本記事は、菊地正俊氏の著書『日本株を動かす 外国人投資家の思考法と投資戦略』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋・編集しています

日本株を動かす 外国人投資家の思考法と投資戦略
(画像=taa22/stock.adobe.com)

外国人投資家が好む銘柄はこれだ

◉時価総額が大きな銘柄が外国人投資家のスコープに入りやすい

アップルの時価総額が初めて1兆ドルを超えたのは2018年8月であり、その2年後に米国企業として初めて2兆ドルを超えました。当時は1ドル=105円程度だったので、円ベースでは時価総額200兆円程度でしたが、2022年4月に円の対ドルレートが130円まで下落したので、アップルの円ベースの時価総額は300兆円弱と、プライム市場の時価総額の4割強に達しました。

ソニーグループの時価総額は14兆円と、日本企業としてトヨタ自動車に次いで2位ですが、アップルの時価総額の約20分の1です。ソニーの時価総額は2005年までアップルの時価総額を上回っており、アップルが経営不振に陥っていた1990年代半ばには、ソニーがアップルの買収を検討しているとの見通しが出たほどでした。可能性は低いでしょうが、外国人保有比率が約6割のソニーグループを、アップルが高いプレミアムを付けて買収しようと思えば可能な状況です。海外売上高比率が約7割のソニーグループは東証上場であるがゆえに、バリュエーションが低めに放置されていると考えるならば、本社を米国西海岸に移して、ニューヨーク証券取引所単独上場の企業を目指すかもしれません。

ソニーグループに加えて、村田製作所、TDK、アルプスアルパインなど日本を代表する電子部品企業はアップル関連株と見なされています。世界のITプラットフォームはGAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)が握ってしまったので、日本企業は部品のサプライヤーとして生きる道を選んでいます。米国のGAFAMが世界的な覇権を強めるなか、日本にはGAFAMの下請け的な上場企業が増えています。下請け的な企業とはいえ、ソニーグループのCMOSイメージセンサーや村田製作所のセラミックコンデンサーがないとアップルのiPhoneはつくれないので、外国人投資家も日本のアップルの部品関連株を評価しています。日本の電子部品株は、アップルの新商品の売れ行き見通しや工場稼働状況に一喜一憂する状況です。

一方、アマゾンのAWSのクラウドシステムの導入支援を行なっていて、関連銘柄にもみえるテラスカイ、AWSの導入支援・保守代行を行なっているサーバーワークスなどについては、日本における販売代理店的な存在であるうえ、時価総額が小さすぎるので、外国人投資家は関心を持ちません。アマゾンの時価総額1.1兆ドル(約145兆円)に対して、テラスカイの時価総額は180億円、サーバーワークスの時価総額は170億円と、ともにアマゾンの1,000分の1程度で、外国人保有比率はそれぞれ4.7%、3.2%です。

◉外国人投資家はグローバル企業が好き

日本は人口が減少するうえ、消費者が値上げに対して寛容でないため、中長期的に成長が見込めないので、外国人投資家は日本株の銘柄選択でも、海外事業を拡大する企業を評価する傾向があります。

国際協力銀行の『わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告』によると、製造業の海外売上高比率は2002年度の27.9%から、2020年度に35.8%、海外生産比率は同期間に26.0%→33.6%に高まりました。

主要企業の海外売上高比率は日本電産で88%、ファナックで85%と8割を超えますが、有形固定資産の海外比率(海外生産比率の代理変数)は、日本電産が78%、ファナックが9%と大きく異なります。日本電産がアジアで広範囲に生産しているのに対して、ファナックが国内工場で生産して輸出するビジネスモデルであるためです。

足元では大きな円安が起きているので、国内で生産して海外に輸出するほうが円ベースの利益が増えます。海外売上高比率が76%のキヤノンはコーポレートガバナンスやビジネスモデルの観点で、外国人投資家の評価が高くありませんが、円安の恩恵は大きいとみられています。

国際協力銀行のアンケート調査によると、中長期的な有望事業展開先国は1位が中国、2位がインド、3位が米国でした。2021年の地域別輸出比率は中国が21.6%、米国が17.9%でした。米中の覇権争いは今後数十年にわたって続くと予想されるなか、日本企業は国際貿易ルールや、日本政府の新たな経済安全保障策に従いながら、米中両大国のあいだでうまく立ち回る必要があります。

