特集「不動産業界トップランナーに聞く。アフターコロナ時代の経営戦略」では、各社のトップにインタビューを実施。新型コロナウイルス感染症が収束した後の社会における不動産業界の展望や課題、この先の戦略について、各社の取り組みを紹介する。

今回は、不動産開発、アパート分譲、収益物件売買、賃貸管理、不動産コンサルティングなどを提供する、株式会社MAI代表取締役社長の狩野哲也氏に話をお聞きした。

(取材・執筆・構成=大正谷成晴)

狩野哲也氏
狩野哲也
株式会社MAI代表取締役社長
東京都出身。2007年メルディアグループの中核である(株)三栄建築設計に入社。新築分譲住宅の企画販売業務、用地仕入れ業務等の業務を経て、2018年(株)MAI設立と共に代表取締役社長に就任。同年、メルディアホテルズ・マネジメント(株)代表取締役常務にも就任。その後、木造建築物を主なアセット対象とする会社、2020年メルディア・アセットマネジメント(株)の設立に従事、同会社の非常勤取締役に就任。
株式会社MAI
2018年9月、メルディアグループの母体である株式会社三栄建築設計 アセットインベスト事業部より、Meldia Asset Investmentとしてスタート。本社は東京都新宿区。不動産開発事業、アパート分譲事業、不動産流動化事業、陳摶管理事業を手掛ける。

東証プライム市場に上場する三栄建築設計が母体

―― MAI様について教えてください。

MAI代表取締役社長・狩野哲也氏(以下、社名・氏名略):MAIは、高い居住性・デザイン性を持つ住宅の提供を中心に、さまざまな建築工事および不動産の提供を通じて「暮らし」を豊かにし、そこに住まう人々に幸せを提供するメルディアグループのグループ企業です。同グループの母体で、東証プライム市場に上場している三栄建築設計のアセットインベスト事業部から独立する形で、2018年にMAI(Meldia Asset Investment)としてスタートしました。

株式会社MAI
(画像=株式会社MAI)

母体(三栄建築設計)は、木造戸建ての分譲事業がメインです。MAIはコア事業の木造建築をいかし、木造アパート分譲を柱に、不動産開発や不動産流動化、賃貸管理など、不動産投資部門の事業を展開しています。

従業員は約50名。そのうち半数がアパート分譲事業に従事し、売上のほぼ半分を占めています。1都3県で、用地取得から企画・設計を行い、三栄建築設計が施工。グループ販売会社のメルディアリアリティが中心となって投資家様に売却するという流れです。

▼売却までの担当

株式会社MAI
(画像=株式会社MAI)

販売した物件の全てではありませんが、賃貸管理も行っています。2020年9月にはMAIと三栄建築設計が出資してメルディア・アセットマネジメント(MAM)を立ち上げ、木造建築物を主軸にした不動産ファンド事業を展開しています。将来的には私募REITを組成したいと考えています。

―― 幅広く事業を行っていますが、MAI様の物件の特徴を教えてください。

分譲するアパートは、基本的には駅から徒歩圏内で、新築ながら平均利回り7%を実現しています。幅広い年代の方にご購入いただいていて、資産家や高年収のビジネスパーソンなど、客層はさまざまです。関東と関西のお客様が特に多くいらっしゃいます。

事業を始めた当初は、木造2~3階建の6世帯で価格は6,000万円といった小ぶりのアパートを建てていました。しかし、現在は、三栄建築設計の技術力の高さを武器に4階建のアパートや10~20世帯が入る、1件当たりの価格が1~2億円の大きな物件を扱うようになりました。

一般的に、投資用物件といえば鉄筋コンクリート造(RC)を思い浮かべるかもしれません。木造は、鉄筋コンクリート造に比べて建築コストを圧倒的に抑えられるのが強みです。同じ規模ならば、最大で5割~6割の費用で建築することが可能なのです。その結果、RCが表面利回り3~4%で販売するところ、MAIは表面利回り7~8%で販売しています。投資効率の良さは折り紙付きで、運用後のメンテナンスコストも木造のほうが安上がりです。

