ESG(環境・社会・ガバナンス)は、投資先や取引先を選択するため、投資家だけでなく大手企業にとっても企業の持続的成長を見定める重要視点となってきている。ESGに積極的に取り組み、未来を開拓しようとする企業の活動や目標、現状の課題などを紹介していく。
今回は、各企業のESG部門担当者にエネルギー・マネジメントを手がける株式会社アクシス・坂本哲代表が株式会社セブン&アイ・ホールディングスの執行役員である釣流(つりゅう)さんへ質問を投げかけるスタイルでインタビューを実施した。
セブン&アイグループが2019年5月に公表した環境宣言『GREEN CHALLENGE 2050』を中心に地域と共に成長しながら脱炭素社会の実現や世界中のグループ企業や店舗と連携しながら打ち立てる環境戦略を掘り下げていく。
(取材・執筆・構成=山崎敦)
経営推進本部 サステナビリティ推進部 シニアオフィサー
津田塾大学国際関係学科卒業後、株式会社西武百貨店入社(現 株式会社そごう・西武)。池袋本店婦人雑貨部、販売促進部、等を経た後、営業部門へ。執行役員顧客サービス部長、執行役員池袋本店副店長、執行役員所沢店店長、執行役員東戸塚店店長、執行役員文化プロモーション部長などを経験。2019年3月より株式会社セブン&アイ・ホールディングスへ。グループ環境宣言「GREEN CHALLENGE 2050」の達成を推進。
株式会社セブン&アイ・ホールディングス
株式会社セブン&アイ・ホールディングスは、セブン‐イレブン・ジャパン、イトーヨーカ堂などを傘下に持つ日本の大手流通持株会社。
1975年6月21日生まれ。埼玉県出身。東京都にて就職し、24歳で独立。情報通信設備構築事業の株式会社アクシスエンジニアリングを設立。その後、37歳で人材派遣会社である株式会社アフェクトを設立。38歳の時、株式会社アクシスの事業継承のため家族と共に東京から鳥取にIターン。
株式会社アクシス
エネルギーを通して未来を拓くリーディングカンパニー。1993年9月設立、本社は鳥取県鳥取市。事業内容は、システム開発、ITコンサルティング、インフラ設計構築・運用、超地域密着型生活プラットフォームサービス「バード」運営など多岐にわたる。
目次
地域社会に事業基盤を据え、地域と共に成長するサステナブル経営の姿
アクシス 坂本氏(以下、社名、敬称略):最初に、セブン&アイ様のESG(サステナビリティ)活動における考え方(基本方針)を教えてください。
セブン&アイ 釣流氏(以下、社名、敬称略):まず私たちのグループの概要からご理解いただければ幸いです。当社のESGやサステナビリティに関する最大のポイントは「地域社会と並走しながら成長してきた」ということだと思っています。
1920年に台東区浅草で洋品店「羊華堂(現:株式会社イトーヨーカ堂)」を創業し100年以上経過したなかで、日本での店舗数は約2万2,700店(2022年2月末時点)となりました。特に「これまでお客様のお困りごとを解決しながら経営してきた」「ベース地域がある」ということは、非常に重要なことで私たちの力の源泉だと思っています。
そのような中で、1日約2,000万人を超えるお客様がご来店いただいておりますので、お客様と共に歩むことを最重要とし事業を進めさせていただいています。100年以上事業を続けてきたうえでのベースとなる活動が、当社のサステナビリティ活動における基本方針と考えていただければと思いますが、その前提となるのが、社是です。
社是
・私たちは、お客様に信頼される誠実な企業でありたい。
・私たちは、取引先、株主、地域社会に信頼される、誠実な企業でありたい。
・私たちは、社員に信頼される、誠実な企業でありたい。
こちらの社是は、1972年に決めたものでステークホルダーの方々に信頼と誠実をお約束させていただくものとなります。お客様から受けた期待や要請に対して事業活動を通じてお返しすることを重ねながら、サステナビリティを目指しています。
当社のステークホルダーは「お客様、お取引先、加盟店、株主・投資家、地域社会、社員」という6つの対象に分けておりましたが、「地球環境」と「未来世代」を重要なステークホルダーであると考えています。
当社の中期経営計画として一番ボトムにありベースとなるのが「サステナブル経営」です。企業の持続的な成長と持続可能な社会の両立があってこそすべてが成り立つものと思っています。
坂本:セブン&アイ様が2019年に公表した環境宣言『GREEN CHALLENGE 2050』では「CO2排出量削減」「プラスチック対策」「食品ロス・食品リサイクル対策」「持続可能な調達」という4つのテーマを掲げていますが、各テーマの取り組みと具体的な達成目標をお聞かせいただけますか。
釣流:2019年に打ち出した環境宣言では、4つのゴールを目指していくなかでイノベーションチームを立ち上げながら進めています。「CO2の排出量削減」「プラスチック対策」「食品ロス・食品リサイクル対策」「持続可能な調達」ということで、事業活動に近いところにテーマを置かせていただきながら目標を定めています。