◉外国人投資家は同業の海外企業と比較する

2022年2月のロシアのウクライナ侵攻後、世界的に穀物価格が上昇するなか、クボタの類似企業である米国ディアの株価が史上最高値を更新する一方、クボタの株価はボックス圏にとどまりました。その理由は、ディアの農機は小麦向けが多い一方、クボタは海外売上高比率が7割超であるものの、アジアにおける稲作向け農機が多いというプロダクト・ミックスの違いでした。クボタは値上げ効果が原材料高・物流費高騰を吸収するには時間がかかるとして、2022年の利益予想を横ばいで発表して、株価が決算発表翌日に10%も下落したことは、米国企業に比べた日本企業の価格支配力の弱さを暗示しました。

2022年前半にキャタピラーの株価がコマツをアウトパフォームしたのも、キャタピラーにはコマツが持っていないオイル&ガス関連事業があり、世界的な資源高から恩恵を受けるとみられたためでした。時価総額もキャタピラーの980億ドル(13兆円)に対して、コマツは約3兆円と4分の1以下に過ぎません。

中国でつくって欧州で売る比率が高いマキタもコロナ期に園芸機器の売れ行きが良かったものの、巣ごもり需要の一巡で、株価は2021年9月の史上最高値から半値に下落しました。

機械セクターの時価総額ランキングで、6位はディスコ、7位は三菱重工業、8位はダイフクで、外国人保有比率はそれぞれ37.6%、29.9%、39.7%です。ディスコは半導体関連企業、ダイフクはECや中国の航空需要の拡大からの恩恵などが評価されていますが、三菱重工業はコングロマリットであるうえ、子会社による飛行機開発での巨額損失などが嫌気され、外国人保有比率は低めになっています。三菱重工業は防衛関連株としての側面がありますが、地政学的リスクが高まる局面で外国人投資家は、米国の軍事産業ピュアプレイ株であるロッキード・マーチンなどに投資するでしょう。

◉主要金融機関の外国人保有比率は低下

海外売上高比率は東京海上ホールディングスで37%、第一生命ホールディングスで33%などと主要内需企業も海外事業を拡大していますが、金融は内需企業と見なされるため、外国人保有比率は日本経済に対する見方を反映して変動します。

日本経済がアベノミクスの政策でデフレ脱却が可能との見方のピークは2015年だったため、2015年3月期をピークに外国人保有比率が低下した主要金融業が多数あります。2015年3月期→2022年3月期を比較すると、メガバンクでは三菱UFJフィナンシャル・グループが36.9%→31.6%、三井住友フィナンシャルグループが48.7%→34.4%、みずほフィナンシャルグループが28.6%→23.9%と低下しました。大手損保でも東京海上ホールディングスが43.3%→33.7%、MS&ADインシュアランスグループホールディングスが39.6%→29.6%、SOMPOホールディングスが43.0%→39.3%と低下しました。第一生命ホールディングスはシンガポールのアクティビストのエフィッシモキャピタルが10%弱保有しますが、外国人保有比率は43.4%→38.6%と低下しました。

ただし、2022年に入って米国FRBの利上げで、金利環境が金融機関にとって追い風になってきたため、東京海上ホールディングスの株価が2022年7月に史上最高値を更新するなど、外国人保有比率が高まっている印象です。

◉大手不動産は株式持合や買収防衛策も評価のポイント

大手不動産はデフレ脱却期待の低下に加えて、コロナ禍でオフィス空室率の上昇懸念も出たため、2015年3月期→2022年3月期の外国人保有比率は、三菱地所が46.7%→41.5%、三井不動産が54.1%→46.9%、住友不動産が32.5%→19.4%と軒並み低下しました。とくに住友不動産は取引先との株式持合を強化しているので、外国人保有比率が大手不動産3社のなかで低くなっています。

ニューヨークや上海などに比べて、東京の不動産価格は安いとみられており、それを多く保有する大手不動産に買収価値を見出す外国人投資家は少なくないため、買収防衛策の有無が外国人投資家の評価のポイントです。三井不動産は買収防衛策を導入したことがなく、三菱地所も2019年に買収防衛策を廃止しましたが、住友不動産は継続していることも保有比率に表れています。

