特集「不動産業界トップランナーに聞く アフターコロナ時代の経営戦略」では、各社のトップにインタビューを実施。新型コロナウイルス感染症が収束した後の社会における不動産業界の展望や課題、この先の戦略について、各社の取り組みを紹介する。

株式会社日本エイジェントは地元の愛媛県を中心に、無人でお部屋探しができる「スタッフレスショップ」、24時間365日いつでもお困りごとがあれば駆けつける「レスQセンター」、外国人入居支援の全国ネットワーク「wagaya Japan」など新しい事業に挑戦し続ける注目企業。今回は代表取締役社長 乃万春樹氏に独自の強みや取り組み、未来構想を伺った。

(取材・執筆・構成=丸山夏名美)

株式会社日本エイジェント
(写真=株式会社日本エイジェント)
乃万春樹(のま はるき)
――株式会社日本エイジェント代表取締役社長

1980年生まれ。愛媛県出身。大学卒業後、インテリアメーカー、東京の不動産会社を経て、2010年日本エイジェント入社。
各種プロジェクトの立ち上げ、採用、人財育成など組織づくりに幅広く従事。2013年 東京事業部設立、2017年 国際事業部、2019年wagaya Japanを設立、デジタルマーケティングにも力を入れる。2021年7月 代表取締役就任。
Big(巨大企業)よりGood(一流企業)をビジョンに、常にチャレンジングな取り組みを行なっている。

株式会社日本エイジェント

1981年創業。本社は愛媛県松山市。主な事業として、不動産の管理、売買、賃貸仲介の他、無人店舗(スタッフレスショップ)のフランチャイズ事業や、外国人向け不動産サービス(wagaya Japan)の運営を行う。現在、愛媛に10店舗、東京に2店舗、全国FC加盟店188店舗を展開。その従来の不動産概念にない事業モデルから全国700社以上もの不動産会社が視察に訪れる現在注目の企業。

目次

  1. 株式会社日本エイジェントの事業と変遷について
  2. 株式会社日本エイジェントの強み・コアコンピタンス
  3. 業界の課題とそれに対する取り組み
  4. 株式会社日本エイジェントの未来構想
  5. 投資家や金融関係者、社会へのメッセージ

株式会社日本エイジェントの事業と変遷について

─ 日本エイジェント様の事業とこれまでの変遷をお聞かせください。

弊社は、1981年に愛媛で賃貸管理業をメインにスタートしました。2013年に東京に進出し、現在では管理物件戸数が約1万5,000戸と、四国エリアでトップクラスにまで成長しています。現在は賃貸管理業に加えて賃貸仲介や不動産売買も手がけており、全国で事業をフランチャイズ方式で展開しています。

独自の取り組みとして、無人でお部屋探しができる「スタッフレスショップ」や、24時間365日いつでもお困りごとがあれば駆けつける「レスQセンター」、外国人入居支援の全国ネットワーク「wagaya Japan(https://wagaya-japan.com/jp/)」などを運営しています。

▽スタッフレスショップ

株式会社日本エイジェント
(画像=株式会社日本エイジェント)

株式会社日本エイジェントの強み・コアコンピタンス

─ 貴社の不動産投資業界における独自の強みやサービスの特徴、コアコンピタンスをお聞かせください。

他社との差別化を図れる強みは、大きく分けて3つあります。

1つ目は空室対策、つまりリーシング力(不動産の賃貸支援力)です。不動産投資オーナーの関心事は物件の取得よりも、物件取得後の管理や運営であると考えています。弊社は40年のノウハウに加え、スタッフレスショップや独自のオンラインシステムでの対応や集客も可能で、これらについては特許も取得しています。

特にコロナ以降の部屋探しは多様化しており、スタッフレスシステムはその流れが後押しとなって、利用が急増しています。

2つ目はテナントリテンション、つまり入居者保持力です。これについては先ほどお話した、24時間365日自社スタッフが入居者の不満退去阻止のために駆けつける「レスQセンター」の存在が大きいです。例えば、学生の親御さんはこの仕組みがあるため当社で部屋探しをし、継続して入居してくださる方が多いです。