これら4つテーマは、2段階でセットしています。2030年までに目標値を持って進め、2050年は「目指す姿」とした2段階です。やはり2050年となりますと30年近く先の話となり、確実な目標が申し上げられないため、2019年5月の段階では「目指す姿」とさせていただいています。
まず、CO2排出量削減に関してお話しします。CO2排出量削減目標は、2013年度比で2030年までに店舗運営に伴うCO2排出量50%削減です。そして、2050年には実質ゼロを目標に、カーボンニュートラルを目指しています。ここに関しましては、やはり電気量が非常に大きなウエイトを占めていますので、国の政策と合わせながら実施していくことを含めて、同じゴール設定しているということです。
プラスチック対策に関しては、環境配慮型の素材をオリジナル商品で使用するに加える形で実施しています。2030年までには「オリジナル商品(セブンプレミアム含む)の中で使用する容器包材の50%を環境配慮型素材にする」、2050年までには「100%環境配慮型素材にしていく」というお約束をさせていただいています。またプラスチック製のレジ袋に関しては2030年までに使用量ゼロという目標です。
食品ロス、食品リサイクル対策に関しては、2本立てとなっています。「削減する」「リサイクルする」が2本柱です。まず2013年度比で食品廃棄物の発生元単位100万円あたり50%削減。また2050年に関しては、75%削減としています。それと、私たちが大切にしていることの中で食品廃棄物のリサイクル率を上げていくことを考えています。
やはり「地球環境のなかで限られた資源をどれだけ有効活用するか」という部分において「食品廃棄物もゴミではなく資源である」という認識でリサイクルを考えています。リサイクル率の設定は、2030年が70%、2050年は100%が目標です。
持続可能な調達に関しては、まず2030年にオリジナル商品で使用する食品原材料は、持続可能性が担保された原材料を50%使用していき、2050年には100%で目標設定させていただいています。
これらの4つのテーマに対して4つのイノベーションチームを立ち上げました。グループ全体でサステナビリティの目標を掲げて進めるとなりますと、かなり大きな力が必要だと感じました。2019年までは、それぞれの会社でそれぞれの目標を持って活動することはありました。
しかし、私の所属するサステナビリティ推進部だけではなくグループ全体、事業会社を超えて同じ数値目標を持ったことは、今回の環境宣言が初めてです。目標を達成するためには、グループ横断でのアクションが必要なことがイノベーションチームを立ち上げた経緯となります。
チームそれぞれにグループのなかで知見があり、なおかつ責任も多く持っているものが担当させていただいています。例えばCO2排出量削減であればセブン-イレブン・ジャパンの建築設備本部長がリーダーです。この下には、他の事業会社のメンバーが入りながら進めているので、この組織図は4つの目標を進めていくなかで非常に大きな力を持っていると思います。
坂本:多様化する社会課題のなかでセブン&アイ様は、重点的に解決すべき課題を選定されています。その課題抽出の目的と課題を選定するにあたっての評価基準をお聞かせください。
釣流:サステナブル経営を具体的な行動に結び付けるなかで重点課題を特定して進めています。2014年には、5つの重点課題を作りましたが2022年3月に「7つの重点課題」を新たに設定しています。
いろいろ関係の方も含めて私たちのグループで働く方々のトータルは、40万~50万人といわれています。その方々が社会課題を受けながらより良いものを提案していくことが私たちのサステナビリティにつながるなかで、より一層わかりやすいものにすることが新たな重点課題設定のポイントです。
そのなかでも、やはり「5.グループ事業を担う人々の働きがい・働きやすさを向上する」という項目は、非常に大きなエンジンになると考えて重点課題に加えています。
私たちのグループは、やはり店頭が基本になりますので「社員の方々の働きがい・働きやすさ」というところが次の成長に結びつくものとして重点課題と捉えています。
今回の重点課題改定にあたりグローバル視点として「7-Eleven,Inc.」というアメリカの会社と、私たちにとって重要な店舗オーナー様も入っていただきながらアンケートにご回答いただきました。約5,000件(自由回答約1,000件)のアンケートの回答内容をベースにしながら今回の重要課題改定を組み立てさせていただいております。
省エネ・創エネ、再エネ調達の3つの柱をもとにした脱炭素社会の実現
坂本:「脱炭素社会」という世界的な大きな流れは、セブン&アイ様のビジネスにどのような影響を与えましたか?また変化した御社のビジネスにおける具体的な戦略や自社ならではの強み、予想される課題は何でしょうか?
