Tower mansion and building under construction against evening sky
Sean K / stock.adobe.com、ZUU online

「伝統」と「オルタナティブ」の中間

不動産がオルタナティブ投資を代表する3つのアセットクラス(他の2つはヘッジファンドとコモディティ)の1つとなった理由はいまいち判然とせず、「鶏と卵、どちらが先か」の議論に等しい気もする。そう考えたくなるぐらい、富裕層・超富裕層はほぼ例外なく、それなりのウェイトで不動産を所有している。相続税の課税対象資産を特定する段階で必ず表に出てくるし、全資産に占めるパーセンテージも、場合によっては「過大ではないか」と思われるぐらいに大きい。特に先祖代々続く富裕層・超富裕層でこの傾向が強い。

米カリフォルニア州職員退職年金基金(CalPERS)のような機関投資家でもポートフォリオに「Real Asset」として不動産を所有している。2022年8月末の開示データによると、なんと「16.1%」ものウェイトで「不動産クラス」を保有している(Real Asset Program:「Real Estate」「Infrastructure」「Forestland」の3種類に細分化される)。投資という文脈において、不動産は決して無視できるアセットではない。

そもそも「オルタナティブ投資」とは「代替資産への投資」という意味である。「何」の代替なのか。「株式や債券」という伝統的なアセットクラス(の代替)である。つまり、極端に言えば、「非伝統的アセットクラス」=「オルタナティブ・アセットクラス」ということになる。すると絵画や大型のクルーザー、あるいはビンテージワインが沢山詰まったワインセラーなど、およそ一般の人々には想像もつかない金額のものも投資アセットに含まれることになる。最近ではクラシックカーなど相当に「お値打ち」なものまでも投資対象となっているようだ。古い空冷エンジンのポルシェ911が、最新の大型メルセデスベンツよりも高値で取引されているくらいだ。

だが不思議なことに、これらを「オルタナティブ投資」のアセットクラスとして正式に捉えるというケースはあまり聞いたことがない(あくまでも筆者の経験の中で聞いたことがないだけであって、これらの資産の投資価値を定量化し、正式なアセットクラスとして取り扱うプライベートバンクが存在する可能性までは否定しない)。絵画やクルーザー、クラシックカーが正式な投資アセットクラスとして認識されない大きな理由はおそらく「流動性」(のなさ)と「時価評価」(の困難さ)にあるのだろう。もちろん価値あるビンテージものはオークションで取引されるので、流動性がまったくないということではないが、伝統的アセットクラスの代表格である上場株式のように、リアルタイムに時価が分かり、いつでも売買可能なものかと言えば、当然答えは「否」となる。

このような観点で見た時、実は不動産というのは正に「伝統的アセットクラス」と「オルタナティブ・アセットクラス」の中間に位置するアセットクラスとなる。不動産には「公示地価」と「路線価」があり、比較可能な近隣不動産の売買事例が豊富にある。流動性についても上場株式のように「約定日の2日後(T+2)」というほど機動的ではない場合が多いが、ひとたび取引が成立すれば粛々と手続きが進む。ただリアルタイムの時価は国土交通省が積極的に公表しているわけではなく、仮に時価がリアルタイムで開示されていたとしても、投資家が(ある不動産を)手に入れたいと思った時に時価ですぐに買ったり売ったりできるものではない。

さはさりながら、前述の通り、富裕層・超富裕層のほとんどは全資産の中のある割合で不動産を所有している。そして、その価値変動や収益性は、全資産のポートフォリオの中で例外扱いできるほど小さいものではない。恐らくそうした背景もあって、そもそもは金融商品ではない不動産も「オルタナティブ投資」の代表的なアセットクラスとして捉えられるようになったのではないか。

ところで、「REIT(Real Estate Investment Trust:不動産投資信託)」誕生のきっかけを覚えておいでだろうか。1995年4月に「不動産特定共同事業法」が施行されたことで、「リスク分散されたポートフォリオ」を構成する1つの要素として不動産というアセットクラスが認知され始めた。それまでの不動産向け投資は「賃貸マンションの一棟買い」が基本であり、現在のように数万円から数十万円単位で売買可能なまともな「不動産クラス」は存在しなかった。また、1995年4月以前の不動産投資は、現在以上に詐欺犯罪の温床となることが多かっった。

リアルタイムに時価が分かるか