本記事は、上田篤盛氏の著書『超一流諜報員の頭の回転が速くなるダークスキル - 仕事で使える5つの極秘技術 -』(ワニブックス)の中から一部を抜粋・編集しています。

ノート,PC
(画像=nakakita/stock.adobe.com)

★ コミュニケーション、情報収集・分析、記憶、リスク管理を学べば最強!

世の中にはスパイ小説なるものが山と出回っている。精密な取材によるノンフィクションの本もあるが、センセーショナルな興味を引くためのやや脚色的なものも多いように思われる。

他方、欧米の国家情報機関出身者も有用な著述を残している。CIA元長官のアレン・ダレスの本(『諜報の技術』)やドイツ連邦情報局の初代長官のラインハルト・ゲーレンの本(『諜報・工作』)は大変参考になる。

また、日本旧軍の元情報将校によって書かれた本もインテリジェンスの教範きょうはんとして役に立つ。

最近では、日本の情報機関のトップなどもリタイアして、情報の本を書いている。これらからは、日本の情報体制をいかに構築するかなど、広範な知識が学べる。

少し、毛色の変わった本が、イスラエル情報部モサドの伝説の秘密諜報員であるウォルフガング・ロッツの回想録『スパイのためのハンドブック』だ。

これは、諜報員になるための「カバーストーリー」(別の人物になりすますための経歴)のつくり方などが紹介された、諜報員のための本格的指南書である。

戦前の日本にも先に紹介した、『諜報宣伝勤務指針』という指南書があった。ここには、諜報、宣伝、謀略、諜報防衛(防諜)のやり方が規定されている。

国家情報機関が諜報網を組織し、諜報員を育成し、彼らを使ってどのような情報活動を行なうかなどの視点では、これらの本から現代にも通用する知見を得ることができる。

ところで、以上のような本とは異なり、最近はCIA、FBI、KGBなどの国家情報機関の元職員がビジネスパーソン向けの本を書いている。

これらが重視するビジネススキルは、

  1. 相手を心理的にコントロールする術
  2. 危機を回避し、危機から脱出する術
  3. 協力者を集めるためのコミュニケーション能力を高める術
  4. 諜報員として情報を集める術
  5. 諜報員として必要な記憶力を高める術

などに大別できる。

彼ら彼女たちには守秘義務があり、出版にあたっての検閲けんえつは当然にあるので、秘匿ひとくすべきは秘匿され、一部はオブラートに包まれているであろう。

それを差し引いたとしても、諜報員が活動で用いるスキルの一端からビジネスに応用できるものは多々あることに気づかされる。

ただし、長年、情報機関の分析官として実務につき、さまざまな情報関連の著書を研究してきた私の感想では、玉石混淆ぎょくせきこんこうで興味本位の脚色もあり、実用的なものばかりではない。

中には、著書に書いているようなことを実行すれば、大ヤケドすることにもなりかねない。だから、元諜報員の書いた内容を取捨選択して、ビジネスパーソンにとって有用なものを紹介する必要がある。

また、最近では元CIA副部長が書いた情報分析の本も出版されたり、国家情報機関の思考法を学ぶという空気も出てきている。

この背景には、情報分析はビジネスパーソンが身につける一般的なスキルであることの理解が浸透していることがある。

今日では、インターネット上に膨大ぼうだいな情報が流れており、その中には誤情報、ニセ情報、害悪情報が氾濫はんらんしている。だから、情報分析のスキルはとても大切だ。

こうした情報の渦の中に置かれた国民が不利益を受けないようにすることも国家の役割ではあるが、なかなか有効な手立てはない。

その意味でもダマし合いの世界で、情報の真偽を見極め、情報分析スキルでインテリジェンスを作成し、成果を上げた元諜報員の著書は参考書となるだろう。

諜報員の技術はビジネスパーソンにも必須!

★ 基本の思考ツールDADAでミッションを達成する

右脳
(画像=Peshkova/Shutterstock.com)

では、海外などの現場で活動する諜報員はどのような思考・行動ツールを使って仕事をしていくのだろうか。

元CIAの諜報員ジョン・ブラドック氏は、『スパイが教える思考術』の中で、「DADA」という個人の思考・行動ツールを紹介している。

「データ収集は分析につながり、分析は決定につながり、決定は行動につながる。単純だ」と彼は言う。DADAは、次のような流れだ。


【D】(Data:情報収集)
【A】(Analysis:情報の分析・分解)
【D】(Decision:決定・判断)
【A】(Action:行動)
超一流諜報員の頭の回転が速くなるダークスキル
(画像=超一流諜報員の頭の回転が速くなるダークスキル)

