特集「不動産業界トップランナーに聞く アフターコロナ時代の経営戦略」では、各社のトップにインタビューを実施。新型コロナウイルス感染症が収束した後の社会における不動産業界の展望や課題、この先の戦略について、各社の取り組みを紹介する。
今回は、沖縄県で不動産売買仲介、賃貸住宅の仲介・管理、リフォーム事業、資産コンサルティング事業などを展開する、中部興産株式会社代表取締役の新垣貴雪氏にお話を伺った。
(取材・執筆・構成=大正谷成晴)
2011年に米国Washington State University卒業後、株式会社豊通マシナリーへ入社。海外トヨタ工場への生産設備保守部品等の輸出入を担当。2017年に帰沖し、グループ会社の興産アメニティ株式会社に入社、新サービス構築や経営企画室を経験。2020年に中部興産株式会社へ転籍し、新サービス構築や経営企画室を経て現在に至る。
事業内容は賃貸住宅の仲介・管理、不動産売買仲介、保険代理店業、リフォーム事業、資産コンサルティング事業、マンション管理事業、ホテル・コンドミニアム管理事業。
創立40周年、1万5,000戸以上を管理する沖縄県内で最大規模の不動産会社
――中部興産についてお教えください。
中部興産代表取締役社長・新垣貴雪氏(以下、社名・氏名略):中部興産は沖縄市に本社を構え、沖縄本島全域を対象として賃貸管理仲介・不動産売買・マンション管理を中心に、幅広く事業を展開してきました。創業は1982年ですから、今年で40周年を迎える老舗の不動産会社でもあります。おかげ様で管理戸数は増加の一途をたどり、現在は1万5,000戸以上と県内企業としては最高水準です。管理物件は単身者向けからファミリー向けまで幅広く扱い、沖縄市やうるま市といった本島中部が多いのですが、近年は那覇市の物件も増えています。店舗も合計10店舗と、県内最多です。
また、中部興産では管理物件のオーナー様や地主様の土地活用の一環として、収益物件の運営をお勧めしています。その際は人口動態や各市町村の情勢、インフラ、近隣競合物件など市場状況を調査し、お客様のご要望に沿ったプランをご提案します。さらに、金融機関への融資相談や施工業者の選定方法、運用開始前後のアドバイス・提案も行っています。基本的にはお客様に建てていただいた建物を私どもで管理させていただいており、一般的な賃貸住宅を始め、住居兼共同住宅、ペット共生型賃貸住宅、高齢者向け賃貸住宅、店舗兼共同賃貸マンション、近年は民泊などの施設を取り扱ってきました。
――顧客は県内の地主様・賃貸オーナー様が中心でしょうか。
すでに土地をお持ちの方にご提案することが多いのですが、資金がある方は土地をご購入いただいて賃貸経営を始められるケースもあります。ただし、沖縄の公示地価は上昇が続いており、現在は建築費も高騰しているので、相当の自己資金がないと土地を買って賃貸経営を始めるのは厳しいかもしれません。地主様も同様で、資金不足によって金融機関のアパートローンがつかないこともあります。
そこで、それに対応できる新しいサービスを作りました。ローンがつかずにアパートを建てられないなら、私たちが土地を借りてアパートを建てて運用し、決まった年数はオーナー様に借地料をお支払いする、というのがその一つです。当社は無借金経営で会社に体力があるので、自社でアパートを建てることも可能です。その後、オーナー様は貯まった借地料を元手にローンを借り、建物を買い取っていただいても構いませんし、土地を手放す場合は中部興産で買い取ることもできます。
不動産特定共同事業法(不特法)に基づく共同出資不動産投資のサービスも検討しています。これは、事業者が匿名組合契約や任意組合契約などを通じて複数の投資家から出資を募り、集めたお金で収益不動産を取得・賃貸・運用する仕組みで、投資家には出資した口数に応じてリターンを配分するというものです。中部興産は管理物件を含め2,700名ほどのオーナー様とお付き合いがあり、銀行よりも利回りの高い金融商品としてご提案したり、国内で広く投資家を募ったりすることもできます。自社にはノウハウがないので都内の会社と提携し、募集金額5億円以内の物件から始める予定です。いずれにしても、従来の土地活用や不動産投資だけではなく、新たなサービスも提供して、市場を活性化させたいと思います。