3つ目は外国人専門の不動産サイト「wagaya Japan」を始め、外国人のお客様をサポートするサービスを提供していることです。「wagaya Japan」は、業界の内外から注目を浴びています。

「wagaya Japan」には15万件以上の物件情報が掲載されており、国内最大級の規模です。入居希望の方からも、賃貸物件を購入希望の投資家様からも、非常に多くの問い合わせがあります。また、外国人のお客様との接点を持ちたい不動産会社から「外国人対応のノウハウを知りたい」とのご連絡も多くいただいています。

─ 非常に多くの新しい取り組みをされています。アイデア出しから事業展開まで行う力の源泉はどこにあるのでしょうか。

ビジネスの本質は非常にシンプルで、ユーザーの課題をいかに解決するかです。その中で私が大切にしていることの一つは、「一見非合理に見えても、課題を解決できるなら実行する」ということです。どの会社でも合理的な意思決定を行いますし、リスクは取りたくない。その中で一見非合理に見えることを行うことが、差別化につながり、その結果、合理化すると考えています。

その背景には、地方ならではの考え方があるのかもしれません。地方はマーケットが縮小しつつあるので、各社が生き残りをかけて戦っています。私たちも、これまでやってきたことをそのまま行うのではなく、「今までにないユーザーのお困りごとの解決に取り組んでいかなければならない」という責任感や使命感があります。

住まいのインフラを構築するために情報やノウハウをどんどん公開して、全国の不動産会社全体としてできることを増やしたいと考えています。その思いが通じたのか、「スタッフレスショップ」「レスQセンター」「wagaya Japan」などについて知りたいと、累計700社以上の不動産会社さんが弊社を視察されています。

業界の課題とそれに対する取り組み

─ 不動産投資業界全体が抱える、今後解決すべき課題があればお聞かせください。

大きく分けて2つあります。1つ目は、外国人の受け入れ問題です。アフターコロナに向かいつつある現在、外国人の来日制限が再び緩和され、訪日外国人が増加することが予想されます。

しかし、現在の日本は外国人向け賃貸住宅のインフラを構築したいのに、受け入れ体制が万全ではなく、未だに外国人というだけで入居を拒否されるケースもあります。言語の壁や文化の違いから起こるトラブルなど、外国人の入居にマイナスイメージを持つ不動産オーナーは少なくないようです。

これらの課題は正しい知識を持ち、対応策を確立できれば解決できるはずなので、弊社では全国の不動産会社に向けて外国人対応セミナーを開催し、「一緒に見えない壁を越えていこう」と発信しています。

2つ目は、オーナー様に提供される情報に格差があることです。収益物件の購入時に必要な情報はさまざまな形で提供されますが、その後の賃貸管理や運営についての情報提供は十分ではありません。例えば、「管理がずさんで共有部が汚い」「ポストの周りにチラシが散乱している」といった事例は枚挙に暇がありません。

このような課題を解決するために、弊社はオーナー様の細かな悩みまで解決する「賃貸相談サロン(https://www.nihon-agent.co.jp/chintaisodan-salon/)」というサイトを運営しています。特に「満室レシピ」のコーナーは好評で、空室対策、不動産相続、賃貸経営など8つのカテゴリーの情報を提供しています。反響が大きいだけに、賃貸物件購入後の課題が多いことを感じます。

─ 「スタッフレスショップ」「レスQセンター」「wagaya Japan」など新しい取り組みを行う中で感じる「壁」はありますか。

ゼロベースからさまざまなものを作っているので、すべてが順調に進むわけではありません。

例えば無人店舗は多くの人が思いつくかもしれませんが、それまで実現した会社はありませんでした。法律の問題や面倒な対応が想定される上に、成功する保証はありません。今でこそ電子契約が一般的になりましたが当時はなく、同業他社からも最初は疑問視されていました。

後押ししてくれたのは、お客様の声でした。

スタッフレスショップを例に挙げると、お客さまにアンケートを行ったところ「不動産会社は入りにくい」「営業マンに営業をかけられそう」という声が多く上がりました。私たちは集客をしたいのに、お客様を自ら遠ざけていたのです。

