本記事は、奥村歩氏の著書『スマホ脳の処方箋』(あさ出版)の中から一部を抜粋・編集しています

メラトニンの分泌が減少する「スマホ不眠症」

不眠症
(画像=Bits and Splits/stock.adobe.com)

太陽が昇る時間に起床して、日の光を浴びながら狩猟や農作業をする。そして、日が沈むと帰宅してお酒を飲んで休む。規則正しい生活を送っていた古代では、不眠症やうつ病の問題は非常に少ないものでした。

その後、産業革命や科学の発達によって、人間の生活が便利になるとともに不規則になります。昼間に日光を浴びて、規則正しく身体を動かすことが減少し、夜中でも電灯が点くため、仕事をしたり、娯楽に興じたりする活動をしたりするようになりました。

このような生活の変化が不眠症やうつ病を急増させました。それに拍車をかけているのがスマホです

私たちは起きて日光を浴びると、元気の素となる脳内エネルギーのセロトニンが活性化して覚醒します。

そして、日光を浴びてから約15時間後に、脳の松しょう果か体たいという部位から睡眠ホルモンと呼ばれるメラトニンが分泌され眠くなります。光と脳内物質の働きで昼夜のリズムが生まれるのです。1日のリズムに当てはめると、午前7時に起きると午後10時には眠くなる計算です。

ところがこのメラトニンは、外部環境が明るいと十分に分泌されなくなります

ですから、夜にコンビニに行ったりスマホを眺めたりなどすると、目が覚めてしまうわけです。特にスマホにはディスプレイから発せられる「ブルーライト」という青っぽい光が含まれています。

この「ブルーライト」はメラトニンの分泌を減らすだけではなく、交感神経を刺激して脳を覚醒モードにします

ちなみに、外科手術室もこのブルーの効果を活用しています。皆さんもテレビドラマで手術シーンをご覧になったことがあるでしょう。

手術する医師や助手、看護師が着るガウンは青色が多いです。患者さんを覆うシーツも同様です。それらは強烈な明るさをもたらすルクスの無影灯で照らされます。そうすると、手術スタッフの覚醒レベルと集中力を高める効果が生まれます。

この効果を同じように、寝室でのスマホ利用もブルーライトによって覚醒レベルを高めます。こういったら理由から、深夜にベッドにもぐり込んでスマホを触ると、睡眠に障害が出るのは当然なのです。

「スマホ不眠症」では、次のような症状が出ます。

・なかなか寝つくことができない(入眠障害)
・眠りが浅くて夜中に目が覚めてしまう(中途覚醒)
・朝早く目覚めてしまう(早朝覚醒)

なお、最近の研究で、人が熟睡しているときに認知症の最大の原因となるアミロイドβが脳のなかで掃除されることがわかりました。したがって、不眠症は認知症の大きな危険因子でもあります。

スマホ酷使によるセロトニンの減少で「スマホうつ」に

スマホの酷使によるセロトニンやメラトニンの分泌減少は不眠症のみならず、うつ病とも深く関係しています。

もともと、不眠症とうつ病は鶏と卵の関係です。鶏と卵の関係とは、卵を産むのは鶏だけど、その鶏は卵から生まれるという「どちらが先か」という問題を意味しています。それと同じように、不眠症が続くとうつ病の発症リスクが高まり、またうつ病になるとたいてい不眠症を合併するのです。

『スマホ脳』(新潮社、2020年)の著者として知られるアンデシュ・ハンセン氏の母国スウェーデンでは、「抗うつ剤」の処方を受けている成人が100万人以上います。この数は、スウェーデン人の10人に1人以上がうつ病と診断されていることを意味します。ハンセン氏は、同書のなかでうつ病の急増はスマホの普及に比例していると述べています。

ハンセン氏は、うつ病の危険性を高める生活習慣として、次の項目を挙げています。

(1)睡眠の問題
(2)座っている時間が長いライフスタイル
(3)社会的孤立
(4)アルコールや薬物依存
(5)スマホの使用

特に(5)がうつ病の危険因子となるのは、SNSによる自己肯定感の低下・不眠症・運動不足につながるからだと推測しています。SNSから膨大に流れてくる情報によって自分と他人を比較し、自己肯定感が下がる。スマホから発せられるブルーライトによって寝つきが悪くなる。いつでも、どこでも持ち歩けるスマホによって運動不足になる。これらがうつ病を発症する危険を高めているというのです。

ハンセン氏の分析はごもっともです。

ただ、うつ病は心や身体の問題というよりも脳の問題です。うつ病の原因は脳過労による脳の機能低下であると考えられており、もっといえば、セロトニンが枯渇し、脳の前頭葉の機能が低下した状態であると考えられています。

ですから、スマホによる脳過労の状態でうつ病を発症することはおかしくありません。脳内エネルギー物質のセロトニンが著しく枯渇しているからです。

スマホ使用に起因するこのうつ病を「スマホうつ」と私は呼んでいます

「スマホうつ」になると、以下のような症状が出ます。

・不眠症
・不安症
・対人恐怖症
・認知機能の低下

「スマホうつ」でも通常のうつでも脳内のセロトニンが著しく枯渇する状態は同じです。

うつ病と合併しやすい「スマホ認知症」

「スマホ認知症」とは、スマホやパソコンなどのIT機器に頼りすぎることで脳の機能が低下する病態です。日常的に起きる症状は次のとおりです。

・人や物の名前が出てこない
・漢字が書けなくなった
・簡単な計算さえできない

スマホ使用による脳機能の低下をいち早く危惧したのは、ドイツの医師マンフレド・シュピッツァー氏でした。彼はデジタル機器の影響で大人のみならず子供たちの記憶力・コミュニケーション力の低下が起きている実態を報告しています。2012年には、著書『デジタル・デメンケア』のなかで「デジタル認知症」と命名して警鐘を鳴らしています。

日本では、私が最近の「もの忘れ外来」の経験からスマホが多くの人の脳に与える影響を論文で報告しています。著者『その「もの忘れ」はスマホ認知症だった』(青春出版社)にも詳しくまとめています。

「スマホ認知症」では仕事や家事などの生活に支障が出て、そこに自分らしく「考える機能」も錆びつき、人間性にも悪い影響を与える危険性があります。その症状やメカニズムうつ病や本物の認知症になる危険も高まります

ただし、認知症は進行・悪化する一方で治らないのに対して、「スマホ認知症」は、スマホの使い方を見直すことで改善できます。

スマホ脳の処方箋
奥村歩(おくむら・あゆみ)
脳神経外科医、おくむらメモリークリニック理事長。1961年生まれ。長野県出身。岐阜大学医学部卒業、同大学大学院医学博士課程修了。アメリカ・ノースカロライナ神経科学センターに留学後、岐阜大学附属病院脳神経外科病棟医長併任講師等を経て、2008 年におくむらメモリークリニックを開設。認知症やうつ病に関する診察を専門とする。日本脳神経外科学会(評議員)・日本認知症学会(専門医・指導医)・日本うつ病学会などの学会で活躍。著書に『その「もの忘れ」はスマホ認知症だった』(青春出版社)、『ねころんで読める認知症診療』(メディカ出版)、『「うちの親、認知症かな?」と思ったら読む本』(あさ出版)などがある。

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