この記事は2022年8月26日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「中国経済の見通し-2022年は前年比3.4%増、23年は同6.1%増」を一部編集し、転載したものです。

中国経済の見通し
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目次

  1. 要旨
  2. 中国経済の概況
  3. 需要面
  4. 供給面
  5. 財政金融政策
  6. 中国経済の見通し
    1. メインシナリオ
    2. リスク要因

要旨

  1. 2022年4-6月期の国内総生産(GDP)は実質で前年同期比0.4%増と1-3月期(同4.8%増)を大幅に下回ることとなった。季節調整後の前期比では2.6%減(年率換算すれば10.0%減)と、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第1波が中国を襲った2020年1-3月期以来9四半期ぶりのマイナス成長に落ち込んだ。

  2. 需要別に見ると、最終消費の不振が経済成長率を押し下げた主因だった。1-3月期のプラス寄与(+3.3ポイント)から一気にマイナス寄与(▲0.8ポイント)に転じている。不動産開発投資が足かせとなった総資本形成(≒投資)もプラス寄与を1ポイント減らした。純輸出は輸入が停滞した一方で輸出は堅調だったためプラス寄与を0.8ポイント増やした。

  3. インフレの状況を見ると、資源エネルギー高を背景に工業生産者出荷価格(PPI)が上昇したものの、消費者物価(CPI)の上昇は低位に留まっている。しかし、これまで下落していた豚肉価格が足元で下げ止まり、原油価格もひところよりは値下がりしたものの前年下半期の73ドル前後と比べるとまだまだ高いため、今後のCPIは一時3%台に乗せる見込みである。

  4. 22年の経済成長率は実質で前年比3.4%増、23年は同6.1%増と予想する(左下表)。7-9月期は前四半期に落ち込んだ反動で前年同期比3.8%増と見込む。10-12月期は反動増が収束するも、地方特別債増発などを織り込み同4.7%増と見込む(右下図)。その後は前期比年率5%程度の巡行速度(大規模な政策支援なしで無理なく成長できる水準)に回帰と予想する。

  5. 下方リスクとしては、中核都市でのロックダウン再発の発生確率が高い。COVID-19の第3波が襲来しないとは言い切れないからだ。上海のような中核都市がロックダウンに追い込まれる事態となれば、2022年の成長率は前年比2.5%増くらいに低下すると見られる。

中国経済の見通し
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中国経済の概況

2022年4-6月期の国内総生産(GDP)は実質で前年同期比0.4%増と1-3月期(同4.8%増)を大幅に下回ることとなった。季節調整後の前期比では2.6%減(年率換算すれば10.0%減)と、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第1波が中国を襲った2020年1-3月期以来9四半期ぶりのマイナス成長に落ち込んだ(図表-1)。

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その主因はCOVID-19の第2波が襲来したことだった。年初来の状況を振り返ると(図表-2)、1・2月には新規感染が少なく死亡者もゼロだったが、3月になると新規感染が増え始め3月末には上海が事実上のロックダウン(都市封鎖)に追い込まれた。その後、4月中旬には新規感染がピークアウトし、4月下旬には死亡者もピークアウトしたため、5月中旬には「復工復産(職場復帰・生産再開)」に動きだし、6月1日には上海のロックダウンを解除、6月30日には上海ディズニーランドの再開に漕ぎ着けた。このように1-3月期にはCOVID-19が落ち着き経済活動も順調だったが、4-6月期には新規感染・死亡者が増えたため経済活動に支障をきたし、成長率を大きく下押しすることとなった。

そして、第3四半期(7-9月期)に入ると、再びCOVID-19の新規感染が増え始め、8月16日には無症状を含めると新規感染は3千人を超えた。ウィズコロナ政策への移行に踏み切れず、ダイナミック・ゼロ政策を続けている中国だけに、経済への悪影響が懸念される。

