ESG(環境・社会・ガバナンス)は、投資家にとっても大手企業にとっても、投資先や取引先を選択するため、企業の持続的成長を見る重要視点になってきている。各企業のESG部門担当者に、エネルギー・マネジメントを手がける株式会社アクシス・坂本哲代表が質問を投げかけるスタイルでインタビューを実施した。ESGに積極的に取り組み、未来を拓こうとする企業の活動や目標、現状の課題などを紹介する。

沖縄県に根ざし、地域の人々や学校と連携しながら幅広いESG活動を展開するオリオンビール株式会社の執行役員・生産本部長・工場⾧の樽󠄀岡誠氏。産学連携、植樹、クリーンエネルギーへの移行など、同社が行う幅広い活動や今後について話をうかがった。

(取材・執筆・構成=丸山夏名美)

オリオンビール株式会社
(写真=オリオンビール株式会社)
樽󠄀岡 誠(たるおか まこと)
――オリオンビール株式会社執行役員、生産本部長、名護工場長

11964年1月6日生まれ。大阪府出身。1989年 アサヒビール株式会社入社。ビール新商品開発、海外ライセンス生産、工場ビール醸造部門、品質管理部門に携わる。2019年 ビール酒造組合審議役を経て、2020年オリオンビール入社。品質保証部長。2021年より現職。

オリオンビール株式会社
1957年5月創業。酒類清涼飲料事業と観光不動産事業からなる沖縄のリーディングカンパニー。沖縄県産素材を生かしたビール「オリオン ザ・ドラフト」や酎ハイ、泡盛、もろみ酢などを日本全国、海外で展開。ホテル2社、泡盛メーカー1社を子会社にもつ。
坂本 哲(さかもと さとる)
―― 株式会社アクシス代表取締役

1975年6月21日生まれ。埼玉県出身。東京都にて就職し、24歳で独立。情報通信設備構築事業の株式会社アクシスエンジニアリングを設立。その後、37歳で人材派遣会社である株式会社アフェクトを設立。38歳の時、株式会社アクシスの事業継承のため家族と共に東京から鳥取にIターン。

株式会社アクシス
エネルギーを通して未来を拓くリーディングカンパニー。1993年9月設立、本社は鳥取県鳥取市。事業内容は、システム開発、ITコンサルティング、インフラ設計構築・運用、超地域密着型生活プラットフォームサービス「バード」運営など多岐にわたる。

目次

  1. オリオンビール株式会社のESGへの取り組みについて
  2. オリオンビール株式会社の具体的なESG活動とは
  3. オリオンビール株式会社が取り組む「地方創生」。目の前の課題とは
  4. オリオンビール株式会社の今後の目標

オリオンビール株式会社のESGへの取り組みについて

アクシス 坂本氏(以下、社名、敬称略):オリオンビール様のESGへの最初の取り組みについてお聞かせください。

オリオンビール 樽󠄀岡氏(以下、社名、敬称略):オリオンビールが今も継続して行っている社会貢献活動の中で一番古いものは地域の教育支援です。1984年に開始、現在も続けている児童福祉施設向けの「お年玉寄付」です。沖縄県の社会福祉協議会を通じて、同県内の約400箇所の施設、約5,000人(2022年実績)の子どもたちへ「お年玉」を贈呈しています。現在では、公益財団を設立して、片親の子育て世帯(シングルマザー)支援も行っています。

坂本:ESGのE、つまり「環境」という視点での取り組みはどのような状況でしょうか。

樽󠄀岡: 2001年に沖縄県の名護工場で、ISO14001(国際標準化機構が策定した環境マネジメントシステムの国際認証規格)認証を取得しました。それ以降、廃棄物の再資源化に力を入れてきました。

オリオンビールは国内のビールメーカー5社で構成される「ビール酒造組合」に参加しており、ともに容器包装の3R(リデュース、リユース、リサイクル)、環境美化、CO2排出量の削減に取り組んでいます。

ISO14001取得から5年後の2006年には、製造の各工程で発生する廃棄物や副産物を、有価物として売却したり、資源化することでゼロエミッション(廃棄物100%再資源化)を達成しました。

さらに、2019年にオーナーが変わって新体制となってから、「人を、場を、世界を、笑顔に。」というミッションのもと、ESGそれぞれの強化につながる活動に着手しています。

▼質問に答える樽󠄀岡氏

樽󠄀岡氏

オリオンビール株式会社の具体的なESG活動とは

坂本:オリオンビール様のESGへの取り組みについて、もう少し具体的に教えてください。

樽󠄀岡: 2020年12月に琉球大学と「SDGsに関する産学連携協定」を結び、様々な共同研究を推進しています。

研究開発では、ビール製造の過程で生じる産業廃棄物「ビール粕(ビール製造時に発生する麦芽搾り粕)」を本来であれば焼却処分が必要なところ、それらを畜産用飼料として利用してきましたが、さらに、これを堆肥としての利用を進めることで、GHG排出の削減につなげています。また、このビール粕堆肥で育った大麦でビールを製造し、その過程で生じたビール粕を再度堆肥にして「完全循環型大麦」を育てることに成功したのですが、昨年、この完全循環型大麦を副原料に用いたビールを開発・発売することができました。また、パッケージの軽量化や低環境負荷の素材への移行などについて、共同で研究を進めています。