「木造建築物は、RCに比べて耐久性が劣る」と言う人はいますが、アメリカでは100年間も維持されている木造戸建てがたくさんあります。MAIの物件は、劣化対策等級(住宅を長持ちさせるための対策の評価)の最高評価「3」を標準で取得していて、安全・安心な耐久性を実現しています。

耐震等級を満たすことで、高い耐震性も担保しています。ファンドで保有している物件の耐用年数も50年と認められました。そのことがお客様に評価いただけたのか、前々期は66棟、前期は86棟を分譲していて、今期は100棟に達する勢いです。

国産材の仕様を通じて地球温暖化防止に貢献

―― 建築に使用する木材は国産にこだわっているとお聞きしました。その理由を教えてください。

木造建築を通じて、国内の森林資源保全や二酸化炭素排出削減に貢献したいからです。MAIは、2021年5月以降に上棟した物件については順次、国産材仕様に切り替えています。現在、使用率は100%に近い水準を実現しています。

木造建築物は、他構造の建築物比で約4倍の二酸化炭素排出抑制効果があります。また、材木製造時においてはRCに比べて約4倍の二酸化炭素排出抑制効果があります。木材の製造・流通・再生のあらゆる段階で他建築物に比べると地球環境への優位性は高くなります。さらに、国産材は輸入材にように長い距離・時間をかけて輸送することがなく、その分の二酸化炭素排出を削減できます。

日本では、戦後から植林が活発に行われ、樹齢50~70年を迎えた木がたくさんあります。しかし、樹齢50年ほどをピークに、樹木の二酸化炭素の吸収量は下がっていきます。山に木がたくさんあれば環境によさそうに思えますが、古いものは伐採して若木に入れ替えることが重要なのです。

全国各地で河川の氾濫被害が起きています。その要因の1つは、「川の上流にある山の保水力が低下しているためだ」と言われています。本来、雨が降ると雨水は一気に谷に流れ込むのではなく、地中に浸透してから、湧き水としてゆっくり出てきます。森林が育つためには水が必要で、土壌が吸い込んだ雨水を根が保水すると同時に、蒸散により土壌中の水を消費するからです。ところが、日本では適正に管理されている山が少なく、こういった「水源涵養(かんよう)機能」が低下しているのが実情です。その結果、多くの雨水が川に流れ込み、河川の増水・氾濫を招いているのです。

水源涵養機能を維持・回復させる手段の1つが「木の植え替えだ」と言われています。二酸化炭素の吸収量増加や減災のために、国内の植林のサイクルを回す必要があり、そのためにMAIは国産材を積極的に使いたいと考えているのです。

近年は、世界的な気候変動や災害の発生を背景に、金融機関や投資家の間でSDGsやESG投資が注目されるようになりました。環境に配慮した投資を志向する企業・個人が増えてきて、森林の再生につながる意義ある投資先としてもMAIの取り組みは注目されています。

―― 他の事業についてもご紹介ください。

「不動産開発事業」と「不動産流動化事業」についてご説明します。

「不動産開発事業」では、ホテル・オフィスビル・商業施設の開発を手掛けています。グループ内でホテル運営をしているので、一貫したサービスの提供が可能です。

「不動産流動化事業」では、収益性が高い物件を独自のネットワークで買い取り、最大のバリューアップを図ったうえで、投資家様へより収益性の高い商品として供給しています。対象エリアは全国の主要都市で、集合住宅やオフィス、商業施設、分譲住宅など、全ての不動産物件で、事業性のあるものを選別し、投資・売買を行っています。

2021年12月、MAIと三栄建築設計が保有する新築木造アパート(国産材を使用した棟を含めた合計29棟)を投資対象として、不動産ファンド「メルディア・グリーンリカバリー1号」をMAMが組成し、運用を始めました。木造建築物を投資対象とした「ESG投資」の位置付けで、ファンドの規模は約30億円(ローン金額約20億円、匿名組合出資額約10億円)、運用期間は6年、想定年利回りは5.5%程度を見込んでいます。

