本記事は、岸和良氏らの著書『DX人材の育て方 ビジネス発想を持った上流エンジニアを養成する』(翔泳社)の中から一部を抜粋・編集しています。
DX人材選定の考え方
DX人材を育成する上では、どのようなキャリア、スキル、資質、能力を持った人材を、どの役割、立場のDX人材として選び、教育や実務を通じて仕事をできるようにするのかを考えることが必要です。そこで、本記事では「DX人材の選定手法と具体的な事例」について説明します。
4種類のDX人材候補者
DX人材として任命する候補人材は、(1)中途採用、(2)新卒採用、(3)外部専門人材の活用(請負契約、準委任契約など)、(4)今いる社員をリスキルしての任命(内部人材のシフト)などがあります。これは各企業の考え方や独自のノウハウで他の候補人材もあり得ますが、ここではこの4つについて言及します。
外部のDX人材の不足
(1)〜(4)のうち、即効性の高いDX人材の調達方法は(3)ですが、昨今のDXの活況を受け、外部の即戦力となるDX人材は売り手市場です。このため、必要な人数が調達できない、発注コストが高く費用対効果の面で得策でない可能性があります。
中途採用も同様です。優秀なDX人材は仕事も選ぶので、その人が望む条件で採用できない可能性もあります。これは、新卒にも同じことがいえます。大学などで専門教育を受けた新卒人材は年収も高騰し、仕事が合わないと入社してくれなかったり、入社してもすぐに辞めてしまったりする可能性があります。
内部人材のDX人材へのシフトを考える
このような理由から、多くの企業は「(4)内部人材のシフト」を検討する必要が生じています。内部人材は、社内の人間関係や業務にも慣れており、旧来型のシステムをDX型に移行する場合は、担当者をそのままシフトできれば、人材の有効活用が可能です。また、社内の人間なので、DXのシステムに必要なノウハウが社内に残るという利点があります。
公募による候補人材の選定
DX人材の候補を考える上で有効な方法は「公募」による方法です。公募は本人の意欲、将来のビジョンなどが反映されるため、新たな仕事にスキルチェンジするに耐えるマインドを見極めることができます。
公募で確認したいこと
一方で、現状の仕事に不満を持っており、今の仕事を辞めたいという気持ちから募集に手を挙げる人がいることには注意が必要です。このような気持ちで新しい仕事に入っても、「やはり面白くない」「向かない」などの理由で、結局別の仕事に目が向きかねません。そこで、公募による人材選定には、「現所属の勤務状況」「新しい仕事で何を得たいか」「何を達成したいか」「どのような意欲があるか」などを確認する必要があります。
筆者の所属する住友生命グループでも、新しい仕事を作る際には、公募が多くなっています。これは、「自分で手を挙げる」ことこそ仕事に取り組む姿勢を測る最も適切な方法と考えているからです。
公募制度運営の留意点
公募する際に重視すべきこととして、公募する以上、そのためのルールをきちんと整備すべきです。たとえば、元の所属が必要以上に「引き止めない」「応募を禁止しない」などのルールを定める必要があるでしょう。新しい仕事に手を挙げる人の多くは自分に自信があり、能力が高い人が多いので、現在の所属長や所属メンバーから見れば大幅な戦力ダウンになることがあります。この結果、手を挙げた人を異動させないような動きに出ることもあります。しかし、このようなことが多くなると公募制度自体の意義がなくなり、手を挙げる人もいなくなります。このため、公募制を採用するなら、基本的に「引き止め」をしないルールを定めるべきです。
- ▶公募制度で導入すべきルール
- 現所属で過度な応募禁止をしない
- 応募した人を引き止めない
- 人事交渉をして応募をなかったことにしない など