不動産投資家にとって、銀行などの金融機関は事業に必要な資金を調達するためにきわめて重要な存在です。融資を受けることができなければ不動産投資の計画自体が絵に描いた餅に終わってしまう可能性もあるため、自身に最適な金融機関を選び、しっかり審査に通る必要があります。
そこで本記事では不動産投資向けの融資について、個人投資家にとって現実味のある金融機関の種類と選び方、そして融資審査をクリアするためにできることを解説します。
なお、不動産投資にはマンション経営やアパート経営、さらにはマンション経営にも新築や中古、一棟や区分といった細かい分類がありますが、ここでは一般的な不動産投資向け融資について紹介します。
目次
1.不動産投資成功のカギを握る金融機関選び
ほとんどのケースにおいて、不動産投資では金融機関の融資を利用することが前提になります。融資を受けなければ収益物件の購入費用を用意することができないというのはもちろんですが、不動産投資で融資を利用するメリットは他にもあります。
1-1.融資を活用してこその不動産投資
不動産投資では金融機関の融資を利用することで初期投資に必要な金額を調達できるだけでなく、レバレッジ効果を味方につけることができます。このレバレッジ効果のレバレッジとは「てこの原理」の「てこ」のことで、少ない資金で大きな投資効果が得られる効果のことです。
例えば自己資金が500万円で残りの4,500万円を融資で調達し、5,000万円の新築区分マンション物件を購入したとします。投資額の大半は金融機関からの融資ですが、だからといってこの物件で得られる家賃収入の大半を金融機関が回収するわけではありません。投資額の大半が融資によるものであっても、家賃収入の全額がマンションオーナーの収入になります。
このように一部の自己資金だけで満額の家賃収入が得られるため、不動産投資のレバレッジ効果は投資効率を高めるうえで重要なメリットです。そしてこのメリットを実現するには、金融機関の融資が必要になるわけです。
1-2.金融機関の種類はとても多い
一口に金融機関といっても、その種類は多岐にわたります。誰もが知っているような大手メガバンクから地方銀行、信用金庫、信用組合、ノンバンク、政府系金融機関まで、これらの金融機関ではいずれも不動産投資向けの融資を取り扱っています。
これから不動産投資家になろうと考えている方にとっては、これらの金融機関のいずれかが融資の申し込み先になるでしょう。
1-3.金融機関の融資が厳しくなっている
不動産投資ブームと呼ばれる時期がありました。「サラリーマン大家」という言葉がよく用いられ、本業を持ちながら不動産投資に取り組むことで別の収入源を持つことに魅力を感じた人たちが続々と参入したことによってブーム化したわけですが、ブーム化したことでその弊害ともいえるような事件が起きました。
その代表的なものが、スルガ銀行による投資用不動産向け融資で起きた不祥事です。融資の審査に通りやすくするように収入を証明する資料の改ざんなどを行ったことが問題視され、同行は業務改善命令の処分を受けることとなりました。この不祥事は他の金融機関にも影響が波及し、個人投資家向けの融資審査が厳しくなったといわれています。
さらにコロナ禍も投資用不動産向け融資に影響を与えていると見られ、野村不動産による「2021年度 不動産投資に関する意識調査」でも約3割の投資家が融資の審査が厳しくなったと回答しています。
新築区分マンション投資だけでなく、ほとんどの不動産投資において金融機関の融資は前提になります。その金融機関が審査を厳格化している事実は、金融機関選びにおいても留意しておくべきことでしょう。
2.不動産投資家にとって現実味のある金融機関5つ
個人の不動産投資家、もしくはこれから不動産投資に参入しようとお考えの方にとって現実味のある金融機関には、以下のようなものがあります。
・ネット銀行
・信用金庫、信用組合
・ノンバンク
・日本政策金融公庫
この5つについて、不動産投資初心者の方々が知っておくべき情報を、最新事情を交えながら解説します。
