この記事は2022年6月27日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「資金循環統計(22年1-3月期)~個人金融資産は2,005兆円と2,000兆円の大台を維持、企業の現預金は過去最高、海外勢が日本国債売り」を一部編集し、転載したものです。


資金循環統計
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目次

  1. 個人金融資産(2022年3月末):前期比では10兆円減
  2. 内訳の詳細:家計のリスク性資産への投資が進む
  3. その他注目点: 家計の資金余剰は高止まり、企業の現預金は過去最高、海外勢が国債売り

個人金融資産(2022年3月末):前期比では10兆円減

2022年3月末の個人金融資産残高は、前年比47兆円増(2.4%増)の2,005兆円となり、過去最高であった前期末(*1)に続いて、2四半期連続で2,000兆円の大台を維持した。年間で見た場合、資金の純流入が40兆円に達したほか、円安進行や海外株高などを背景に時価変動(*2)の影響がプラス6兆円(うち株式等がプラス1兆円、投資信託がプラス6兆円)発生し、残高増に寄与した。

四半期ベースで見ると、個人金融資産は前期末(昨年12月末)比で10兆円減と8四半期ぶりに減少した。例年、1-3月期は一般的な賞与支給月を含まないことから資金の純流出が発生する傾向がある(*3)。今回も例年をやや下回るものの、3兆円の資金純流出があった。さらに、この間に米利上げへの警戒やロシアによるウクライナ侵攻を受けて株価が下落したことで、時価変動の影響がマイナス7兆円(うち株式等がマイナス6兆円、投資信託がマイナス2兆円)発生し、資産残高の目減りに繋がった(図表1~4)。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)
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なお、家計の金融資産は、既述のとおり1-3月期に10兆円減少したが、この間に金融負債が4兆円増加しているため、金融資産から負債を控除した純資産残高は12月末比で14兆円減の1,632兆円となった(図表5)。

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ちなみに、足元の4-6月期については、一般的な賞与支給月を含むことから、例年、10兆円余りの規模で資金の純流入が進む傾向がある。この間に進んだ大幅な円安も海外資産の時価上昇に繋がっているとみられる。一方、世界的な金融引き締めによる景気減速懸念によって、4月以降、内外株価が下落していることが資産の目減りをもたらしているはずだ。

こうした諸要因を考慮すると、月末にかけて株価が急落しない限り、6月末時点の個人金融資産残高は3月末比でやや増加する可能性が高い。


*1:今回、年に一度の訴求改定に伴い、2005年以降の計数が遡及改定されている。
*2:統計上の表現は「調整額」(フローとストックの差額)だが、本稿ではわかりやすさを重視し、「時価(変動)」と表記。
*3:直近5年(2017~2021年)の1-3月期の平均は5.0兆円減。


内訳の詳細:家計のリスク性資産への投資が進む

1-3月期の個人金融資産への資金流出入について詳細を確認すると(図表6)、例年同様、季節要因(賞与の有無等)によって現預金が純流出(取り崩し)となったが、その規模は4.7兆円減と例年(*4)をやや下回った。3月末の現預金残高は1,088兆円と前年同期を31兆円上回り、昨年12月末に次いで過去2番目の高水準に留まっている。内訳では、流動性預金(普通預金など)への純流入(3兆円)が進んだ一方、定期性預金は純流出(5兆円)となった(図表7)。

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定期性預金からの純流出は25四半期連続で、この間の累計流出額は74兆円に達している。この結果、定期性預金が個人金融資産に占める割合は19.2%にまで低下している。一方で、この間の流動性預金への資金流入は212兆円に達しており、流動性預金が個人金融資産に占める割合は29.4%にまで上昇している(図表8)。

預金金利がほぼゼロであるにもかかわらず、引き出し制限があって流動性の低い定期性預金からの資金流出には歯止めがかかっていない。定期性預金の残高は未だ387兆円もあるため、今後も大幅な資金流出が避けられない。