釣流:脱炭素の視点ですと昨今の電気料の高騰も含めて「電気の使用をどうやって削減するか」は、経営にとって大きなインパクトです。ただ私たちのグループでは、電気由来のエネルギーが構成比率の95%になっておりまして、CO2排出量削減へダイレクトにつながっています。そのため電気の使用をどのように削減するかが重要だと考えています。
サステナブル経営を進めるなかで、3つの活動をベースにしながらCO2排出量削減に向けた柱を設定させていただいています。省エネは、とても大切ですし、今まさにエネルギーの不安定な時代に立ち向かっていく最中なので、現場での活動を大切にしながらエネルギーの見える化を進めさせていただいています。
創エネに関しましては、太陽光パネルをどれだけ設置拡大できるかが課題です。それに合わせて再エネ調達も行いながら私たちのグループがサステナブルと同時に地球環境の負荷低減と地域の方々が更新できるようなことを続けさせていただいています。
2015年のパリ協定をベースにしながらも、店舗数自体はお客様の要請を含めながら少しずつ増えている傾向です。店舗が増えていながら電気使用量とCO2排出量を削減できているということは、私たちにとって非常にありがたいことだと感じています。現場の店舗での削減努力に感謝しながらさらなる活動を推進していきたいと思っています。
また「脱炭素」というとなかにはコスト面からネガティブに捉える方も多いのかもしれません。しかし私たちは、脱炭素社会を目指すことをポジティブなことだと考えています。一般的には「脱炭素を目指す=CO2排出量をどれだけニュートラルにしていくか」ということです。ただCO2排出量削減は、コストと両輪になってきますので、もし実現するのであれば私たちにとって非常に大きなプラスだと思っています。
まだ日本では台数も少ないですがこれからEV車の社会浸透が予想されるなかで、地域の方々には「EVチャージャーをつけることで私たちにとってメリットになる」というお話をいただくことも多いです。しかしコンビニエンスストアが中心な私どもの企業において短時間で効率的に利用しにくいEVチャージャーを効果的に利用できるのかは、現状のままでは難しいと感じています。
これからイノベーションが進めば新たな面もあるのかもしれないので、その際は社会貢献の一環としてやらせていただくこともあるかもしれません。
▽質問に答える釣流氏
坂本:再生可能エネルギーに関しては、いわゆる太陽光が中心なのかなと思いますが、今後はPPAの割合や発電なのか再エネ調達なのかといったところの割合や目標は設定されていますでしょうか?