そのほか、植樹活動や沖縄特有の環境保全課題である「赤土流出対策」を地域の皆さまと共に進めています。CO2削減のために沖縄の風土に適した植物であり、首里城の建材としても活用されていたチャーギ(イヌマキ)の植樹を行ったり、農地の土壌が海に流出することで海洋環境を破壊する「赤土流出」問題の対策のために、地元の企業や農家の方々と協力しながらヒマワリを植えたりしています。

▼ヒマワリのタネをまくオリオンビール社員

オリオンビール株式会社
(画像=オリオンビール株式会社)

2022年2月には、二酸化炭素(CO2)排出量を実質ゼロとする沖縄電力の法人向け電気料金メニュー「うちな~CO2フリーメニュー」の契約を行いました。これは、発電にクリーンエネルギーを使用することで、排出するCO2量を相殺するというものです。実施すれば、名護工場は2019年と比較して、年間約4600トン、全CO2排出量の約36%を削減できることになります。

参考:オリオンビール>ひまわり&ベチバーを植えて赤土の流出を防止!沖縄の美ら海を守ろう

坂本:36%は非常に大きい数字ですが、課題はあるのでしょうか。

▼質問する坂本氏

坂本氏

樽󠄀岡:SCM部門とともに、原料の購入からお客様にお届けするまで、もっと細かくエネルギーの内容や生産効率まで把握したいところです。現在は、工場で製造時の設備ごとに管理しているような状況です。

オリオンビール株式会社が取り組む「地方創生」。目の前の課題とは

坂本:すでに多くの取り組みをされていますが、「地方創生」という視点での取り組みについて教えてください。

樽󠄀岡:先ほどもお話した「ビール粕」についてですが、沖縄県の牧場で育てている牛のエサに活用してもらっています。私たちが出した「ビール粕」を飼料として、沖縄の牛が食べて育ち、それを食材としたメニューを県内の方々や観光で来た方々が味わう。つまり、地域圏内で価値が循環しているのです。

他の例では、沖縄本島北部にある伊江島で麦を栽培する「いえじま家族」のようなケースがあります。私たちの「ビール粕」から作った堆肥を「いえじま家族」が育てる麦の栽培に活用し、その麦をオリオンビールのブランド「ザ・ドラフト」などの副原料として使用することで、地域生産者の支援にもつながっていると言えます。

▼ビール粕由来の堆肥で育った大麦

オリオンビール株式会社
(画像=オリオンビール株式会社)

また、琉球大学や他企業と連携して研究を進めている「完全閉鎖型陸上養殖(外部からエネルギーや資源を供給することなく単独で陸上養殖を成立させる仕組み)」で育てている「琉大ミーバイ」(沖縄県周辺の海で漁れるハタ類の魚)のエサとして、弊社の「ビール粕」が研究されており、実際にビール粕で育ったミーバイをオリオングループのホテルでメニューとして提供・消費するという意味で、同じ循環を生み出しています。

参考:いえじま家族HP

坂本:地域で循環型社会を実現しているわけですね。これらの活動を行うなか見えてきた課題はありますか。

樽󠄀岡:沖縄県は、海に囲まれており他の地域と離れています。そのため、流通面でコストがかかります。同県内で補えないものは、遠方から輸送、調達するしかありません。これが地方創生や活性化の足かせになっています。

また、沖縄県として十分な再生可能エネルギーが生産できないことが課題です。再生可能エネルギーを潤沢に作ることは、簡単ではありません。例えば、太陽光発電量が日照時間や面積の問題で不足した場合、他のエネルギー源に頼るしかありません。

これらの課題と向き合いながら、地域貢献と弊社のESG推進が両立するような活動を進めています。

オリオンビール株式会社の今後の目標

坂本:オリオンビール様の今後の目標についてお聞かせください。

樽󠄀岡:2021年12月、新しく代表取締役社長に村野一が就任しました。そのタイミングで弊社のミッションである「人を、場を、世界を、笑顔に。」を一歩発展させ、「沖縄から、人を、場を、世界を笑顔に。」を新たに掲げました。

この新しいミッションを推進するCSRテーマとして、「環境保全」「技術革新を通じた環境への貢献」「教育支援」「首里城の復興」の4つを掲げ、様々な活動に取り組んでいます。

そして、この取り組みをオリオンビール全体に根付かせるために、若手社員がワークショップを企画し運営するなど、グループ全体に伝わる仕組み化を進めています。また、オリオンビール社内でCSRへの意識を高めると同時に、オリオンビールを世界に発信していくことが地域社会への貢献につながると考えています。
沖縄県は国内でこそ観光地として多くの方に旅行いただいていますが、世界から見るとまだまだ知名度がありません。そこで、代表的な沖縄ブランドの一つであるオリオンビールを世界に向けて発信し、また、その販売網を強化することで、沖縄県の認知度も上げていく。そうすることで、世界の様々な国・地域において沖縄県に関心を持つ人が増え、観光客が増加する。結果として、沖縄県の経済が活性化し、地域の皆さまがもっと元気になることが期待できます。沖縄に育てていただいたオリオンビールがより具体的に沖縄へ恩返しをしていくことで、社員もやりがいを感じることができるはずです。

ただし、これらの取り組みは、オリオンビールだけでできることではありません。多くの企業や組織、地域に住まう人々と連携してこそ、より良い活動と将来を生み出すことができるでしょう。皆さまと協力しあいながら、これからもESG対応をしっかりと進め、持続的なCSR活動や地方創生に取り組んでいけよう、努めていきたいと思います。