この記事は2022年4月20日(水)配信されたメールマガジンの記事「岡三会田・田 アンダースロー(日本経済の新しい見方)『財政政策の新目標となるネットの資金需要のレシピ』」を一部編集し、転載したものです。
目次
「ネットの資金需要」を適度なマイナス5%に維持
経済のマネーを拡大したり、家計に所得を回すためには、企業と政府の合わせた支出をする力が必要になります。マクロ経済では、誰かの支出が誰かの所得になるからです。企業の貯蓄率と財政収支を足したものが「ネットの資金需要」となります。
日本では、企業の貯蓄率が上昇する中、新自由主義のマクロ政策運営で財政政策が緊縮すぎて、財政支出が足りず「ネットの資金需要」が消滅してしまいました。経済のマネーが拡大できなくなり、物価の持続的な下落、名目GDPの停滞、そして円高という日本化の形に陥ってしまいました。
家計には所得が回らなくなり、どんどん追い込まれ、中間層まで疲弊して、デフレ心理が経済のすみずみまで固定化することで日本化が完成してしまい、デフレ構造不況から脱却できない新自由主義の失敗となりました。
新しい資本主義のマクロ政策運営で、成長投資と所得分配を中心に積極財政で支出を拡大し「ネットの資金需要」を望ましいマイナス5%程度に誘導していく必要があります。企業貯蓄率がプラスで、企業から総需要を破壊する力がかかり続けている間は、マイナス5%に維持するため、十分な財政赤字が必要だということになります。新しい資本主義の定義は、まずは積極財政の力で新しい目標であるマイナス5%に拡大して、家計に所得を回すことです。
もちろん、米国のように「ネットの資金需要」をマイナス10%より強くしてしまえば、インフレが問題化してしまうことになりますから、そうなってはじめて財政政策を緊縮にすべきです。
「ネットの資金需要」を、0%でもマイナス10%でもなく、適度なマイナス5%に維持することが、新しいマクロの財政規律になります。古い財政運営を維持してプライマリーバランスの黒字化を強行して、またネットの資金需要を消滅させれば、家計に所得は回りませんから、新しい資本主義は失敗してしまうことになります。
1:企業貯蓄率と財政収支を合計した、企業と政府の合わせた支出をする力を表す
2:日銀の資金循環統計と内閣府のGDP統計によって算出 され、四半期末から3カ月以内に算出でき、ネットの資金需要をリアルタイムで捕捉が可能(2022年1月~3月期の結果は6月27日に公表)
3:新自由主義的財政運営で0%近傍に安定させられたことは、新しい資本主義的財政運営の新目標であるマイナス5%近傍に安定させることが可能なことを示す
4:グローバルには景気の状態を考慮する構造的財政収支が財政運営の一般的な目標となっているが、構造的財政収支もGDP統計などで加工したものである
5:内閣府の中長期の経済財政に関する試算では、企業貯蓄率もモデル内で算出されているので、プライマリーバランスと同様に、ネットの資金需要の予測と目標を立てることは可能
▽財政政策の新目標としてのネットの資金需要(企業貯蓄率+財政収支)
企業貯蓄率とネットの資金需要のレシピ
日銀資金循環データ抽出方法
1:日本銀行の「ウェブサイト」にアクセスする。上部タブから統計タブを選択
2:ページ中央部分の時系列統計データ検索サイトをクリック。時系列統計データ検索サイトが開いたら、中央部分のデータコード直接入力をクリック
3:下記のデータコードを入力し検索をクリック
FF'FOF_FFAF100L700
FF'FOF_FFAF410L700
FF'FOF_FFAF420L700
4:金融機関、非金融法人、一般政府の資金過不足の表示を確認し、各チェック項目を選択後、抽出条件に追加をクリック
5:抽出条件部分で抽出期間を入力(最低でも1年以上前からを入力)
6:ページ下部の抽出をクリックし、次に出てくるページでダウンロードをクリック
7:ダウンロードされたCSVファイルを新Excelファイルにコピーする
8:データは億円単位なので、10,000で割り兆円単位に変える
*1998年3月以前は旧資金循環統計(四半期・フロー)を法人企業、金融機関、中央政府、公団・地方公共団体をつかう
GDPデータ抽出方法
1:内閣府の「統計情報・調査結果のページ」にアクセスする
2:ページ中部の国民経済計算(GDP統計)をクリック
3:次のページの中央部分の最新の四半期別GDP速報の統計表一覧をクリック
4:ジャンプしたページの中央部分にある四半期の実額の原系列をダウンロード
5:ダウンロードしたファイルを資金循環統計のデータが入っているExcelファイルにコピー
6:データは10億円単位なので、1,000で割り、兆円単位に変える
企業貯蓄率の計算方法
1:各四半期毎に資金循環統計の金融機関と非金融法人の資金過不足のデータの和を計算
2:計算した過去3四半期の過不足の合計を足し、4四半期累計を計算する
3:それを同じく4半期累計の名目GDPで割り100で掛けたものが、四半期の企業貯蓄率である
4:断層を調整するため、民営化及び資金注入などを考慮し企業の貯蓄率に1998年第1四半期から1999年第4四半期まで、それぞれ2.3、1.8、2.9、3.8、4.6、4.9、5.0、1.6を引く。2003年第2四半期から2004年第1四半期まで1.0を引く
政府貯蓄率(財政収支)の計算方法
1:四半期毎に資金循環統計の一般政府の過不足データと過去3四半期の過不足を足し、4四半期累計を計算。
2:それを同じく4半期累計の名目GDPで割り100をかけたものが、四半期の政府貯蓄率(財政収支)です。
3:断層を調整するため、民営化及び資金注入などを考慮し政府の貯蓄率に1998年第1四半期から1999年第4四半期までそれぞれ2.3、1.8、2.9、3.8、4.6、4.9、5.0、1.6を足す。2003年第2四半期から2004年第1四半期まで1.0を足す。
ネットの資金需要の計算方法
各四半期毎の企業貯蓄率と政府貯蓄率の和が「ネットの資金需要」です。
本レポートは、投資判断の参考となる情報提供のみを目的として作成されたものであり、個々の投資家の特定の投資目的、または要望を考慮しているものではありません。また、本レポート中の記載内容、数値、図表等は、本レポート作成時点のものであり、事前の連絡なしに変更される場合があります。なお、本レポートに記載されたいかなる内容も、将来の投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。投資に関する最終決定は投資家ご自身の判断と責任でなされるようお願いします。