本記事は、菊地正俊氏の著書『日本株を動かす 外国人投資家の思考法と投資戦略』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋・編集しています

日本株を動かす 外国人投資家の思考法と投資戦略
(画像=metamorworks/stock.adobe.com)

「外国人投資家」の実態

◉形式的な分類をすると……

外国為替及び外国貿易法(以下、外為法)は外国(人)投資家を次の5つに分類しています。
(1) 非居住者である個人
(2) 外国法令に基づいて設立された法人、または外国に主たる事務所を有する法人
(3) (1)または(2)の外国人個人、または法人が議決権総数の50%以上を保有する会社
(4) 外国人投資家による出資金が総出資金額の50%以上に相当、または外国人投資家が業務執行組合員の過半数を占める組合
(5) (2)~(4)以外の法人で、(1)の外国人投資家がその役員または代表役員の過半数を占めるもの

(1)には華僑の富裕層やウォーレン・バフェット氏などが当てはまるでしょうが、話題となったウォーレン・バフェット氏による大手商社株の保有はバークシャー・ハサウェイ社の完全子会社であるナショナル・インデムニティー・カンパニーを通じて行なわれたので、(3)に分類されます。日本人経営のヘッジファンドは税制上の理由等から、ケイマン諸島等に設立され、実際の投資は香港やシンガポールから行なわれることが多いので、(2)に相当します。ちなみに、香港やシンガポールの日本人ヘッジファンドは、日本によく調査にきますが、日本に1年の過半数以上滞在すると日本の高い税率が課されるので、日本滞在を4割程度にするヘッジファンド経営者が多いようです。

フィデリティやキャピタルグループなどの多くの外資系運用会社は(2)に分類されます。欧米の大手運用会社は東京に調査・運用拠点があり、その実務には日本人が携わっていることが多いのですが、外国資本の運用会社なので、外国人投資家の扱いです。

証券会社ではかつて、純粋な欧米人の外国人投資家は「青い目の外国人投資家」、外国運用会社で働いている日本人は「黒い目の外国人投資家」などと呼んでいたことがありましたが、企業経営でダイバーシティが求められる現在、身体的特徴で投資家の呼称を変えるのは適当でないでしょう。

図表1-1 ◉ 外為法上の外国(人)投資家の分類

1号
外国投資家
非居住者である個人
2号
外国投資家
外国法令に基づいて設立された法人その他の団体又は外国に主たる事務所を有する法人その他の団体→外国籍のファンド(日系ファンドの外国ビークルを含む)
3号
外国投資家
1号外国投資家又は2号外国投資家に掲げるものに直接保有される議決権の数と他の会社を通じて間接に保有される議決権の数との合計が、総議決権数の50%以上に相当する会社→外国籍のファンドが日本で設立した買収SPC
4号
外国投資家
一定の外国投資家による出資の金額の合計が総出資金額の50%以上に相当する又は一定の外国投資家が業務執行組合員の過半数を占める組合→外資系の資金・GPが過半の日本法上のLPS(非常にまれ)
5号
外国投資家
2号外国投資家、3号外国投資家及び4号外国投資家以外の法人その他の団体で、1号外国投資家がその役員又は代表役員の過半数を占めるもの→役員・代表役員の過半数が非居住者(非常にまれ)

注:GPは無限責任組合員、LPSは投資事業有限責任組合
出所:森・濱田松本法律事務所資料よりみずほ証券エクイティ調査部作成

◉日本の運用会社に比べて桁違いに大きい欧米運用会社

2022年4月末時点で、日本最大のトヨタ自動車の時価総額が35兆円である一方、世界最大のアップルの時価総額は2.2兆ドル(約290兆円)と、トヨタ自動車の約8倍です。当然、それらを保有する日米の運用会社の資産規模も桁違いということになります。日本の大手運用会社の資産規模で100兆円を超えているところは数社しかありませんが、世界最大のブラックロックの運用資産は約1,300兆円です。世界的に運用のパッシブ化が進むなかでも、アクティブ運用中心の米国のキャピタルグループの運用資産は200兆円、英国のベイリーギフォードの運用資産は50兆円を超えます。