2-1.地方銀行
「地方」銀行という名称のとおり、それぞれの地方を営業エリアとして地域に根ざした営業活動をしているのが、大手メガバンクとの大きな違いです。
地方銀行の営業エリアに在住している人、営業エリア内にある物件が融資の対象というのが原則ですが、かつてスルガ銀行のように地方銀行でありながら全国的に不動産投資向けローンを展開した銀行もありました。これは珍しいケースでしたが、先述したような不祥事によって今は昔となっています。
なお、スルガ銀行の件もあって地方銀行は新規の不動産投資向けローンの審査を厳しくしているともいわれています。
2-2.ネット銀行
既存の銀行と違って実店舗をほとんどもたず、ネット上で営業をするのがネット銀行です。金融の世界では新興勢力といえ、楽天銀行や住信SBIネット銀行などが有名です。
ネット銀行が提供している不動産関連の融資は不動産担保ローンと銘打ったものが大半で、不動産を所有している人がそれを担保にお金を借りることができる商品です。そのため、不動産を持っていない人が不動産投資に参入する場合には使えません。相続などで取得した既存の不動産がある人などは不動産投資の資金調達に利用できます。
2-3.信用金庫、信用組合
地方銀行と同様にそれぞれの営業エリアをもち、主にその中で融資をしているのが信用金庫や信用組合です。あくまでも目安ですが、地方銀行は都道府県、信用金庫や信用組合は市町村単位で営業エリアを設定していると考えるとイメージしやすいと思います。
地方銀行よりも地域密着の色合いがより強く、個人投資家に対しても親身になってくれる存在です。そのため個人投資家が不動産投資の資金調達をする金融機関としても有力で、これから不動産投資に参入したい方は考慮すべき選択肢でしょう。
これら地域の金融機関は普段からの取引関係が審査に大きく影響を及ぼす特性がありますが、それも含めて次章で詳しく解説します。
2-4.ノンバンク
ノンバンクとは、大手メガバンクや地方銀行などの銀行ではないものの不動産投資向け融資を提供している会社のことです。銀行と違って融資はするものの預金を集めることはないのが特徴で、住宅金融専門会社や信販会社などが不動産向けのローン商品を取り扱っています。
収益物件を取り扱っている不動産会社と提携しているノンバンクを紹介される形で融資を申し込むと審査に有利になる傾向があるため、ノンバンクも含めて提携金融機関がどれだけあるかも、不動産会社の「実力」といえるでしょう。
2-5.日本政策金融公庫
上記までの金融機関はいずれも民間企業ですが、この日本政策金融公庫だけは唯一、国が設けている政府系金融機関です。不動産投資向けに特化した融資を行っているわけではなく、新規に事業を始める人のための融資を取り扱っているため、その中に不動産投資も含まれるという位置づけになります。
注意するべき点は、「投資」向けの融資を行っていないことです。あくまでも「事業」である必要があるため、それについては次章で解説します。
3.初心者はどの金融機関を選ぶべきか
個人投資家が検討するべき金融機関のうち、これから不動産投資を始める人が検討するべき金融機関を以下の3つに絞りました。
・ノンバンク
・日本政策金融公庫
この3つの金融機関について知っておくべき情報と、融資の審査を攻略するポイントについて解説します。
3-1.選択肢1:信用金庫、信用組合
信用金庫や信用組合をすでに利用している方であれば、その特性も含めてご存じかと思いますが、一般の銀行しか利用したことがない方にとってはなじみの薄い存在かもしれません。
信用金庫は会員、信用組合は組合員といったように、それぞれの金融機関で融資を受けるには原則として会員・組合員の資格が必要になります。
こうした制度からも想像がつくように、信用金庫や信用組合は日常的な取引関係が融資の審査に強く影響します。そもそもこれらの金融機関は営業エリアの経済振興のために融資活動をしているため、地元の有力者からの紹介を得られると融資を受けやすくなるといった事情もあります。