賃貸管理料の引き下げ合戦は県内不動産業界にとってマイナスになる
▽中部興産 新都心店内の様子
――業界が直面する課題や解決策をお教えください。
沖縄県内では不動産会社が乱立し、賃貸管理料のダンピングが始まっています。これは看過できないことで、放置すると業界の衰退につながりかねません。そもそも、管理料を1~2%引き下げたところでオーナー様にはあまりメリットはありません。値下げのような小手先ではなく「価値を提供すること」を考える必要があり、中部興産ではセミナーや勉強会を開催し、オーナー様には管理において本当に大切なことをお伝えしています。賃貸管理に関しては、全国賃貸不動産管理業協会や日本賃貸住宅管理協会の支部が県内にありますが、業界団体で啓蒙活動を行い、オーナー様に不利益が生じない環境にしたいと考えております。
真のプロパティマネジメント会社になり、生活提案企業を目指す
――今後の目標をお聞かせください。
5年後には、プロパティマネジメント(不動産オーナーに代わって不動産の資産価値を向上させるための施策を行うこと)を提供する会社になっていたいです。「物件管理」というと建物の管理を想像される方が多いのですが、中部興産はオーナー様の資産価値を向上させるためのアドバイスができる集団になることを目指しています。高い賃料水準を維持しつつ満室経営を実現するための施策をご提案し、オーナー様とタッグを組めるような存在になりたいです。
10年後は沖縄だけではなく、県外・海外にもマーケットを広げていきたいと思います。そのためには、不動産以外のビジネスにもチャレンジしなければなりません。中部興産のキャッチコピーは「住まいさわやか くらしいきいき」で、創業者の新垣直彦会長は「我々は生活提案企業として、『医・食・住』の価値創造と快適な生活の提案する」を企業理念に掲げています。本来は「衣」の部分が「医」になっているのは会長が製薬会社に勤めていたからですが、「健康と食と住まいの3つが揃わないと幸せにはなれない」という思いが込められています。
私はこの3つの柱を大事にしながら、新たなビジネスを作りたいと考えています。具体的には、高齢の入居者に生活支援のサービスを紹介するといった、アライアンスのようなビジネスです。1万5,000戸の管理物件には入居者様を始め、オーナー様やそのご家族もいて、その数は4万~5万人規模。小さな市町村と同じくらいの規模であり、そこにはレジャーや食、医療などへのニーズがあるはずです。新型コロナウイルスによって沖縄の観光業の収益は大きく落ち込みましたが、生活に直結するサービスはそれほどではありませんでした。これらのサービスを入居者様に提供することで、地域経済の下支えにもなると考えています。
――不動産投資は『ZUU online』の読者にとって興味深いジャンルです。最後にメッセージをお願いします。
沖縄は本州と中国を始めとするアジア諸国を結ぶハブであり、さつまいもや三味線は沖縄を経て日本全国に広まったと言われています。古くから懸け橋の役割を担っており、約550年前に造られた首里城にある「万国津梁(ばんこくしんりょう)の鐘」(首里城正殿の鐘)には、「琉球国は南の海の良い場所にあり、中国と日本の間にある蓬莱の島で、船で万国の津梁、懸け橋となり貿易を行ってきた」と記されているほどです。現在もそれは変わらず、地理的に重要かつ魅力的な場所です。ビジネスチャンスも多く、その一つが不動産であることは間違いありません。私自身は業界に携わる者として市場が正常に機能するよう努めつつ、さまざまな価値を提供できるよう、会社とともに成長していきたいと考えています。
中部興産は沖縄県で40年間不動産業を営んでおり、管理物件の入居率は98%と高水準を誇ります。このような会社があることを県外の方にも知っていただき、不動産投資にご興味がある場合は、ぜひご相談いただければと思います。