釣流:自前が中心で、それから最後に再エネ調達という流れで進めさせていただく方針です。まず省エネ、それから自前で作り出す、その次に再エネ調達。これが大前提になります。
私たちのグループが約2万店舗あるなかで太陽光パネルを導入しているのは約8,800店舗(2021年時点)です。一番良く導入できている店舗で電気使用量の約4分の1を賄っている状態で、セブン‐イレブンぐらいのコンパクトな店舗ですと5~6%ぐらいになります。
そのため効率よく導入するには、太陽光パネルをより一層増やしたり余剰の部分に対して蓄電池を導入したりするなど「限界まで挑戦してみよう」という方針です。さまざまな新技術を取り入れて店舗のオンサイトで創エネを行っています。
それ以外でもオフサイトというところで2021年6月からNTTさんと共にセブン‐イレブンで40店舗、イトーヨーカドーで1店舗のオフサイトPPAの取り組みを実施中です。2022年6月からは、北陸電力さんでも300店舗のオフサイトPPAが進行しています。
またNTTさんとは「2030年に向けて長期のオフサイトPPAを取り組んでいこう」という合意契約書を結ばせていただきまして、PPAに関してはまさに私たちがいま取り組んでいきたい分野の一つです。このPPAの仕組みは「自己託送も含めていろいろスキームにチャレンジしていこう」というものになります。
足りない部分に関しては、再エネの電力を調達するスキームを組んでいかなければいけない段階です。
坂本:細かい開示情報をいろいろお話いただいたのですが、店舗ごとや地域ごと情報や数値を出されているのですか?
▽質問する坂本氏
釣流:私たちでも追いかけられないぐらい細かい店舗の話もたくさん出ております。やはり今とても大切なこととして各店舗の自発的な行動が地域のなかに一番即していると思いますし、それをセントラルで統制することは決して良いことではありません。できるだけ地域の商品や活動を活発化させようとしているところです。
特にセブン‐イレブンは「本当に地域での活動があってこそ」ということで広報もより早くお伝えすることを意識して取り組んでいます。また「太陽光パネルの電力量などの数値を店舗で表示するのかしないのか」という問題も店舗ごとのポリシーによる部分もあるでしょう。
おそらく生活されている方々の行動変容も結びつくこととなるため、これらはまさに私たちのような小売がやるべきことだと思っています。
また当然ですがまったく同じ店舗は一つもありませんので、それぞれのマネジメントがとても大切です。例えば「ヨークベニマル」というスーパーでは、BEMS(Building Energy Management System)を導入していまして「エアコンを2度上げた場合にどれだけ電気料金が上がるのか」といったシミュレーションが店舗で行えます。
そういったシミュレーションで見せることによって自分たちでコントロールする施策を行っていますので、店舗ごとの省エネがとても大切です。
店舗についている太陽光パネルに関しまして、私たちは2011年から太陽光パネルを店舗に導入し始めました。あまりPRしていない部分で恐縮ですが、実は1店舗も固定買取がございません。「自家消費するのであれば導入してもよい」という条件で始めました。
坂本:御社は、非常に店舗数が多いため、今回の脱炭素というテーマはかなり大変なことだと推測しています。今後サプライチェーンの方への脱炭素の推進や支援に関しての方針などはありますか?
釣流:やはり「サプライチェーンまで責任を持つ」というのがとても大切なことだと思っています。そういったなかで一緒に進めさせていただく企業の数で言いますと約2,000~3,000です。しかも季節ごとに数も上下するので、どれだけご協力いただけるかのアンケートをいただいたり、ご依頼を申し上げたいというようなことをさせていただいたりしています。
もちろん上からの目線でご協力いただけない企業様とのお付き合いを変えるようなことは私たちのグループはできません。取り組み先の企業様と二人三脚でやってきていますので、どうやって省エネなどの活動に従事していただけるかも一緒に考えながら取り組ませていただいております。
サプライヤーの皆様の点は、まず環境宣言『GREEN CHALLENGE 2050』のなかで店舗運営だけではなく、お取引先も巻き込んで脱炭素に向けた活動をしていくこともテーマに入れさせてもらっています。そのなかで私たちは、SBT(Science Based Targets)の認定を2023年までに取得したいと考えていまして、これにはお取引先さまのご協力が不可欠です。
これは、私たちのプライベートブランドとセブン‐イレブンのデイリー商品を作っていただいているメーカーさんに関してですが、「取り組みについて一緒に協力していきましょう」という内容でダイレクトに手紙で送らせてもらっています。今は、各社がどのような取り組みまで進んでいるかというアンケートを取らせていただいている最中です。
そのため現状は、それらをもとに私たちがお取引先と一緒に何ができるのかを模索し始めた段階となります。もう一つ2021年9月から環境省の支援事業の一環としてサプライチェーン上の脱炭素化を推進する活動があります。
セブン‐イレブンのデイリー商品を作っていただいているメーカーさんにご協力いただきまして、そちらの脱炭素化に向けた取り組みをまとめて横展開していくことを始めたところです。
地域と包括協定を結び、スピード感のある社会貢献を実現
坂本:アクシスは、地方IT企業として地域社会のための地方創生などの活動を精力的に行っています。セブン&アイ様は、どのような規模感での社会貢献活動や社会課題の解決を行っていますか?