今すぐ不動産投資を始める具体的な予定がなくても、将来の融資を見据えて地元の信用金庫や信用組合に口座を開設し取引関係を持っておくことも1つの準備になります。
なお、地域とのつながりを重視する金融機関だけに、担当者による対応のばらつきが大きいのも特徴です。そのため、1つの金融機関がだめだったとしても他の金融機関に相談してみる価値はあります。こういった特性も熟知したうえで信用金庫や信用組合を選ぶと、長く取引できるところが見つかりやすくなります。
3-2.選択肢2:ノンバンク
不動産会社からの紹介を受けて利用する場合、審査に有利になり、さらに迅速な融資が期待できるなどのメリットがあるのがノンバンクです。
融資をすることが本業だけに、小さな金額からでも融資を受けられるなどきめ細かいサービスを提供している点も個人投資家向きといえるでしょう。そのため、価格の安い物件であっても使いやすいといわれています。
3-3.選択肢3:日本政策金融公庫
3つめの選択肢として挙げるのは、政府系の金融機関である日本政策金融公庫です。地方銀行や信用金庫、信用組合のように営業エリアが決まっているわけではなく日本全国どこでも対応可能なので、地域に有望な金融機関がない場合にも有効です。
他の金融機関は事業として融資をしていますが、この日本政策金融公庫だけは違います。収入の低い人や事業規模の小さい人などが経済的な不利益を被ることなく成長できる機会を提供することが目的なので、年収が低くて他の金融機関の審査に通りにくい人にも門戸が開かれています。
融資を受けるためには、全国各地にある日本政策金融公庫の窓口にアポイントを取って相談をすることからスタートします。あくまでも事業に対して融資を行う金融機関なので、「投資」ではなく新規に「事業」を始めたいという趣旨で相談に臨む必要があります。
事業計画書を作成してその事業の有望性などを伝える必要がありますが、融資を受けるまでの進め方も含めて相談をすると何が必要かをレクチャーしてくれます。
なお、全国各地にある日本政策金融公庫の担当支店は以下のページで検索することができます。
4.金融機関の審査を知って正しく攻略しよう
不動産投資では数千万円規模の融資を受けることになるため、金融機関の審査もその金額に見合ったものになります。個人がカードローンで10万円を借りるといった場合の審査とは事情が異なるので、金融機関の審査をしっかりと理解して審査に通りやすくなるよう攻略していきたいものです。
4-1.金融機関は何を審査しているのか
ここまで「審査」という言葉を頻繁に用いてきましたが、そもそも金融機関は不動産投資向けローンの申し込みに対して何を審査しているのでしょうか。審査の項目は、大きく2つの項目に分けられます。
・物件の収益性、資産価値
1つ目の本人の属性とは、申し込みをする人(つまり不動産オーナーになる人)の職業や年収、勤続年数、家族構成といった返済能力に関する情報です。借りたお金をしっかり返済できるだけの能力と意思があるかが審査されます。
もう1つは、物件に関する審査です。不動産投資では物件に収益力がなければ返済の原資も生まれませんし、資産価値が高くなければ万が一返済不能に陥ったときに物件の価値だけでは回収が困難になります。
この2つを審査して返済能力と意思に問題がなく、物件にも十分な収益力と担保価値があると見なされると審査合格となります。もちろん属性の高い人は審査に通りやすくなりますし、フルローンが可能になるなど融資の条件もよくなります。
4-2.直接話を聞いてみよう
融資の審査についてはどの金融機関も内容を明らかにしてはおらず、案件によってケースバイケースの側面が強いため、表層的な情報だけでは分かりにくい部分が大いにあります。ネット上には不動産投資向けローンの情報があふれていますが、それはあくまでも他人の経験談や実績であり、これから申し込みをする融資の話ではありません。
表層的な情報だけを鵜呑みにするのではなく、まずは話を聞いてみることが重要です。金融機関も融資実績を伸ばしたいことから、特に地域に密着している信用金庫や信用組合といった金融機関では親身になって対応してくれる可能性が高くなります。
