企業の課題解決や顧客ロイヤルティの向上に努めています。
「NEOBANK」は2016年3月に邦銀で初めてAPIを公開し、QR決済や積立・送金などの用途で利用が広がっています。提携している企業は日本航空、ヤマダ電機、高島屋など日本を代表する企業です。日本航空とは海外でも安心して決済ができるように、多通貨プリペイドカード「JAL Global WALLET」を開発。高島屋とは顧客の買い物と連携した決済手段の提供など、提携企業のサービスに銀行機能を提供しています。
新生銀行グループ「BANKIT」
「BANKIT」は新生銀行グループが提供しているWalletサービスです。
「BANKIT」にはウォレット、チャージなどの機能を基本に、コード決済やATM出入金などの決済サービス、分割後払いなどの与信サービスなどが用意されています。「BANKIT」の最大の魅力はカフェテリア方式で機能を選べるという点です。定型企業は自社に必要な機能だけを選べるため、自社の事業内容にマッチした機能を取り入れられます。
また自社アプリを持っていなくても、新生銀行グループで開発したアプリをホワイトラベル方式で利用することが可能なため、新規で自社アプリを開発する必要もありません。
「BANKIT」の機能は今後も順次追加される予定で、資産運用や保険、レンディングなどが提供される予定です。
みんなの銀行「Minna no BaaS」
みんなの銀行「Minna no BaaS」はふくおかフィナンシャルグループが提供しているBaaSサービスです。「Minna no BaaS」はAPIを通じて、預金、与信、決済などの金融サービスを提供しています。
「Minna no BaaS」の事例として挙げられるのが、画像共有サイト「pixiv」と提携して開設された「ピクシブ支店」です。ピクシブ支店は、pixivユーザーがpixivサービス内に銀行口座を持つことで、売上金の振込先の利用や通常の銀行口座として利用することで、利便性の向上を図る狙いがあります。
また「ピクシブ支店」と同様にパーソルテンプスタッフ株式会社との間では、「テンプスタッフ支店」を開設し、シームレスな金融サービスの利用を実現しています。結果としてみんなの銀行は、2021年5月のサービス開始にも関わらず、既に20万以上の口座獲得に成功しています。
BaaSを活用した有名サービスの事例
Apple
AppleはEmbedded Financeとして、クレジットカード「Apple Card」の利用拡大を成功させています。Appleが行った「Apple Card」の事例については、以下の記事を参考にしてください。
参考:Embedded Financeの事例分析と今後の展望
Appleは他にも「Apple Pay Cash」の活用でBaaSを利用しています。Appleが利用しているBaaSは、カリフォルニア州パサデナに本拠とする「Green Dot Bank」のBaaSです。
「Green Dot Bank」の金融機能を「Apple Pay Cash」の機能に組み込むことで、メッセージ機能を利用した送金や請求、ウォレット機能を利用したお金の管理などが行えます。
Walmart
Walmartでも「Green Dot Bank」のBaaSを活用して、「Walmart Money Card」を提供しています。カードの発行はもちろんのこと、キャッシュバックサービスや家計簿サービスなどの利用が可能です。
「Walmart Money Card」はVisaのプリペイドカードですが、決済手段は「Green Dot Bank」のインフラを採用しています。そのためコストを抑えた金融機能の提供が可能になっています。
Uber
Uberは所属しているドライバーの報酬受け取りの利便性を高めるために、「Green Dot Bank」のデビットカード「Uber Debit Card」を開発。ドライバーは「Uber Debit Card」を活用することで、報酬の即日受け取りが可能な「Instant Pay」を利用できるようになりました。
Uberの報酬受け取りは、従来であれば1週間待たなければいけませんでした。しかし「Instant Pay」を活用することで、即日受け取りや1日5回までの引き出しが可能になるなど、利便性が高まりました。
報酬受け取りの利便性を高めたことで、ドライバーの登録や利用者は数カ月で8万を超えたとされています。
まとめ
デジタル化の波が押し寄せている現代において、BaaSを活用した未来は、より一般的なものとなっていくと予想されます。今後は金融機関と事業会社がBaaSを相互運用し活用の幅が広がることで、新たなイノベーションの創出や価値創造も期待できるでしょう。