次に、リスク性資産への投資フローについては、代表格である株式等が0.4兆円の純流入(前年同期は0.6兆円の純流入)となったほか、投資信託も1.2兆円の純流入(前年同期は1.8兆円の純流入)となった(図表6)。株式は相続対策などから従来、純流出傾向が続いていたが、直近1年間では0.8兆円の純流入に転じている。また、投資信託の純流入は8四半期連続で、この間の純流入額は9兆円弱に達している。外貨預金からの純流出は続いているものの、確定拠出年金内の投資信託が継続的に純流入となっているほか、直近では対外証券投資も純流入に転じている。全体から見れば限定的な動きではあるが、家計のリスク性資産への投資が従来よりも進みつつあると評価できる。直近では、国内でもインフレ懸念がやや高まったことで、家計の一部で資産の現預金偏重に対するリスクが意識され、リスク性資産への投資配分が引き上げられた可能性がある。


*4:直近5年(2017~2021年)の1-3月期の平均は5.2兆円減。


その他注目点: 家計の資金余剰は高止まり、企業の現預金は過去最高、海外勢が国債売り

1-3月期の資金過不足(季節調整値)を主要部門別にみると(図表10)、家計部門の資金余剰額が6.3兆円と前期(11.4兆円の資金余剰)から縮小した。ただし、資金余剰の規模はコロナ前(*5)を明確に上回っている。今年の1-3月期もオミクロン株拡大を受けてサービス消費が抑制されたことが余剰額を押し上げたとみられる。民間非金融法人の資金過不足も1-3月期に資金余剰に転じている。

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一方、コロナ対策の財政出動が続いたことを受けて、政府部門の資金不足額は11.4兆円(前期は7.6兆円の資金不足)に拡大しており、コロナ前の水準を大きく超過した状況が続いている。

3月末の民間非金融法人の借入金残高は12月末から横ばい、債務証券残高は4兆円減少した(図表11)。一方で、民間非金融法人の現預金残高は323兆円と12月末から8兆円増加し、過去最高を更新している。

なお、1-3月期の民間非金融法人による対外投資状況(フローベース)を確認すると、対外直接投資は1.3兆円と、昨年10-12月期の1.6兆円からさらに減少した(図表12)。1.3兆円という規模はコロナ前(*6)を大きく下回る。コロナ禍が終息しない中でロシアによるウクライナ侵攻が発生し、金融市場が混乱したうえ、海外景気の不透明感が高まり、企業の海外投資が慎重化したものとみられる。

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3月末時点の国債(国庫短期証券を含む)残高は1,225兆円で、昨年12月末(1,220兆円)から5兆円増加した。

主な経済主体の保有状況を見ると(図表13)、最大保有者である日銀の国債保有高は531兆円と12月末から1兆円の増加に留まり、全体に占めるシェアも43.3%(12月末は43.4%)とわずかに低下した。1月から2月にかけて、国債買入れペースを抑えていたことが影響した。

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また、海外部門の保有高は12月末比9兆円減の167兆円となり、シェアも0.8%ポイント減の13.6%となった。残高、シェアともに過去最高を記録した12月末から落ち込んでいる。9兆円減という規模はリーマンショック後である2008年10-12月期(12.5兆円減)以来の規模となる。世界的にインフレ・利上げ懸念から債券投資への慎重姿勢が強まったうえ、日銀による金融緩和縮小観測も台頭したことで、海外投資家がそれまで積み増していた日本国債の売却に動いたとみられる。

一方、銀行など預金取扱機関の保有高は昨年12月末比19兆円増の183兆円となり、海外勢の残高を再び上回った。全体に占めるシェアも15.0%(12月末は13.4%)と上昇している。銀行勢などは、金利上昇リスクの高まった米国債投資を手控え、同リスクの低い日本国債への配分を引き上げたとみられる。


*5:2017~19年の四半期平均は3.9兆円の資金余剰
*6:2017~19年の四半期平均は4.1兆円


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上野 剛志(うえの つよし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 上席エコノミスト

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