この記事は2022年6月30日(木)配信されたメールマガジンの記事「岡三会田・田 アンダースロー(日本経済の新しい見方)『国内生産比率低下で円安の恩恵がないというのは俗説』」を一部編集し、転載したものです。


国内生産比率
(画像=Monster Ztudio/stock.adobe.com)

目次

  1. 要旨
  2. 2022年5月の鉱工業生産指数
  3. 2022年5月の実質輸出
  4. 円安は日本経済にポジティブであり続けている

要旨

  • 2022年5月の鉱工業生産指数は前月比-7.2%と、コンセンサスを極めて大きく下回った。半導体などの部品のサプライチェーンの問題が長引いているようだ。FRBの金融引き締めによる米国経済の先行き不安などで、製造業が生産により慎重になった可能性もある。経済産業省は、「生産は足踏みしている」から「弱含み」へ判断を下方修正した。

  • 2022年6、7月の経済産業省予測指数は、同+12.0%(誤差調整後+4.9%)・+2.5%と、挽回生産が見込まれているが計画を下回る可能性が高い。2022年5月の生産は、日銀が金融引き締めができる状況ではないことを示し、2022年6月の生産もかなり弱ければ、金融緩和が必要になるような結果だ。

  • 日本の製造業は生産拠点を海外に移しているため、円安の恩恵を受けられないという俗説が広がっている。しかし、2022年1~3月期の実質輸出の実質GDP比率は19.5%と、現行基準では過去最高となっている。10年間のローリング・ベータで実質輸出の円安に対する弾性値を推計すると、0.6(1%の円安で実質輸出は0.6%増加する)まで上昇し、過去に比べても弾性値は高いことが確認された。円安は日本経済にポジティブであり続けていると考えられる。円安がなければ、製造業の景況感は底割れ、景気後退になっていた可能性もある。

2022年5月の鉱工業生産指数

20022年5月の鉱工業生産指数は前月比-7.2%と、コンセンサス(同-0.3%程度)を極めて大きく下回った。2022年4月の同-1.5%に続き、2カ月連続の低下となった。誤差調整後の経済産業省予測指数の同-0.5%であったことを考えると、予想以上の減産となったことが分かる。

半導体などの部品のサプライチェーンの問題が長引いているようだ。FRBの金融引き締めによる米国経済の先行き不安などで、製造業が生産により慎重になった可能性もある。

2022年5月のゴールデンウィークに長めに工場を止めたとみられる。自動車機械工業(同―8.0%)と電気・情報通信機械工業(同-11.3%)の生産が大きく落ち込んだ。

2022年5月の在庫指数は同-0.1%と、2022年4月の同-2.3%に続き、3カ月連続の低下となり、在庫の取り崩しが進行している。

経済産業省は、「生産は足踏みしている」から「弱含み」へ判断を下方修正した。

2022年5月の実質輸出

2022年5月の実質輸出は同+3.0%と、2022年4月の同-6.0%から持ち直したが力強さがない。一方、2022年5月の実質輸入は同+7.4%と、2022年4月の同-1.6%から持ち直しが強い。部品などの輸入が増加し、サプライチェーンの修復が進んでいることを示す。

注目は、2022年6月の生産が強く持ち直すかだ。サプライチェーンの修復が進む中で、生産の持ち直しが弱ければ、グローバルな需要の減退の影響が出てきていることを示唆するからだ。

ウクライナ情勢の不透明感と、FEDの金融引き締めによる米国経済の減速に対する警戒感が、需要の予測を困難化し、生産が更に先送りされる可能性もある。

2022年6、7月の経済産業省予測指数は、同+12.0 %(誤差調整後+4.9%)・+2.5%と、挽回生産が見込まれているが計画を下回る可能性が高い。

2022年5月の生産は、日銀が金融引き締めができる状況ではないことを示し、2022年6月の生産もかなり弱ければ、金融緩和が必要になるような結果だ。

円安は日本経済にポジティブであり続けている

日本の製造業は生産拠点を海外に移しているため、円安の恩恵を受けられないという俗説が広がっている。しかし、2022年1~3月期の実質輸出の実質GDP比率は19.5%と、現行基準では過去最高となっている。現行基準で遡れる1994年1~3月の8.5%の倍以上となっている。

製造業拠点が海外に移ったとしても、国内生産比率の低下を上回って余りある海外需要の拡大があれば、国内生産量は増加しているはずだ。

更に、実質輸出は財の付加価値が向上する分、かさ上げされる。日本が輸出する財貨の高付加価値化が進み、コストの増加の価格転嫁が容易であることを意味する。円安でも、高付加価値をバックに輸出価格を引き下げる必要はなく、円安がそのまま収益拡大につながる。

そして、グローバル化とデジタル化により、大企業だけではなく、中小企業までグローバルな市場にアクセスできるようになっている。大企業の国内生産比率の低下の議論だけでは、実態を誤解するリスクがある。

10年間のローリング・ベータで実質輸出の円安に対する弾性値を推計すると、0.6(1%の円安で実質輸出は0.6%増加する)まで上昇し、過去に比べても弾性値は高いことが確認された。

円安は日本経済にポジティブであり続けていると考えられる。円安がなければ、製造業の景況感は底割れ、景気後退になっていた可能性もある。

▽実質輸出と実質設備投資の円安に対する弾性値

実質輸出と実質設備投資の円安に対する弾性値
(画像=出所:内閣府、岡三証券、Refinitiv、作成:岡三証券)

▽実質輸出のGDP比率

実質輸出のGDP比率
(画像=出所:内閣府、岡三証券、作成:岡三証券)
会田 卓司
岡三証券 チーフエコノミスト
田 未来
岡三証券 エコノミスト
松本 賢
岡三証券 エコノミスト

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