日本で空き家が増えるなか、地方圏中心に戸建て中古再生事業を行なっているカチタスは、社会的に有意義な事業をやっていると評価が高く、外国人保有比率は36.5%と高めになっています。一方、大手ゼネコンは外国人投資家からみてビジネスモデルがわかりにくいうえ、人口減少で建設需要が減るとの懸念があるため、外国人保有比率は他業種に比べて低めになっています。2022年3月期の外国人保有比率は大林組で35.9%、大成建設で32.2%、鹿島建設で24.9%、清水建設で20.2%と、他業種の大手企業の外国人保有比率より低めです。なお、アクティビストはキャッシュリッチの中堅不動産に投資していますが、ロングオンリーの大手外国人投資家の関心は低いようです。

◉外国人保有比率が高い企業・低い企業と増減が大きい企業

2021年度末に時価総額5,000億円以上の主要企業のなかで、外国人保有比率が高い企業の上位には、日本オラクル、ネクソン、中外製薬、シャープ、日産自動車など外国企業が大株主になっている日本企業が並びますが、純粋な外国機関投資家の保有比率が高い企業はHOYAの63.3%、ソニーグループの59.8%、ミスミグループ本社の58.7%、SMCの56.3%、任天堂の52.9%などが並びます。川崎汽船や東芝など海外アクティビストが大株主になっている企業も外国人保有比率が50%を超えます。

逆に、外国人保有比率が低い企業にはゆうちょ銀行の2.1%、東京センチュリーの8.3%など上場子会社や国内法人の保有比率が高い企業、オリエンタルランド、ANAホールディングス、小田急電鉄などのように株主優待目的で個人保有比率が高い企業が入ります。

外国人保有比率がピークだった2014年度末以降に、外国人保有比率が高まったところでは、リクルートホールディングス、レーザーテック、オープンハウス、GMOペイメントゲートウェイ、ダイフクなど、経営内容に対する評価が高まった企業が上位でした。

逆に、外国人保有比率が低下した企業の上位にJTやINPEXが入ったのは、欧州を中心としたネガティブ・スクリーニングで、ESGを重視する外国人投資家が保有比率を減らしたのかもしれません。住友不動産やキヤノンなどはコーポレートガバナンスに対する外国人投資家の評価が低いため、外国人保有比率が低下したと推測されます。

図表2-3 ◉ 2021年度末の外国人保有比率が高い・低い主な企業

2021年度末の外国人保有比率の下位20社    2021年度末
コード会社名業種株価(円)時価総額(10億円)年初来株価変化率(%)外国人保有比率(%)
7182ゆうちょ銀行銀行1,0563,959.50.12.1
7550ゼンショーHD小売3,300511.022.06.1
8439東京センチュリー他金融4,520556.1-19.08.3
7211三菱自動車工業輸送機429639.333.68.8
6178日本郵政サービス9703,547.38.110.2
9202ANA HD空運2,3951,159.6-0.411.5
7181かんぽ生命保険保険2,151859.716.311.8
8267イオン小売2,6502,310.6-2.212.1
2914日本たばこ産業食品2,3554,710.01.412.1
4661オリエンタルランドサービス18,1706,608.3-6.312.9
3635コーエーテクモHD情報通信4,590771.31.412.9
4739伊藤忠テクノソリューションズ情報通信3,520844.8-4.914.0
2002日清製粉グループ本社食品1,647501.3-0.714.1
9086日立物流陸運8,550719.158.314.7
9007小田急電鉄陸運1,816669.2-15.014.8
4091日本酸素HD化学2,187947.2-13.014.9
9602東宝情報通信4,925918.50.015.5
6305日立建機機械2,811604.7-15.515.6
9008京王電鉄陸運4,905630.5-3.315.6
7259アイシン輸送機4,1001,208.2-7.015.6
 
2021年度末の外国人保有比率の上位20社    2021年度末
コード会社名業種株価(円)時価総額(10億円)年初来株価変化率(%)外国人保有比率(%)
4716日本オラクル情報通信8,2001,051.7-6.286.1
3659ネクソン情報通信2,8962,611.530.281.0
3064MonotaRO小売2,3171,161.511.878.9
4519中外製薬医薬品3,6646,152.1-1.975.5
4612日本ペイントHD化学1,1162,645.5-11.072.7
6753シャープ電機1,052684.2-20.471.4
7201日産自動車輸送機5002,109.5-10.164.6
7741HOYA精密12,1504,444.2-29.063.3
6758ソニーグループ電機11,22514,155.6-22.559.8
7532PPIH小売2,0921,327.131.859.4
9962ミスミグループ本社卸売3,150896.2-33.358.7
6273SMC機械60,7404,092.0-21.756.3
6702富士通電機18,0103,728.1-8.754.6
9107川崎汽船海運7,620722.010.153.6
2127日本M&AセンターHDサービス1,639551.6-41.953.4
6954ファナック電機21,8804,417.8-10.353.0
7974任天堂他製品58,4207,586.98.952.9
2702日本マクドナルドHD小売4,925654.8-3.252.4
6532ベイカレント・コンサルティングサービス39,150608.4-12.052.2
3436SUMCO金属製品1,739609.0-26.050.5

