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「投資商品の選定」には手間暇がかかる

資産運用業界に30数年もどっぷり浸かり、「バイサイド」「セルサイド」で酸いも甘いも見てきた筆者の立場からすると、実はオルタナティブ投資戦略の中で、自分が利用するなら最も重宝する存在だと思えるのは「コモディティ」だ。

もちろん前回解説した「不動産」や「ヘッジファンド」も大切で必要不可欠なアセットクラスではあるが、机上でアセットアロケーションの比率を弾いて、「さあ、いよいよ実際の投資だ」という段階になると、実は具体的にどこの何に投資するかが最大の難関、つまり「This is the one!!」と言える対象を選定するのに手間暇がかかる。

たとえば、プライベート・エクイティやディストレス証券(*1)は「企業再生」などの課題が投資の成果を握る以上、その運用主体に対するDD(デューデリジェンス)にけっこう手間取る。プライベート・バンクの商品専門チームがそれらを行う場合、沢山の対象ファンド/対象運用会社があるから、ということも理由の1つだが、通常案件でさえDDプロセスを完遂して「ファンドリストに載せてもOK」という結論を出すまでに最低でも半年はかかる。こんな一面からも、その手間暇の度合いが推察いただけるだろう。一般の個人投資家が独自にそれをするとなると、かなり専門的な知識が必要とされる。もしくは「えいや!」で決めるしかない。


*1:経営破綻、経営不振などの理由で財務危機に陥った企業が発行している株式や債券のこと。


話は横道に逸れるが、かつて日本の某金融機関がヘッジファンドを公募の投資信託の建付けにして販売したことがあった。確かにその運用会社は世界的に知名度が高かったので、「あそこが運用しています」と言えば納得する投資家もいたのだろうが、筆者のような立場から見ると、まったくと言って良いほど運用方針、あるいは投資判断の方向性が分からない代物で、「これを販売するんだ……」と妙な感心の仕方をしたものだった。そのヘッジファンドの目論見書には「この単語の意味も知らないの?」とでも言わんばかりに、もっともらしいカタカナ英語の羅列が続いていたが、「何のリスクを取ることの対価として、どんなリターンが期待できるのか」、言い換えると「どういうことになれば、投資収益があがるのか」ということが筆者にはまったく理解できなかった。

ヘッジファンドに限らず、すべての「ファンドDD」について同様のことが言えるのだが、「なぜ、この運用会社にその分野の強みがあると言えるのか」という点が目論見書で確認できなければならない。企業を再生するのなら「なぜ、その運用会社なら再生できるのか」という点が分からなければ意味がない。あのような目論見書を作るぐらいなら、むしろ「当社の伝統とレピュテーションを信じてお任せください」と書かれていた方がよほど誠実なのではと思ったぐらいだ。

そのくらい「投資商品の選定」には手間暇がかかるものなのである。むしろ、手間暇を掛けるべきなのだ。それがもし無理ならば、信頼のおけるアドバイザーの助言を受けるべきである。だが、こと「コモディティ」というアセットクラスに限って言えば、例外的に「投資商品の選定」がとても簡単だと言える。ただし、簡単になったのは筆者の感覚では、ここ15年くらいの話だ。それ以前はむしろ大変だった。ETF(Exchange Traded Fund:上場投資信託)が普及して状況が変わったのだ。

コモディティ・インデックスの登場

「コモディティ」というアセットクラス、日本語で言うと「商品」ということになるが、このアセットクラスに内包されるのは「原油」などのエネルギーや「小麦」や「とうもろこし」などの穀物、そして「金」や「銀」などの貴金属だ。他にも、(バッテリー材料として注目を集める)ニッケルなどの工業用金属や畜産物なども投資対象になる。