日本の事業会社でも欧米のロングオンリーの大手運用会社に安定的な株主になって欲しいとのニーズは根強く、コロナ前には、日本企業の欧米大手運用会社向けのロードショー(個別説明会)が多数行なわれていました。そうした際には、社長が1人または少人数で欧米投資家を訪問して自ら英語で説明すると評価された一方、大名行列のように大勢で訪問して説明を部下の役員任せにすると、「何のための投資家訪問か」と言われることがありました。

ただ、後で触れるように、アベノミクスの初期こそ欧米運用会社による日本株投資が盛り上がりましたが、2015年半ば以降、アベノミクスに失望したという声が増え、その後の菅政権、岸田政権でも日本株投資は盛り上がらず、直接的な日本株運用をやめる欧米運用会社も増えました。日本株には大型グロース株が少ないので、欧米のグローバルなグロース・ファンドの日本株離れが激しくなると同時に、長期にわたるバリュー株のパフォーマンス低迷によって、日本株に投資するバリューファンドの解散や縮小も相次ぎました。

◉運用資産が大きい外国運用会社はどこか?

上場している運用会社であれば、ブラックロックのように四半期ごとに運用資産や業績を開示しており、インベスコのように月次で運用資産を開示している運用会社もありますが、アクティビストのように上場していない運用会社であると、経営情報の公的な開示が義務でないので、正確な運用資産額がわからない運用会社もあります。

事業会社であれば、IR活動を行なう際に運用資産額が大きい運用会社にアピールしたいでしょうし、個人投資家も、運用資産額が大きい外国運用会社の売買手口を見たいと思うでしょう。

運用会社の運用資産額を見るうえでは、コンサルティング会社のウイリス・タワーズワトソンと年金情報誌の『ペンションズ&インベストメンツ』が年に一度発表する〝The world's largest 500 asset managers〟が役立ちます。

世界の上位500社の運用会社の運用資産合計額は2020年末に前年比15%増の119.5兆ドルに増えました。円換算ではもはや兆円単位では掲載できず、1.5京円(兆円×1,000)という単位になります。地域別では北米の投資家が71兆ドルと最大で、欧州は35兆ドルと北米の半分、日本は6兆ドルにとどまりました。日本という地域別の分類はいまだありますが、その存在は風前のともしびといえます。

世界最大の運用会社は米国ブラックロックで、ラリー・フィンクCEOは、来日時に日本の首相にも面談したことがあります。2位はブラックロック同様にパッシブ運用を強みとするバンガード、3位はアクティブ運用に強みを持つフィデリティでした。なお、フィデリティのような非上場会社の運用資産額は集計方法によって異なるので注意が必要です。

図表1-2 ◉ 世界の運用会社の運用資産ランキング

順位運用会社拠点運用資産合計(10億ドル)
1ブラックロック米国8,677
2バンガード・グループ米国7,149
3フィデリティ投信米国3,609
4ステート・ストリート・グローバル米国3,467
5アリアンツ・グループドイツ2,934
6JPモルガン・チェース米国2,716
7キャピタルグループ米国2,384
8BNYメロン米国2,211
9ゴールドマンサックス米国2,145
10アムンディフランス2,126
11リーガル&ジェネラル英国1,736
12プルデンシャル・フィナンシャル米国1,721
13UBS米国1,641
14フランクリン・テンプルトン米国1,498
15モルガンスタンレー米国1,475
16ティー・ロウ・プライス米国1,471
17ウェルス・ファーゴ米国1,455
18BNPパリバフランス1,431
19ノーザントラスト米国1,405
20ナティクシス・インベストメント・マネージャーズフランス1,390
21インベスコ米国1,350
22ウエリントン・マネージメント米国1,291
23アクサグループフランス1,268
24ヌビーン米国1,156
25エイゴン・グループオランダ1,127
27三井住友トラスト・HD米国1,060
33三菱UFJ FG米国853
53野村アセットマネジメント米国567
55第一生命HD米国551
58アセットマネジメントOne米国526
68信金中金米国380
70明治安田生命米国375
74住友生命米国330
108りそなHD米国211
139三井住友DSアセットマネジメント米国144