注:株価は2022年7月7日時点、時価総額5,000億円以上の全上場企業、2021年度末時点の外国人保有比率の上位・下位20社。このリストは推奨銘柄でない
出所:QUICK Astra Managerよりみずほ証券エクイティ調査部作成

◉外国人投資家はオーナー系企業が好き

多くの外国人投資家は「企業のオーナーは株主であり、経営者は株主の利益を最大化するためのエージェント、取締役は経営者に対する監督者」と考えています。その観点から、外国人投資家は、ほとんどの日本企業は株主価値の最大化が不十分だと見ています。岸田政権は「新しい資本主義」の下、ステークホルダー重視主義を打ち出しましたが、もともと株主重視ではない日本がさらに株主以外のステークホルダーに力点を移すのはおかしいと考えて日本株を売り越したという見方もあります。

外国人投資家はソフトバンクグループ、ファーストリテイリング、日本電産など大型のオーナー系企業を評価しています。オーナー系企業は自らの保有株の時価を最大化してくれると期待されるためです。

日本電産の株式の8.2%を保有する永守重信会長が2022年4月21日のCEO復帰会見で、「いまの株価は耐えられない水準。1万円くらいで残っていれば私の出る幕はなかった」と述べたことは、創業者の株価への強い意識が感じられる発言でした。

ちなみに、外国の運用会社ではありませんが、オーナー系企業に投資する投信として東京海上アセットマネジメントの「ジャパン・オーナーズ株式オープン」があります。2013年3月の設定以来の騰落率が298%と高パフォーマンスを記録し、2022年6月末の純資産は646億円に達しました。この投信でのオーナー企業の定義は、経営者及びその親族、資産管理会社等の合計持株比率が5%以上です。2022年6月末の上位3保有銘柄はファーストリテイリング、パーク24、リゾートトラストでした。日興アセットマネジメントも2022年1月末に、日本のオーナー企業に投資する「ジパング・オーナー企業株式ファンド」を設定しました。この投信のオーナー企業の定義は経営者が10%以上の株式を保有していることです。2022年3月末の純資産は147億円で、上位3保有銘柄はENECHANGE、ティーケーピー、ヤプリと中小型株でした。

なお、ソフトバンクグループにおいては、孫正義会長兼社長の後継者とみられたマルセロ・クラウレ副社長が2022年1月に退任しており、副社長が去るのは3人目となりました。また、ファーストリテイリングでは、柳井正会長兼社長の御子息が2名取締役になっていますが、大物創業経営者の後継問題はむずかしいのです。

日本株を動かす 外国人投資家の思考法と投資戦略
菊地 正俊(きくち・まさとし)
みずほ証券エクイティ調査部チーフ株式ストラテジスト。1986年東京大学農学部卒業後、大和証券入社、大和総研、2000年にメリルリンチ日本証券を経て、2012年より現職。1991年米国コーネル大学よりMBA。日本証券アナリスト協会検定会員、CFA協会認定証券アナリスト。日経ヴェリタス・ストラテジストランキング2017~2020年1位、2022年2位。
著書に『カーボンゼロの衝撃』『アクティビストの衝撃』(以上、中央経済社)、『米国株投資の儲け方と発想法』『相場を大きく動かす「株価指数」の読み方・儲け方』『日本株を動かす 外国人投資家の儲け方と発想法』(以上、日本実業出版社)、『良い株主 悪い株主』『外国人投資家が日本株を買う条件』『株式投資 低成長時代のニューノーマル』(以上、日本経済新聞出版社)、『なぜ、いま日本株長期投資なのか』(きんざい)、『日本企業を強くするM&A戦略』『外国人投資家の視点』(以上、PHP研究所)、『お金の流れはここまで変わった!』『外国人投資家』(以上、洋泉社)、『外国人投資家が買う会社・売る会社』『TOB・会社分割によるM&A戦略』『企業価値評価革命』(以上、東洋経済新報社)、訳書に『資本主義のコスト』(洋泉社)、『資本コストを活かす経営』(東洋経済新報社)がある。

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