不動産は需要の高いオルタナティブ投資の1つだが、土地や家、あるいは商業施設の購入には多額の資金が必要だ。特に住宅価格が高騰している国においては、投資どころかマイホームの購入や家賃の支払いに窮する人が増えている。深刻化する住宅難を背景に、不動産投資はごく一握りの層の特権という現状だ。少額から投資できる「REIT(不動産投資信託)」のような金融商品もあるが、所有しているのは対象不動産の信託受益権であり現物不動産ではない。
そのような中、より多くの人々が投資を介して不動産を所有できる環境作りに米国のスタートアップが取り組んでいる。そのソリューションの1つとして存在感を増しているのが、「フラクショナル・プロパティ・オーナーシップ」だ。
高額資産の所有権を共有 タイムシェア、REITとの違いは?
日本においてはまだ馴染みの薄い制度だが、欧米においては資産の所有権や使用権を共有し、投資した割合に応じて利益や維持費などを分割する「フラクショナル・オーナーシップ (Fractional Ownership)」という投資形態が確立されている。自家用ジェットやヨット、高級スポーツカー、リゾート用不動産といった高額資産の所有権を分割させることにより、経済的負担や投資リスクを軽減する目的がある。
「フラクショナル・プロパティ・オーナーシップ」は、この形態を不動産に特化させたもので、「プロパティ・ジョイント・ベンチャー(Property Joint Venture)」と呼ばれることも多い。
「不動産に共同投資する」という概念はタイムシェアやREIT(リート)と共通するが、以下のような違いがある( 「家族や知人と一緒に不動産投資? 『プロパティ・ジョイント・ベンチャー』」(NEXT Keywords #09) )。
タイムシェア(Time Share)
リゾートホテルやマンションなどの一室に一定の期間、所有(滞在)する権利を複数人で共有する。維持管理の負担が少ない。
REIT(Real Estate Investment Trust)
ファンドマネージャーが投資家から集めた資金で不動産への投資を行い、そこから得られる賃貸料収入や不動産の売買益を原資として投資家に配当する。投資家は投資対象の物件を選択できない。
フラクショナル・プロパティ・オーナーシップ(Fractional Property Ownership)
投資家同士が投資対象の物件や運用法などを、物件に関する事項を自ら選択できる。タイムシェアとは異なり、不動産の一部に対する所有証書が発行される。不動産価値に応じて、不動産のシェアの価値が増減する。
フラクショナル・プロパティ・オーナーシップの魅力の1つは、不動産投資のメリットはそのままに投資リスクを分散できる点だ。たとえば200万ドル(約2億8,589万円)の物件に10人で投資すれば、投資家1人当たり20万ドル(約2,858万円)で共同所有できる。単独で投資するより遥かに高額な物件を所有できるためより大きなリターンを狙える一方で、潜在的なリスクは10分の1に軽減される。