富裕層が円安でも米ドルに投資する理由
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2022年は年始から約30円も米ドル高・円安に進んでいる。政府・日銀は円安に歯止めをかけるため、24年ぶりに円買い介入を実施した。しかし富裕層の米ドル投資は止まらない。むしろ円買い介入が入る前より増えているという(編集部注:原稿執筆時)。

なぜ富裕層は米ドルに投資するのか。富裕層向けに資産運用コンサルティングを行なっている株式会社ウェルス・パートナー代表の世古口氏に解説してもらった。

世古口俊介
世古口 俊介(せこぐち しゅんすけ)
2005年4月に日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)に新卒で入社し、プライベート・バンキング本部にて富裕層向けの証券営業に従事。その後、三菱UFJメリルリンチPB証券(現・三菱UFJモルガンスタンレーPB証券)を経て2009年8月、クレディ・スイス銀行(クレディ・スイス証券)のプライベートバンキング本部の立ち上げに参画し、同社の成長に貢献。同社同部門のプライベートバンカーとして、最年少でヴァイス・プレジデントに昇格、2016年5月に退職。2016年10月に株式会社ウェルス・パートナーを設立し、代表に就任。2017年8月に内藤忍氏と共同で資産デザインソリューションズを設立し、代表に就任。

円買い介入の効果は限定的

世古口氏によると「富裕層の多くは円買い介入の効果に疑問を持っている」という。

その大きな理由は、政府・日銀が円買い介入に使用できる外貨準備の量にある。日本の外貨準備は約180兆円あるが、その大半は米国債などの証券資産だ。米国との関係もあるので、それらを売却して円買い介入に使用することは難しい。すぐに円買い介入に使用できるのは外貨預金の約19兆円だ。

9月22日に実施した円買い介入の規模は3兆円弱だった。外貨預金19兆円中の3兆円なので、残りは16兆円ということになる。為替相場に効果を与えられる介入規模が1日3兆円だとすると残りは5日分だ。

また1日の米ドル/円の平均取引量は100兆円以上あるため、3兆円の円買い介入が取引量に占める割合は3%以下だ。その程度しか円を押し上げる効果はない。

世界の潮流である米ドル高・円安を止めるための円買い介入としては、あまりにも実行力がないと言わざるを得ない。そう考える多くの富裕層は円買い介入を発表してから、逆に円売り・米ドル買いを進めている。見え透いたアナウンス効果狙いの政策はいずれ瓦解し、さらに米ドル高・円安が進むと考えているわけだ。

上昇した米ドル債券の利回り

富裕層が米ドル投資を増やすもう1つの理由が「米ドル債券の利回り」だ。1年前に比べて、ほとんどの米ドル建て債券の利回りは2.5%ほど上昇している。現在、アメリカの国債ですら4%の利回りを得ることができる。

2020年、2021年はコロナ対策のゼロ金利政策でアメリカも超低金利であった。しかし、2022年になりインフレが止まらないアメリカは政策金利を上げ続けている。それによって米ドルに利回りが復活した。インカムゲイン狙いの富裕層は「待ってました」とばかりに今、米ドル債券への投資を増やしているわけだ。

米ドル建てハイブリッド証券(劣後債、永久劣後債、CoCo債)を含めた債券種類ごとの利回り水準は以下の表の通りだ。債券の銘柄ごとに条件はまったく異なるので、債券の種類や格付けごとの平均値をとった利回りイメージと理解してほしい。

富裕層が円安でも米ドルに投資する理由
米ドル債券利回りイメージ(出典:株式会社ウェルス・パートナー 表は債券投資で発生する税金を考慮しておりません。表は債券投資の利益を保証するものではありません)

「表の通り、現在は劣後債のリスクをとれば6%以上の年利回りで運用することも可能だ。当社の富裕層顧客があらゆる債券に投資してポートフォリオを構築する場合でも、平均の年利回りで7%以上になることが多い」と世古口氏は語る。

富裕層がインカムゲインを求めて低利回り通貨である円を売却し、高利回り通貨である米ドルに投資する。至極、当たり前の現象が起きている。

運用利回りが円高リスクを中和する

前述のように円買い介入に実行力はないとわかっていても、2022年の年始から30円も米ドル高・円安に進んでいる。そのため、米ドルに投資したあとにジェットコースターのように円高へ戻ることを恐れる富裕層も多い。

しかし、そういったときにも「米ドルでの運用利回りの高さ」が円高リスクを低減するポイントになる。米ドルに投資したあとに円高に進んだとしても、利回りが高く運用資産の価値が増大すれば、多少円高に進んでもトータルで考えるとマイナスになりにくいからだ。

運用資産の価値が高まることで年々、為替の損益分岐点が円高に切り下がる。以下のイラストを見るとイメージしやすいだろう。

富裕層が円安でも米ドルに投資する理由
為替の損益分岐点(米ドル/円)(出典:株式会社ウェルス・パートナー 表は債券投資で発生する税金を考慮しておりません。表は債券投資の利益を保証するものではありません)

米ドル円レート140円で投資をスタートして、毎年5%の複利で資産が増えていくという前提だと、年々「米ドル円レートの損益分岐点」が円高に切り下がっていく。「5年後には109.69円、10年後には85.95円を下回って米ドル安・円高になっていなければ、資産価値を含めたトータルではマイナスにならない」(世古口氏)ということだ。

運用利回り5%は現在の米ドル債券の利回りを考えれば税引後でも十分に実現可能な水準だ。米ドル投資後に円高に戻ることを懸念する富裕層でも、10年後に85円を切る円高になっていると予想している人はほとんどいないだろう。

高い利回りでの長期運用によって、円高リスクを中和できることが富裕層の米ドル投資の背中を押しているようだ。

外貨比率がもっとも重要

為替はどう動くかわからない。「たしかに2022年は円安に進んだが、現在の水準が今後のスタンダードになる可能性もある。為替に関してはどの水準であっても、その後、円高に進むことも円安に進むこともすべて“フィフティ・フィフティ”と考えるべきだ」と世古口氏は解説する。

では、どのように外貨への投資額を決めればよいかというと、シンプルに自身の資産に占める外貨の保有比率で考えるべきだ。為替の相場観がないなら、まずは外貨比率50%にすることを目指す。現在20%なら30%増やす、現在70%なら20%減らすといったイメージだ。

円と外貨の比率が50:50なら、円高と円安どちらに対してもニュートラルな状態と考えることができる。短期的な為替相場に右往左往せず、自身の外貨比率を見つめ直して、しっかり資産配分していくことがもっとも重要だろう。

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菅野陽平
菅野 陽平(かんの ようへい)
富裕層の資産管理に詳しいファイナンシャル・プランナー 兼 マネーライター。幼少期より学習院で育ち、学習院大学卒業後、2012年に新卒で野村證券に入社。多くの富裕層の資産管理を担当する。2016年、株式会社ZUUに入社し、日本最大級の金融・経済情報メディア「ZUU online」の編集長を務める。プライベートバンカー資格、AFP保有。編集著書に『富裕層・経営者営業大全』(一般社団法人金融財政事情研究会、2020年7月31日発売)。