ブラドック氏のDADAは、米軍の作戦開始後の意思・行動決定ツールとして採用されている「OODA(ウーダ)」ループのリメイク版だと言う。

ここで少し、OODAの説明をしよう。これは、米軍パイロットのジョン・ボイド氏が開発したもので、


【O】(Observe:観察)
【O】(Orient:状況判断)
【D】(Decide:決定)
【A】(Act:行動)

の4つで構成されている。ボイド氏は戦闘機パイロットとして24年間空軍で過ごした。朝鮮戦争では、F‐86のパイロットとして撃墜王の名をはせた。

後に、パイロット職を辞し、教官となって「40秒のボイド」と呼ばれた伝説の人物だ。いつもの模擬演習で、空軍、海軍、海兵隊の一流パイロットたちを40秒で撃墜したからこう言われるようになった。

それほど、彼の思考・行動ツールは他を凌駕りょうがしていたことがわかるだろう。

ボイド氏が提唱したOODAは、米海兵隊を皮切りに米軍全体に普及し、やがて競合他社を出し抜く意思決定・行動ツールとして、ビジネス界を席巻した。

OODAは、「目の前にある物事や状況を見て」、「どうしたほうがいいかを判断」し、「どうするかを決定」し、「行動する」というものであり、迅速な状況判断と意思決定が信条である。

OODAとDADAには、観察(O)がデータ収集(D)、状況判断(O)が分析(A)、という違いがあるが大差はない。

ただし、DADAはデータ収集、つまり情報の価値を重視している。

OODAの観察も、状況判断のために必要なデータや情報を集めることを軽視しているわけではないが、DADAは特に情報収集を強調しており、さすが諜報員ならではの発想法である。

ブラドック氏は、海外での諜報活動を行なう際、DADAで幾多いくたの困難や危機を乗り越えたと語っている。

つまり、「情報(データ)を集め」、それを「分析」して、「行動を決定」し、「行動に移す」という思考・行動ツールは、諜報員にとって必須の武器なのだ。

この諜報員の思考・行動ツールは、ビジネスパーソンにも大いに役立つ。

現在は、技術革新などの変化の激しいドッグイヤーと言われ、迅速な意思決定がなければ、ライバルや競合他社に太刀打ちできない。

だから、現場諜報員の情報収集→分析→行動決定→行動のサイクルを身につけることは必要不可欠なのである。

諜報員は、情報収集→分析→行動決定→行動のサイクルを回している

★仕事とビジネスに使えるスキルを厳選して学ぼう

海外現場や分析部署の諜報員からさまざまなスキルと思考法を学ぼう。

元CIA職員ジェイソン・ハンソン氏が書いた著書では、サバイバル法(危険が迫り来る場合は動く、周りに注意するなど)、危機回避のための持ち物(ポケットナイフ、携帯電話、ヘアピン、手錠の鍵)、脱出法などとして縄からの脱出法や手錠の外し方などを解説している。

ただし、通常のビジネスパーソンが拉致らちされ、拘束されるようなことは滅多に起きるものではない。このような本は読み物として非常におもしろいが、そういうわけで、ここで書かれているような危機対処法は本記事では扱わない。

要するに、冷静にミッションを遂行するためのスキルを諜報員から学ぶということである。つまり、一流の諜報員たちの頭の使い方を紹介していく。

諜報員は、任務を遂行するための型を持っている。その型さえ知れば、頭の回転を一気に速くすることができる

つまり、「情報をどう集めるか」、「集めた情報をどう整理してデータ化するか、あるいは記憶するか」「集めた情報から、判断・行動に資するインテリジェンスをどう作成するか」「データやインテリジェンスを活用してどう状況判断するか」を過去の諜報員から学ぶのだ。

諜報員の頭の回転が速くなる技術を知ろう

=老超一流諜報員の頭の回転が速くなるダークスキル
上田篤盛(うえだ・あつもり)
元防衛省情報分析官。
株式会社ラック「ナショナルセキュリティ研究所」シニアコンサルタント。
1960年広島県生まれ。防衛大学校(国際関係論)卒業後、陸上自衛隊に入隊。2015年定年退官。
在職中は、防衛省情報分析官および陸上自衛隊教官として勤務。93年から95年まで在バングラデシュ大使館において警備官として勤務し、危機管理などを担当。
情報分析官としての経験、独自の視点から執筆する著書は好評を博している。
『未来予測入門』(講談社)、『情報戦と女性スパイ』『情報分析官が見た陸軍中野学校』『戦略的インテリジェンス入門』『中国が仕掛けるインテリジェンス戦争』『武器になる情報分析力』『インテリジェンス用語事典(共著)』(いずれも並木書房)、『中国の軍事力―2020年の将来予測(共著)』(蒼蒼社)など著書多数。
現在、官公庁および企業において、独自の視点から「情報分析」「未来予測」「各国の情報戦」などに関するテーマで講演を行なっている。

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