本記事は、竹内義晴氏の著書『Z世代・さとり世代の上司になったら読む本 引っ張ってもついてこない時代の「個性」に寄り添うマネジメント』(翔泳社)の中から一部を抜粋・編集しています。

上司
(画像=polkadot/stock.adobe.com)

若手世代にとって上司は「ガチャ」

以前なら「コミュニケーション」の問題だった世代間ギャップが、多様性という視点に変わりつつある今、これまで「これが正しい」と認識されていたコミュニケーションのスタイルを一方的に押し付けることは、どうやら合わなくなってきた。そんな実態が浮かび上がってきました。

「せっかく育ててやったのに、あいつときたら1年で辞めてしまいやがって……」、というような話をよく聞きます。本人はよかれと思ってやっていることが、相手にとってはネガティブに受け取られてしまっていたのです。

しかも、かつてのような、「一度入った会社でずっと働く」というワークスタイルとは異なり、転職に対する抵抗感が少なくなった今の若手世代は「この人に言っても通じない」と思ったら、すぐに会社を離れてしまいます。先日、研修に伺った、ある企業の人事の方の話です。その会社では、Z世代の離職率が増えているそうです。彼らが離職するとき、よく、こんな言葉を残していくといいます。

「上司が話を聞いてくれない。何を言っても無駄だから、もうあきらめました」

昨今、「上司ガチャ」「会社ガチャ」という言葉があります。「ガチャ」とは、ソーシャルゲームなどで、アイテムを抽選によって購入・取得するしくみのことです。その語源は、カプセルに入った景品を購入するゲーム「ガチャガチャ」。何が出てくるかは運任せなのが特徴です。つまり、上司ガチャとは「上司を自ら選べない」、会社ガチャとは「会社は入ってみないとわからない」という意味です。このバズワードは、若手世代のあきらめの心情をよく表しています。

他にも、「ある日、退職代行サービスの会社から連絡が来て、新入社員が辞めたことを知った」というような話も最近よく耳にします。上司にとっては最悪なケースですが、これも、若手世代がコミュニケーションをあきらめてしまった表れと言えるでしょう。

にもかかわらず、先日も、とある会社の企業研修で、小グループに分かれてざっくばらんにディスカッションをしていたときのことです。ある50代とおぼしき社員がこう言いました。

「今の若いヤツらは全然わかっていない!」

「根性がない」「イヤなことをやるのが仕事だろう」「石の上にも3年という言葉を知らないのか」 ―私も中堅世代のため、そう言いたくなる気持ちはよくわかります。

ただ、自分のこれまでの成功体験や仕事のスタイルを、絶対的な「正しさ」と勘違いし、自分は何も変わろうとせずに、「最近の若いヤツらはわかっていない」と若手社員に変化を求めてばかりでは、ますますギャップが広がり、大きな壁が生じてしまいます。

「正しさ」と「正しさ」がぶつかり合う「vs.構造」

中堅世代の管理職は、「オレは正しい」「あいつらはわかっていない」と思っている。そして、若手世代の部下は「僕は正しい」「あの人に言ってもどうせわかってくれない」と思っている。この、永遠に交わらない、大きな平行線のような世代間の「vs. 構造」が、多くの企業や組織で起こっているようです。

そもそも、それぞれが持つ価値観について、どっちが正しい、間違っている、ということはありません。「私はこう思う」というそれぞれの人の考えは、中堅世代にとっても、若手世代にとっても、どちらも「正しい」のです。

私たちの価値観は、これまで生きてきた時代や環境、メディアから流れていた情報、その中で考えたこと、体験したことによってつくられています。それぞれが過ごしてきた時代に良いも悪いもないように、私たち1人ひとりの価値観には「正しい・正しくない」も「良い・悪い」もありません。しかし、自分主体で相手を見てしまうがために、異なる世代の価値観に「あれは違う」と意味付けをし、歩み寄ろうとしない状況が生まれています。

まるで、どこかの民族紛争のような「vs.構造」が、お互いを傷つけ、不幸にしています。

身近な例を挙げましょう。あなたの部下である若手社員が、LINEで「今日、体調がすぐれないので休みます」とメッセージを送ってきたとします。あなたならどう対応するでしょうか?

「LINEで休みの連絡をよこすとは何事だ。様子が気になるから電話で直接声を聞きたいし、仕事の進捗に支障がないかも確認したいのにそれもできない。そもそも、ビジネスマナーがなってない!」

ここまであからさまに表現しなくても、なんとなくモヤッとしてしまう人は、少なくないでしょう。

一方、若手社員の側からすると、「突然の電話で上司の邪魔をしたくない」「要件はできるだけ早く伝えたほうがいい」と思って、連絡手段を選択しているのかもしれません。これもまた、その相手にとっての「正しさ」です。

自分の「私はこう思う」は、自分にとっては当然正しい。けれども、相手にとっても、別の「私はこう思う」があります。それぞれの「価値観の違い」が、「あの人はわかっていない」という不満やストレスを生じさせているのです。でも、お互いの価値観を主張しているばかりでは、平行線は永遠に交わらないでしょう。

では、どうすれば世代間の「vs.構造」から離れ、世代間ギャップを縮めることができるのでしょうか? 答えは1つ。私たちが「変わる」ことです。

もしかすると、あなたは今「何でオレ(私)が変わらなくちゃいけないんだ」と思っているかもしれません。そう思われるのも当然です。でも、「自分が変わるより、相手を変えるほうがはるかに難しい。だから、気づいている自分が変わろう」。自分を変えられるのは、それだけ柔軟な証拠です。

=Z世代・さとり世代の上司になったら読む本
竹内 義晴
1971年生まれ。新潟県妙高市出身。特定非営利活動法人しごとのみらい理事長。「楽しくはたらく人を増やす」が活動のテーマ。職場の人間関係やコミュニケーションの問題によって生じる、モチベーションやメンタル的な課題を解決し、ビジネスパーソンが楽しく働けるよう、コミュニケーションの講演・研修、講座、コーチング、カウンセリングに従事。また、サイボウズ株式会社にて、ブランディングやマーケティングにも携わる。

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