一方、インフレの状況を見ると、22年1-7月期の工業生産者出荷価格(PPI)は国際的な資源エネルギー高を背景に前年同期比7.2%上昇した。しかし、消費者物価(CPI)は同1.8%上昇と低位に留まった。輸送用燃料は同25.9%上昇したものの、食品が同1.0%上昇にとどまった。豚肉価格が同27.5%も下落したからである。しかし、その豚肉も下げ止まり足元ではやや上昇してきており、原油価格もひところよりは値下がりしたものの前年下半期の73ドル前後と比べるとまだまだ高い。したがって、今後のCPIは一時3%台に乗せる見込みである(図表-3)。

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需要面

前述した4-6月期の実質成長率(0.4%)に対する寄与度を見ると(図表-4)、最終消費が▲0.8ポイント、総資本形成(≒投資)が+0.3ポイント、純輸出が+1.0ポイントだった。

最終消費は1-3月期(+3.3ポイント)からマイナスに転じた。消費の代表指標である小売売上高の推移を見ると(図表-5)、1-2月期には前年同期比6.7%増と勢いを取り戻していたが、3月にはマイナスに転じ、4月には同11.1%減と大きく落ち込み、5月も前年割れだった。しかし6月にはプラスに戻り、7月も小幅プラスを維持している。但し、飲食業はマイナス圏のままである。

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投資は1-3月期(+1.3ポイント)から1ポイント悪化した。投資の代表指標である固定資産投資(除く農家の投資)の推移を見ると(図表-6)、1-2月期には1年ぶりに2桁増となったが、4月には前年同月比0.7%減(推定(*1))と再びマイナスに落ち込んだ。しかし5月以降はインフラ投資・設備投資が牽引してプラス圏を回復している。但し、不動産開発投資はマイナス圏のままである。

他方、純輸出は1-3月期(+0.2ポイント)から0.8ポイント改善した。輸出入の推移を見ると(図表-7)、輸出の落ち込みは軽微で5月には早くも2桁増に戻った一方、輸入の落ち込みは長引き5月以降も低位に留まった。そして、貿易黒字が大幅に増えたためプラス寄与が拡大した。

中国経済の見通し
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*1:中国では、統計方法の改定時に新基準で計測した過去の数値を公表しない場合が多く、また1月からの年度累計で公表される統計も多い。本稿では、四半期毎の伸びを見るためなどの目的で、中国国家統計局などが公表したデータを元に推定した数値を掲載している。またその場合には“(推定)”と付して公表された数値と区別している。


供給面

産業別に見ると(図表-8)、第1次産業は前年同期比4.4%増と前四半期の伸び(6.0%)を下回ったものの、全体の成長率を大きく上回り、COVID-19(第2波)の影響は限定的だったと言える。

第2次産業は前年同期比0.9%増と前四半期の伸び(同5.8%増)を大幅に下回った。内訳では建築業は同3.6%増と前四半期の伸び(同1.4%増)を上回ったものの、製造業が同0.3%減とマイナスに落ち込んだ。鉱工業生産(実質付加価値ベース、一定規模以上)の推移を見ると(図表-9)、4月にはCOVID-19(第2波)で上海港が機能不全に陥ったことなどから前年同月比2.9%減と落ち込んだ。しかし、上海港の機能回復が順調に進んだため(図表-10)、「復工復産」に動きだした5月には同0.7%増とわずかながらもプラスに転じ、6月以降は3%台後半まで伸びが回復している。

第3次産業は前年同期比0.4%減とマイナスに落ち込んだ。COVID-19(第2波)の影響が軽微だった金融業は同5.9%増と前四半期の伸び(同5.1%増)をやや上回り、情報通信・ソフトウェア・ITも同7.6%増と比較的高い伸びを維持した。しかし、宿泊飲食業は同5.3%減、交通・運輸・倉庫・郵便業は同3.5%減、卸小売業も同1.8%減とマイナスに落ち込んだ。さらに、不動産規制強化で逆風下にある不動産業は同7.0%減と4四半期連続のマイナスとなった。不動産開発の先行指標として重要な分譲住宅の新規着工(面積)を見ても(図表-11)、前年の半分くらいの水準に落ち込んだままであり、引き続き経済成長を押し下げる要因となりそうである。

