本記事は、奥村歩氏の著書『スマホ脳の処方箋』(あさ出版)の中から一部を抜粋・編集しています

「空気を読む」は脳の大敵!?

ストレス
(画像=takasu/stock.adobe.com)

日本人の脳が疲れているふたつ目の理由には、日本の地理的な問題が関係しています。少し壮大なお話になりますがお付き合いください。

現人類の直接的な祖先となるホモサピエンスは、約5万~6万年前にアフリカから急速に世界中に広がったと考えられています。アフリカを旅立ち、アラビア半島に到達。そこから、近場のヨーロッパへ向かうルートと、遥か遠方まで繋がるアジアへ向かうルートに分かれました。

単種の動物が気候や高度が全く異なる土地に進出して、自然の障壁を次々に突破するのは奇跡的です。そのなかでも特筆すべき人種が日本人でした

アジア大陸の極東の果て、日本列島にホモサピエンスが渡ったのは、4万年以上前であると考えられています。

かつて大陸と地続きだった日本列島はやがて切り離され、その結果、外国とは異なる進化を遂げていきます。日本人は個性的で独特の社会生活を培っていきます。

海に囲まれているため自分の置かれた環境が嫌になっても、簡単に他の場所へ逃げることができません。閉鎖的な社会で人に嫌われないために、仲間外れにならない言動が優先されてきました。

こうして日本人は人を気遣い、規則やルールを重んじる生真面目な性格を培っていきました。古代からのこの気質は、現代にしっかり伝承されています。日本人が勤勉で真面目な性格は国際的にも広く知られている事実です。新型コロナウイルス感染症が蔓延したとき、日本人のマスク遵守率が世界1位だったことからもわかるでしょう。日本は協調性を大事にし、周りとの足並みを揃えることがよしとされている社会なのです。

日本人らしい気質を表す代表的な行動が「空気を読む」です。皆さんも日常的に次のような行動をしていないでしょうか。

例えば、仕事終わりにプロジェクトチームのメンバーで飲み会を開催することになったとします。あなたは飲み会に参加することにあまり気乗りしませんが、皆は楽しそうにお店選びをしています。そんな状況で「私は遠慮します」とハッキリと断れるでしょうか。

あるいは仕事やプライベートで何か意見を求められたときに、周りとは違う主張をするとチームや友人の輪を乱してしまうという理由で、他の人の意見に合わせてないでしょうか。

日本人は、人を思いやって行動する習性があります。しかし、それは他人の目や評価に神経質であるともいえます

もちろん、協調性を持って他人と接することは大切です。しかし、場の空気を読みすぎて自分の意思や感情を抑え込んでばかりいると、気疲れしてストレスは溜まる一方です。

人間関係が悪化して精神的なストレスを引き起こすとセロトニンは大きく減少してしまいます。

ただでさえ脳は人間関係で疲労するのに、日本人は「空気を読む」ことでストレスを抱えやすい。これは、脳エネルギーの消費量を莫大に増やしている原因であり、脳の大敵にもなっています

スマホ脳の処方箋
奥村歩(おくむら・あゆみ)
脳神経外科医、おくむらメモリークリニック理事長。1961年生まれ。長野県出身。岐阜大学医学部卒業、同大学大学院医学博士課程修了。アメリカ・ノースカロライナ神経科学センターに留学後、岐阜大学附属病院脳神経外科病棟医長併任講師等を経て、2008 年におくむらメモリークリニックを開設。認知症やうつ病に関する診察を専門とする。日本脳神経外科学会(評議員)・日本認知症学会(専門医・指導医)・日本うつ病学会などの学会で活躍。著書に『その「もの忘れ」はスマホ認知症だった』(青春出版社)、『ねころんで読める認知症診療』(メディカ出版)、『「うちの親、認知症かな?」と思ったら読む本』(あさ出版)などがある。

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