アポイントを取り直接話を聞いてみて、何が必要なのかを知ってから行動しても遅くはありません。
4-3.金融機関の審査を攻略する方法5選
明らかになっている部分は少ないものの、金融機関の審査について一般的に知られている部分をもとに審査に通りやすくする攻略法を5つの項目にまとめました。新築区分マンションを含む不動産投資全体に通用する攻略法なので、審査に不安がある方は意識してできるものから実践してみてください。
4-3-1.自己資金を多く用意する
収益物件の購入に必要な金額のうち、できるだけ多くの金額を自己資金として用意するのは有効です。借入金が減るので審査に通りやすくなるという理由もありますが、それだけではなく「資金を用意した事実」が大きな意味をもちます。
不動産投資を始めるために努力をして自己資金を準備したことにより、堅実にお金を管理できる人であると評価され、事業に向けた本気度も伝わりやすくなります。
金融機関は数値だけの情報ではなく、こうした人間的な部分も考慮して審査をしているため、自己資金を多く用意することでさまざまな理由から審査を有利にすることができます。
4-3-2.返済期間を短くする
不動産投資向けローンの多くは最長期間が35年に設定されていますが(一部それよりも短い金融機関もあります)、これはあくまでも最長期間です。借入期間が長くなるほど金融機関にとってリスクは高くなるので、逆に借入期間を短くすると審査の際に有利に働くでしょう。
借入期間を短くすると毎月の返済額は大きくなりますが、現役世代のうちに完済できることを目安にそれよりも短くすると返済能力に対する安全性が高いと評価され、審査に通りやすくなる可能性があります。
4-3-3.不動産会社が提携している金融機関を利用する
収益物件を提案、販売している不動産会社には提携している金融機関があります。その金融機関の顔ぶれを見ると不動産会社の実力がわかるともいわれているほど重要で、特に融資を申し込むアテがないのであれば、不動産会社が提携している金融機関に融資を申し込むのが無難です。
有力な金融機関と取引関係がある不動産会社は金融機関からも高く評価されていると推測できるため、融資を受けやすくなります。
4-3-4.取引関係、信頼関係を構築する
地域密着型の金融機関では、日常からの取引関係がとても重要です。すでに何か事業をしていて地方銀行や信用金庫、信用組合などと長年にわたる取引関係があるのであれば、不動産投資ローンを申し込む選択肢としても第1位になるでしょう。
そのような既存の関係がなくても、将来の不動産投資を見越して地域の金融機関と取引関係を構築しておくことはとても有意義です。会社レベルの付き合いだけではなく、担当者との人間関係を構築しておくと、不動産投資のために資金が必要になった際も融資に申し込みやすくなるでしょう。
4-3-5.資産価値、収益性の面で申し分ない物件を選ぶ
申し込みをする本人の属性だけでなく、物件の収益性や資産価値が入念に審査されるのは不動産投資向けローンならではの特徴です。新築であれば築年数に申し分はありませんが、それ以外であれば築年数、立地、建物の質、災害リスクなど、不動産投資の成功だけでなくその前段階にある融資の審査も意識した物件選びが必要です。
もちろん不動産会社もそれを心得ているので、物件の提案を受けた際には融資の審査に向けてどのような強みがあるのかもしっかり説明を受けましょう。
5.まとめ
不動産投資初心者に向けて、不動産投資を実行するために前提となる金融機関の種類と選び方、審査攻略法について解説しました。融資を受けなければせっかくの計画も絵に描いた餅になってしまうので、そうなることのないよう金融機関の特性をしっかりと理解して万全の態勢で審査に臨みましょう。
(提供:Dear Reicious Online)
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