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中国経済の見通し
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財政金融政策

財政政策に関しては、3月に開催された全国人民代表大会(全人代)で「積極的な財政政策は、パフォーマンスを向上させるため、さらに精確(精准)に焦点を当て、持続可能なものにする」という基本方針を決め、財政赤字(対GDP比)を「2.8%前後」に引き下げ、地方特別債は3.65兆元を維持し、感染症対策特別国債はゼロのままとした。また、足もとの景気悪化を食い止めるべく、地方特別債を前倒し発行してインフラ投資の促進に乗り出した。6月までの残高増加ピッチは前年より2.4兆元ほど早い(図表-12)。しかし、不動産規制強化の影響もあって地方財政を支える土地譲渡収入の伸びは鈍く、前年同月時点より1.3兆元ほど遅い(図表-13)。このままだと成長率目標「5.5%前後」の達成が難しい上、社会不安にも結び付きかねないため、中国政府は23年度分地方特別債の前倒し発行、インフラ基金、政策銀行の貸出枠増加などで景気を支える意向とみられる。

中国経済の見通し
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他方、金融政策に関して前述の全人代では、「通貨供給量・社会融資総量(企業や個人の資金調達総額)の伸び率が名目GDP成長率とほぼ一致」と前年と同じ基本方針を掲げた上で、「流動性を合理的かつ十分に維持する」と付け加え、景気を支える姿勢を打ち出した。そして、預金準備率を引き下げるなど量的な金融緩和を実施、1-6月期の通貨供給量・社会融資総量は名目GDP成長率(前年同期比6.3%増)を上回る伸びを示した(図表-14)。しかし、事実上の政策金利とされるLPR(?款市??价利率)に関しては、22年に入り1年を0.15ポイント、5年以上を0.35ポイント引き下げたにとどまる(図表-15)。住宅バブル再膨張を避けつつ景気を下支えする意向とみられる。

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中国経済の見通し

メインシナリオ

以上を踏まえて、2022年の経済成長率は実質で前年比3.4%増、2023年は同6.1%増と予想している(図表-16)。COVID-19に関しては上海での爆発的感染が収束したあとも、散発的には感染拡大が起きるものの、カギを握る上海のような中核都市での都市封鎖(ロックダウン)は回避できると想定している。また、現行のダイナミック・ゼロ政策と全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で打ち出した財政金融政策の基本方針を堅持し、景気テコ入れ策は23年度分地方特別債の前倒し発行などに小振りな景気対策にとどめ、金融政策に関しても住宅バブルを再膨張させない程度の小幅な利下げにとどめると前提している。そして、22年7-9月期は、前四半期にコロナ禍で落ち込んだ反動増(ロックダウンで積み残された受注の生産、リベンジ消費)で前期比年率15.2%増の高成長(前年同期比3.8%増)と見込む。その後10-12月期には反動増は収束も、地方特別債増発(23年度分前倒し1.5兆元)、インフラ基金や政策銀行の貸出枠増加などの景気対策の実施を織り込み、平準ペースより高めの前期比年率9.5%増(前年同期比4.7%増)と見込んでいる(図表-17)。そして、23年以降は前期比年率5%前後の巡行速度(=大規模な政策支援なしで無理なく成長できる水準)での経済成長に回帰と予想している。

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リスク要因

メインシナリオを崩す下方リスクとしては、(1)上海のような中核都市でのロックダウン再発、(2)ロシアに対する経済制裁が中国にも波及が挙げられる。なお、当面はCOVID-19の第3波が襲来する恐れが排除できないため、(1)の発生確率が比較的高い。上海のような中核都市がロックダウンに追い込まれる事態となれば、22年の経済成長率は前年比2.5%増くらいに低下すると見られる。

一方、ポジティブ・サプライズとしては、(1)党大会を前倒ししウィズコロナに一歩前進すること、(2)不動産規制緩和とそれに伴う大幅利下げが挙げられる。


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三尾 幸吉郎 (みお こうきちろう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 上席研究員

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