株主優待を廃止する企業が少しずつ増えています。株主優待を目的に投資を行っている人には心配な傾向でもあります。企業はなぜ株主優待の廃止に踏み切るのでしょうか。そして、今後もこの動きは拡大するのでしょうか。

本記事では、廃止される可能性がある株主優待と、される心配の少ない株主優待の見分け方を紹介します。

株主優待を廃止する企業が増えている

株主優待に廃止の動き?廃止される優待とされない優待の見分け方
(画像=78art/stock.adobe.com)

2022年にJT(日本たばこ産業)、オリックスなどから、株主優待の廃止が相次いで発表され、優待投資家の間に衝撃が走りました。株主優待の内容はJTが自社商品の詰め合わせ、オリックスはカタログギフトです。

野村インベスター・リレーションズが発表している2022年上半期の株主優待アクセスランキングでオリックスが1位、JTが9位という人気優待だっただけに、株主の失望感も大きなものがあったと想像できます。

株主優待を実施している企業数は、2022年7月7日現在で1,471社(SBI証券の株主優待検索登録社数)となっています。2021年3月末現在では1,516社(野村インベスター・リレーションズ調べ)あったので、45社減少したことになります。

日本経済新聞の報道によると、2020年10月から2021年9月までの1年間で75社が株主優待を廃止し、過去10年で最も多くなっています。その後も2021年10月から2022年6月末までの8ヵ月間で51社(大和インベスター・リレーションズ調べ)が廃止に踏み切っており、廃止する企業が増える流れが続いています。

ただし、新設する企業もあるため、実施企業の総数は横ばいになっています。

株主優待は公平な株主還元に反する?

株主優待を廃止する企業はどのような理由で廃止を決定したのでしょうか。企業のプレスリリースのなかで「公平な株主還元の観点から、株主優待を廃止することに決定しました」という文言をよく見かけます。

公平な株主還元とは、出資株数に比例して利益が還元されることを意味します。1株配当10円の企業の場合、100株保有株主は1,000円、1,000株保有株主は1万円の配当金を受け取ることができます。

これに対し株主優待は「100株以上の株主は1,000円相当、1,000株以上の株主は3,000円相当の自社商品を贈呈」など株数に比例した優待内容になっていない例が多く見られます。これでは株数を多く保有する株主ほど還元率が低いという結果になります。これが公平な株主還元に反するという理由です。

アクティビスト(もの言う株主)が株主提案で増配を要求するケースが増えていることも影響しているかもしれません。とくに外国人投資家にとって株主優待はあまりメリットがないので、批判の対象になりやすい傾向があります。

企業側も株主優待を廃止して配当による還元を重視する姿勢を示すことで、アクティビストの批判をかわす狙いがあるものと思われます。

廃止される可能性が高い株主優待のタイプ

株主優待の廃止が増えてくると、優待投資家は戦略の練り直しが必要になります。廃止発表による株価の急落を考慮して投資しなくてはならないからです。また、優待廃止の可能性が高い企業と低い企業の傾向を把握しておく必要があります。

廃止されるリスクが高いと思われるのは以下のような株主優待です。

【廃止される可能性が高い優待内容】

・QUOカードなどの金券類
QUOカードの贈呈は現金に近い性格の株主優待です。導入しやすく廃止もしやすいという特徴があります。株主優待情報サイト「楽しい株主優待&配当」が発表している2022年1月~2022年6月の間に廃止された株主優待のうち、QUOカードを贈呈していた企業が12社(上場廃止による株主優待終了を除く)と断トツで多い結果となっています。ギフトカード、商品券も同様に現金に近いことから廃止して配当に振り向けられる可能性があります。

・カタログギフト
カタログギフトは株主には好評でも、実施企業にとっては負担が大きい株主優待の代表です。株主にカタログを送付して注文を受け付け、発送の手配までしなければならず手間がかかります。株主数の多い企業であれば今後廃止を検討する企業が出てもおかしくありません。

【廃止される可能性が高い企業のタイプ】

・業績が悪化している企業の株主優待
業績が悪化すると株主優待を実施する余裕がなくなる場合があります。廃止しないまでも優待品の金額を下げたり、優待獲得最低株数を引き上げたりといった改悪が行われるリスクがあることに注意する必要があります。

・個人株主が増えすぎた企業の株主優待
個人株主が大幅に増加している企業も要注意です。優待廃止で大きな話題になったオリックスも、株主優待の人気により株主数が2020年3月期の約60万人から、2022年3月期には約78万人と2年間で約18万人も急増しています。株主優待の負担増加が優待廃止の一因になった可能性もあります。2020年に優待を廃止したトラスコ中山は、廃止の理由に株主数急増によるコスト増を挙げています。

廃止される可能性が低い株主優待のタイプ

逆に廃止される可能性が低いと思われるのは以下のような株主優待です。

【廃止される可能性が低い優待内容】

・割引券
割引券は商品券タイプと違い、株主がお金を使って初めて割引されるので、企業側の負担が少ない株主優待といえます。自社商品の割引販売も同様に企業側の持ち出しがないので、廃止される可能性は低いでしょう。

・招待券
招待券は意外と廃止されるケースが少ない株主優待です。映画会社の招待券贈呈はどんなに不況のときでも廃止されるケースはほとんどありませんでした。映画館は1,000人入っても100人入っても運営経費は同じなので、招待客でも席を埋めてくれたほうがよいという事情があります。遊園地や博物館なども同じ理由が考えられます。

【廃止される可能性が低い企業のタイプ】

・優待内容が安定している企業の株主優待
毎年同じ内容の株主優待を長期間にわたって実施している企業は廃止する可能性が低いといえます。逆に年によって優待内容を頻繁に変える企業は、廃止または改悪する可能性があるので注意が必要です。

・株主優待に積極的な企業の株主優待
食品メーカーのカゴメは株主を「ファン株主」と呼び、株主優待を個人株主増加の重要な戦略と考えています。10年継続して保有した株主には「10年記念品」を贈呈しているほどです。このように株主=自社の強固な固定客と考える企業は、廃止する可能性が極めて低いでしょう。

今後の株主優待の見通し

今後株主優待はどのような方向に向かうのでしょうか。廃止する企業が増えている一方で、新設する企業もあるため、実施企業の総数はそれほど減らないという見方があります。

廃止する理由としては、2022年4月の東証再編によってプライム市場の必要株主数が旧東証1部の上場基準2,200人から800人へ大幅に緩和されたことが挙げられます。これによって株主数を満たすために株主優待を実施する必要性は薄れたため、株主優待を継続する理由が減ったことは事実でしょう。

一方新設する理由としては、流通株式時価総額が新市場区分の基準を満たしていない企業は、上場維持のために株価を上げて時価総額基準をクリアする必要があります。株主優待を導入することで自社へ投資する魅力を高め、時価総額の向上を狙う戦略です。

東証再編をきっかけに株主優待を廃止する企業と新設する企業で対応が分かれていますが、個人投資家にとって株主優待が株式投資の魅力を高めるツールであることに変わりはないでしょう。

※本記事は株主優待実施の一般的な傾向を紹介するものであり、企業によってはケースにあてはまらない場合もあります。参考程度にお考えください。

(提供:Incomepress



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