この記事は2022年8月8日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「米雇用統計(22年7月)-雇用者数および賃金上昇率は市場予想を上回り、労働市場の堅調な回復持続を確認」を一部編集し、転載したものです。
目次
結果の概要:雇用者数は市場予想を大幅に上回ったほか、失業率は横這い予想に反し低下
8月5日、米国労働統計局(BLS)は7月の雇用統計を発表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+52.8万人の増加(*1)(前月改定値:+39.8万人)と、+37.2万人から上方修正された前月、市場予想の+25.0万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)を大幅に上回った(後掲図表2参照)。
失業率は3.5%(前月:3.6%、市場予想:3.6%)と前月からの横這いを見込んだ市場予想に反し、前月から▲0.1%ポイント低下した(後掲図表6参照)。労働参加率(*2)は62.1%(前月:62.2%、市場予想:62.2%)とこちらも前月からの横這い予想に反し、前月から▲0.1%ポイント低下した(後掲図表5参照)。
*1:季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
*2:労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。
結果の評価:雇用者数の増加幅、賃金上昇が加速し、労働市場の堅調な回復持続を確認
7月の非農業部門雇用者数(前月比)は、市場予想のほぼ2倍となり、22年2月(+71.4万人)以来の水準となった。このため、雇用者数は足元で雇用の伸びが再び加速していることを示した。また、当月の雇用増加によって雇用者数は漸く新型コロナ流行前(20年2月)を3.2万人上回る水準まで回復した。
一方、労働参加率は2ヵ月連続で低下し、労働供給の回復が遅れていることを示しているものの、雇用者数に続き失業率も新型コロナ流行前の水準に低下した。
時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比+0.5%(前月改定値:+0.4%、市場予想:+0.3%)と+0.3%から上方修正された前月、市場予想を上回った。また、前年同月比は+5.2%(前月改定値:+5.2%、市場予想:+4.9%)と、こちらは+5.1%から上方修正された前月に一致し、低下を見込んだ市場予想を上回った(図表1)。この結果、前年同月比でみた時間当たり賃金は前月から横這いとなったものの、22年3月の+5.6%で頭打ちした可能性を示した。
このようにみると、先日発表された22年4-6月期の実質GDP成長率が2期連続でマイナス成長率となり、テクニカル・リセッションに抵触したことから、米国経済は既にリセッション入りした可能性が懸念されている。しかしながら、7月の雇用統計は堅調な労働市場の回復持続を示しており、労働市場からは米経済が未だリセッション入りしていないことを示す結果と言えよう。
事業所調査の詳細:広範な業種で雇用の伸びが加速
事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+40.2万人(前月:+35.3万人)と前月から雇用の伸びが加速した(図表2)。
民間サービス部門の中では、専門・ビジネスサービスが前月比+8.9万人(前月:+9.1万人)、小売業が+2.2万人(前月:+2.2万人)、運輸・倉庫が+2.1万人(前月:+2.1万人)と前月並みの伸びを維持した。一方、娯楽・宿泊業が+9.6万人(前月:+7.4万人)、医療・社会扶助サービスが+9.7万人(前月:+8.8万人)、金融サービスが+1.3万人(前月:+0.6万人)と前月から雇用の伸びが加速した。
財生産部門は前月比+6.9万人(前月:+5.1万人)と前月から雇用の伸びが加速した。製造業が+3.0万人(前月:+2.7万人)、建設業が+3.2万人(前月:+1.6万人)と伸びが加速した。
政府部門は前月比+5.7万人(前月:▲0.8万人)と前月から増加に転じた。内訳をみると、連邦政府が+1.0万人(前月:▲0.9万人)と前月から増加に転じたほか、州・地方政府が+4.7万人(前月:+0.3万人)と伸びが大幅に加速した。
前月(6月)と前々月(5月)の雇用増加数(改定値)は前月が+39.8万人(改定前:+37.2万人)と+2.6万人上方修正されたほか、前々月が+38.6万人(改定前:+38.4万人)と+0.2万人上方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は+2.8万人の上方修正となった(図表3)。
7月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が32.27ドル(前月:32.12ドル)となり、前月から+15セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.6時間(前月:34.6時間)と前月から横這いとなった。この結果、週当たり賃金は1,116.54ドル(前月:1,111.35ドル)と前月から増加した(図表4)。
家計調査の詳細:2ヵ月連続で労働参加率は低下、労働供給の回復に遅れ
家計調査のうち、7月の労働力人口は前月対比で▲6.3万人(前月:▲35.3万人)と前月から減少幅は縮小したものの、2ヵ月連続の減少となった。内訳を見ると、就業者数が+17.9万人(前月:▲31.5万人)と増加に転じたものの、失業者数が▲24.2万人(前月:▲3.8万人)と就業者数の増加を上回る減少を示し、労働力人口を押し下げた。非労働力人口+23.9万人(前月:+51.0万人)と2ヵ月連続で増加しており、労働市場から退出する人の増加に歯止めがかかっていない。これらの結果、労働参加率は62.1%と前月に続いて低下しており、労働供給の回復がもたついていることを示した。(図表5)。
一方、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率は7月が82.4%(前月:82.3%)とこちらは前月から+0.1%ポイント上昇した。男女の内訳は、男性が88.4%(前月:88.4%)、女性が76.4%(前月:76.4%)といずれも小数第1位まででは前月から横這いとなった。
失業率は前月から低下し、新型コロナ流行前につけた50年ぶりの水準となったものの、職探しを諦めて労働市場から退出する人が増加しており、必ずしも労働需給の逼迫を意味しない。
7月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は106.7万人(前月:133.6万人)と前月から▲26.9万人の大幅な減少となった。長期失業者の失業者全体に占めるシェアも18.9%(前月:22.6%)と前月から▲3.7%ポイント低下した(図表7)。平均失業期間は22.1週(前月:22.3週)とこちらも前月から▲0.2週短期化した。
最後に、周辺労働力人口(154.5万人)(*3)や、経済的理由によるパートタイマー(392.4万人)も考慮した広義の失業率(U-6)(*4)は、7月が6.7%(前月:6.7%)と前月から横這いとなった(図表8)。この結果、通常の失業率(U-3)との乖離幅は+3.2%ポイント(前月:+3.1%ポイント)と前月から+0.1%ポイント拡大した。
*3:周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
*4:U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
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窪谷 浩(くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員
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