釣流:まず私たちの店舗は、地域ごとに運営させていただいていますので、より良い活動を求める際には地域ごとに求められているものが異なります。2021年2月時点で私たちのグループが包括連携協定を結んでいる市区町村の数は283です。その地域で求められていることに応えていくことを大前提として活動しています。
社会貢献という観点で私たちの店舗は、生活に非常に近いところにあるので、例えば震災などが起こった際、いかに早く営業を再開させ生活をより早く戻していくことが求められています。そのなかで過去には、東日本大震災の際に包括連携協定を結んでいたこともあり、東北や三陸などの東日本地域にトラックで食料や水をいち早く運ぶスキームを組ませていただいていました。
また「セブンVIEW」という災害対策システムを構築しました。これは「Googleマップ」上に、停電等の全店舗の状況、地区事務所や工場、配送トラック、サプライチェーンの状況、さらにあらゆる災害などの問題が起こったときに、それらの問題を一元的に集約出来る仕組みです。
最近ですとフードドライブなどは当たり前のこととして実施させていただいています。また店頭での募金も折々で実施している状況です。
逆に私のほうからアクシス様にお尋ねしたいことがあります。地方創生についてさまざまなことにチャレンジされているとうかがったのですが、ポリシーとされていることや具体的な事例があればお聞かせいただけますか?
坂本:弊社は、鳥取県の地方IT企業です。しかし私自身は、鳥取県の出身者ではなく東京と埼玉で育って9年前に鳥取へ移住したという形になります。その際、都会から見ていたときの地方の現状と実際に地方に住んでわかる地方の現状は、意外とギャップが大きいように感じました。
「地方だからお給料が安い」「雇用創出が叫ばれている」というのは、ひと昔前の話。実際地方の方は、意外とお金を持っていたりしっかりとした職についていたりするのですよね。ただ職はあるものの付加価値の高い職に就けている方ばかりではないので、われわれはIT企業として付加価値のある仕事をしてもらうためにもプログラミング教室を開くなどを実施しています。
実際は、マーケットがないので基本的に教育事業は赤字です。あくまで「未来の人材を育てる」という意味でやらせていただいています。そのため都会から見る地方の課題といった視点ではなく地場のなかの根本的なところから取り組んでいるというのがわれわれのポリシーなのかなと思っています。
釣流:すばらしいですね。実際にコロナ禍から約3年経ちますが、距離の問題というよりは情報の行き渡り方の問題というほうが大きいのでしょうね。今たまたま私たちも新規ビジネスとして「D-Stadium」という遠隔地に住んでいる少人数の学生に向けたオンラインアカデミーを考えているメンバーがいます。やはり情報格差を考えたときに教育機会の格差はすごく大きいのかなと思います。
教育機会の格差を埋められれば、おそらく距離も埋められるのではないかなと考えています。
坂本:実際、今はインターネットで世界とつながっているので情報格差はないはずなのですが、何が足りないかといえば情報を収集する力がないのかもしれません。そのあたりの課題も含めて、やはり地方を変えていかなければいけないと思っています。
加えて地方は、マーケットがしぼんでいく傾向もあります。Uber Eatsさんや出前館さんのようなフードデリバリーサービスが来ても店舗さんは、手数料を払えるだけの原価率でやってないんですよね。地方の飲食店は、基本的に原価率が高くてそういうところで手数料を持って配達してもらうのは現実的には難しいので、弊社としては「マーケットはない」とわかっています。
ただ「さまざまなサービスを組み合わせて配送を統一させれば成り立つのではないか」という仮説を立ててサービス展開しています。事業的にいえば「成功率は50%もいかないんじゃないか?」といったような形です。それでも弊社のような地方企業としては、チャレンジしないわけにもいかないので、3年間で5億円の投資をしています。
エネルギーの見える化で店舗ごとのマネジメントを支援
坂本:セブン&アイ様では「サステナビリティデータブック」などでESGの取り組みや各種データなどを開示されています。そのなかでCO2削減といったような環境パフォーマンスの向上などを実現するうえでは、どのようなエネルギーをどのように消費しているか把握することが大切になってきますが、「エネルギー見える化」の意義をどう捉えていますか?