先ほど申し上げた通り、将来的には私募REITの組成を目指し、MAMの運用する投資ファンド資産としては200億円程度の規模を視野に入れています。

国産材を取り巻くコスト上昇を抑える施策が急務

―― 近年は「ウッドショック」と呼ばれる、建築用木材の価格高騰が話題です。その他、業界が直面する課題やその解決策についてお聞かせください。

コロナ禍では、アメリカ国内でDIY需要が高まり、現在はウクライナ情勢も影響し木材の輸出が滞っています。加えて、輸出に伴う輸送コストや円安、これらが総合的に影響し外国産の建築用木材の価格が急激に上昇しました。これに伴い国産材の需要が高まり、価格にも反映されつつあります。外国産に関しては物流コストなど、どうしても抑えきれない部分はあるでしょうが、国産材は植え替えを促すなど、コストを安定させて供給したいと思っています。

品質に関しては、木造建築物がより長く持つようにするための取り組みが必要です。以前は、20~30年で壊して建替えることが主流でしたが、環境や経済的な観点から、そうではなくなりつつあります。MAI維持や管理の手法を見直すなど、調査や研究を進めていきます。

これらの課題を背景に、2021年4月に三栄建築設計、オープンハウスグループ、ケイアイスター不動産の分譲住宅メーカー3社が手を組み、日本の森林問題・環境問題を国産材の利用を通じて解決することを目的とした「一般社団法人 日本木造分譲住宅協会」を設立しました。木造分譲住宅の発展、環境保全の推進に取り組み、2022年6月現在、賛助会員28社、SDGs会員16社にご参加いただいています。

木造建築物の可能性を広げることが今後の展望

―― 今後の目標や展望についてお聞かせください。

2022年6月現在の売上が200億円弱です。5年後には350億円規模、具体的な数字は挙げられませんが、10年後は少なくとも500億円以上を狙いたいと思います。そのためには、住宅だけではなくオフィスや商業施設、高齢者施設など、木造建築物の可能性を高めることが肝心です。

近年では、大手メーカーによる木造の高層ビルも出てきましたが、MAIも4階建ではなく5階建て、10階建ての木造建築物を建てるなど、ラインナップと規模の両面から商品の幅を広げ、木造建築物を普及させながら売り上げを伸ばしたい考えです。

カバーエリアも拡充していきます。現在、大阪でのオフィス開設を進めていて、京都や滋賀でもアパート分譲事業を展開する予定です。いずれは中京圏や福岡でも事業を始めたいと思います。

具体的な立地は大都市の中心地とは限りません。首都圏ではワンルーム事業者が都内の好立地を中心に事業を行っていますが、MAIは戸建て分譲の延長です。大きな駅ではなくても住宅需要のある場所で適正な賃料と利回りを設定すれば、投資家様にアパートをご購入いただくことができます。中心地から少し離れたほうが利回りは高くなります。

日本は人口減少の局面に入っていますが、首都圏を始めとした一部の都市では人口が増えています。賃貸ニーズを見極め、単身者、DINKS、ファミリー向けのアパートを供給していきます。少子化に伴い、単身者やDINKSは今後も増えると予想していますし、実需の購入者は減ると思っています。賃貸物件に対する需要は継続するだろうと考えています。

MAMの事業により、意義のある投資商品を作っていきたいです。適切に運営できるファンドであれば、投資家様にご注目いただけるでしょう。運用が好調であれば用地取得がしやすくなり、ファンドも運用商品を確保しやすくなります。好循環を作って規模を拡大したいと思います。

―― 賃貸物件の運営は、投資家にとっても関心の高い分野です。最後にメッセージをお願いします。

MAIは住宅等の作り手ですから、安心・継続して投資することができる商品を供給するのが務めです。そのために、ここで述べたような取り組みを今後も加速させていきます。