まずアイデアベースでブレストして、無人の店舗にタッチパネルの物件検索機を置いてみましたが、それでも入りにくいということがわかりました。

その後、プライベート空間を保てるボックス型にするなど、とにかくトライアンドエラーを繰り返してお客様に受け入れてもらえるよう試行錯誤しました。すると、次第に集客できるようになり、最初はあまり関心がなかった同業者からも注目されるようになりました。外国人対応についても同じです。

弊社には新しいことに挑戦して、それを楽しむ文化があります。そんなメンバーが集まっているのは、本当にありがたいことですね。

▽レスQセンターのイメージ

株式会社日本エイジェント
(画像=株式会社日本エイジェント)

─ 新型コロナウイルスや空き家問題、2022年問題、高齢化社会の加速、若年層の人口減少など、日本全体の問題が不動産投資業界へ与える影響について、どのようにお考えでしょうか。

個人的には、前向きに捉えています。不動産業界は、まだまだ旧態依然としています。例えば、未だにファックスや紙でのやり取りが中心だったり、業務が属人的だったり……。ようやく不動産業界にもDXの波が来て、若い世代の活躍も目立つようになってきたので、日本社会の問題は業界が発展するきっかけになると思っています。

10年後20年後もその時の課題があるでしょうから、問題の本質を捉えて時代の潮流を読んで対応すること、経営者としてその変化を楽しむことを大切にしたいですね。

株式会社日本エイジェントの未来構想

─ 貴社の未来構想についてお聞かせください。

事業レベルでいうと、まずは「wagaya Japan」を軸に、外国人向け不動産のリーディングカンパニーになりたいと考えています。訪日外国人の不動産問題は、業界の大きな課題の一つです。

私たちが外国人投資家に国内物件を販売し、そのノウハウを全国の不動産会社に提供することでこの課題を解決したいです。外国人向け不動産のインフラや仕組みを構築することは私たちの使命でもありますし、そうすることで周りの方が思わず応援したくなるような企業になれたら嬉しいですね。

また、本社がある愛媛県松山市の「超地域密着型」事業も追求したいです。「顧客生涯価値」をテーマに管理物件を増やし、地域の不動産売買事業を盛り上げることで愛媛の街づくりの一翼を担いたいです。

例えば大学に進学する学生さんが初めての一人暮らしで利用し、その学生がいずれ結婚し、新居を構える時にサポートをする。その先には不動産を売買したり賃貸物件のオーナーになったりして、最終的には不動産相続のお手伝いをする。このように「お客さまの人生を伴走する」ことで、「顧客生涯価値」を高めることができると考えています。

これは賃貸管理業や仲介業、不動産投資などを総合的に行っており、地域ナンバーワンだからこそできることだと思います。

─ 地域支援活動や社会貢献活動にも力を入れていますね。

地域の孤立死を防止する活動や防犯イベントに参加する、お祭りを盛り上げるといった活動は積極的に行っています。最近は「未来防災プロジェクト」という形で、災害が起こった時に地域の人々がどういう行動指針で、どう動けばよいのかという情報を提供しています。

行政だけでなく、民間の取り組みも非常に重要です。地域の方にSNSで情報を発信する、防災の日を設けて災害対策について知ってもらうなど、社内でブレストを行いながら新しい取り組みを模索しています。

投資家や金融関係者、社会へのメッセージ

─ ZUU onlineの読者の方や、社会へメッセージをお願いします。

物件選びも大切ですが、不動産会社選びも非常に重要です。オーナー様が収益を上げるためには、最終顧客である入居者さんとの接点を持つ必要があり、それができるのは管理会社です。私たちは、顧客との接点を大切にしていますし、売って終わりではなく継続的なサポートを行っています。

これからの10年で、不動産業界が二極化することは間違いありません。「消える」「成長する」のどちらかなので、不動産投資を行なう際は、それを見極める必要があります。日本エイジェントは今後も成長を続け、お客様の大切な資産を最大化できるよう努力を重ねていきます。