釣流:私たちのグループの約2万店舗に対してそれぞれの店舗がエネルギーをマネジメントできるようになることが一番大事と思っています。昨今「見える化」という言葉がよく使われていますが、まさにその「見える化」が重要なポイントです。
特にセブン‐イレブンが細かな動きをする必要があり、各店舗にスマートセンサーをつけて今どんな電気が使われているのか、どこが無駄に使われているのかがわかるようになっています。例えばバックヤードでは、飲料などの冷蔵庫の扉が後ろから補充できるようになっていますが、開けたままにしていると開けっ放しなことを知らせてくれるようなものです。
ほかにもスーパーストアなどでは、エネルギーマネジメントシステムをどう活用していくかについて、まだすべての店舗には行きわたっていませんが温度異常などの細かい監視についてAI管理を取り入れようとしています。
私たちにとっては、再エネの割合を増やす目的で見える化を進めているものの、すべてが再エネになるのにはまだ少し時間がかかります。現状は「使っているエネルギーをどれだけ下げるか」という部分にウエイトを置きながら活動している状況です。
坂本:セブン&アイ様には、海外の店舗もあるかと思いますが、海外店舗のエネルギーの見える化に関して情報の取得やモニタリングに関しての方策はお考えでしょうか?
釣流:正直に申し上げますと、国によって電力事情が本当に違うことを痛感しております。例えば一番大きなところでは、アメリカの「7-Eleven, Inc.」です。アメリカは、やはりエネルギーの調達がベースとなるので、省エネは当たり前に行いながらも調達コストや創エネなどをバランスよく考えながら実施する必要があると思っています。
ただし電気の見える化は、私たちも一緒に考える必要があるので、日本のセブン‐イレブンでやっていることをアメリカでも同じようにできればいいと思っています。またアメリカだけでなく世界で同じように実行することも理想です。ただフランチャイジーのところも多いので、そのあたりも考慮に入れる必要があります。
あとスウェーデンやハワイなどエネルギー先進国にも私たちのグループの店舗がありますので、エネルギーをより良く使うためにこれから学ばせていただくことも多いのかなと思います。アメリカやカナダでは、BEMSの導入も結構進んでいますので、数値を集計しやすいように工夫しているようです。
そういったシステムを私たちも教えていただきつつ日本での施策も共有しながらより良いものを目指していきたいと思っています。見える化を進めるのは、とても大切なので各事例をもとにヨーロッパや東南アジアなどの店舗や法人も含めてできることを模索していかなければいけないところです。
坂本:セブンアンドアイ様は、投資家の皆様をはじめとしたステークスホルダーに対して、どのような利益をコミットしていこうと考えていらっしゃいますか?
釣流:株主様には、いろいろとご迷惑おかけしていることも多々あると思っています。また私たちは、社会的な責任があるなかで非常に消費者の方に近い企業です。そういったなかでの実感から株価が上下するような事柄に対して「いかにリスクを抑えていくか」を重視して進めさせていただいています。
日常的にさまざまなことが起こりますが「地域の方々と共により良い社会を形成する」ということが私たちにとって最重要項目です。そういったことをご理解いただけるように企業としての情報は、豊富に開示させていただくような努力をさせていただいています。
ただまだまだお伝えできていることが少ないのが現状です。今後も「どれだけ社会のなかで一つひとつの店舗が地域貢献できるのか」をお伝えできるような努力もして参りますので、ご指摘いただけるとありがたいなと思っております。