注:2020年末時点(信金中金と明治安田生命は2020年3月末時点)、世界の上位25社と日本企業上位10社を表示
出所: Willis Towers Watson “The world’s largest 500 asset managers” October 2021より
みずほ証券エクイティ調査部作成

世界の運用会社の運用資産上位10社のうち、5位のドイツのアリアンツ、10位のフランスのアムンディを除くと8社が米国法人です。日本の運用会社はようやく27位に三井住友トラスト・ホールディングス、33位に三菱UFJフィナンシャルグループが入りました。運用会社の運用資産額はほぼ保有株式の時価総額に比例するので、日本の運用会社の運用資産額の相対的な小ささは、米国に比較した日本株の時価総額伸び率の低さの反映といえます。

◉ボトムアップ投資家vs.トップダウン投資家

マクロ経済を正確に予想するのは困難だとして、企業の経営状況や業績などに注目して投資する投資家は「ボトムアップ」型と呼ばれます。一方、政治・政策やマクロ経済に着目して投資する投資家は「トップダウン」型と呼ばれます。米国にボトムアップ型が多い一方、欧州にはトップダウン型の投資家が多い印象です。

ヘッジファンドにも、マクロ的経済動向や資金フローなどにフォーカスするマクロ・ヘッジファンドや、個別企業をロング・ショートして、株式ポジションはネットで中立にするボトムアップ型の投資家がいます。ロング・ショートの投資家は、業種リスクをとらないようにするために、同業種のなかで、たとえばトヨタ自動車をロング、ホンダをショートしたりします。

グローバル投資を行なうロングオンリーの投資家は、建機のキャタピラーとコマツのどちらに投資したらよいかを判断します。一方、トップダウンの投資家は政権交代、金融・財政政策の行方、為替動向などを分析して投資します。欧米の投資家はボトムアップ型・トップダウン型ともに、企業のコーポレートガバナンス、国や政府のガバナンスを重視する共通点があります。

また、最近はファクター投資が流行っています。ファクター投資では金利・為替動向、相場付きなどに応じて、グロース株(成長株)vs.バリュー株(割安株)、大型株vs.中小型株、シクリカル株(景気敏感株)vs.ディフェンシブ株などの比較で、どちらをオーバーウエイトするかを決めます。ファクター投資を行なううえではトップダウン、ボトムアップの両方のアプローチが必要です。すなわち、上場銘柄すべてをグロース株とバリュー株に分類するためにはボトムアップ・アプローチが必要ですし、バリュー株のグロース株に対する相対パフォーマンスは経済動向、とくに米国10年国債利回りに連動して動くので、マクロ分析が重要になります。

日本株を動かす 外国人投資家の思考法と投資戦略
菊地 正俊(きくち・まさとし)
みずほ証券エクイティ調査部チーフ株式ストラテジスト。1986年東京大学農学部卒業後、大和証券入社、大和総研、2000年にメリルリンチ日本証券を経て、2012年より現職。1991年米国コーネル大学よりMBA。日本証券アナリスト協会検定会員、CFA協会認定証券アナリスト。日経ヴェリタス・ストラテジストランキング2017~2020年1位、2022年2位。
著書に『カーボンゼロの衝撃』『アクティビストの衝撃』(以上、中央経済社)、『米国株投資の儲け方と発想法』『相場を大きく動かす「株価指数」の読み方・儲け方』『日本株を動かす 外国人投資家の儲け方と発想法』(以上、日本実業出版社)、『良い株主 悪い株主』『外国人投資家が日本株を買う条件』『株式投資 低成長時代のニューノーマル』(以上、日本経済新聞出版社)、『なぜ、いま日本株長期投資なのか』(きんざい)、『日本企業を強くするM&A戦略』『外国人投資家の視点』(以上、PHP研究所)、『お金の流れはここまで変わった!』『外国人投資家』(以上、洋泉社)、『外国人投資家が買う会社・売る会社』『TOB・会社分割によるM&A戦略』『企業価値評価革命』(以上、東洋経済新報社)、訳書に『資本主義のコスト』(洋泉社)、『資本コストを活かす経営』(東洋経済新報社)がある。

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