「暗号資産」が一般メディアで取り上げられることは、一時のブームほどではなくなったものの、いまだに続いている。実際、一部のベンチャーキャピタルや金融機関は、今なお「暗号資産」に熱い視線を注いでいるようだ。この半年余りを振り返ってみても筆者のもとには片手では数えられないほど、「暗号資産」に関するコンサルティング依頼が来ている。
「オルタナティブ投資」には、(伝統的な資産クラスである)株式や債券などへの「ロングオンリー(買い持ち戦略)」の投資に対する「代替(オルタナティブ)」という意味があるが、その流れで「暗号資産」も「オルタナティブ投資」の対象であると考える人たちが多いように思う。そこで今回はオルタナティブ投資アセットとして「暗号資産」をどう捉えるかについて論じてみたい。
「暗号資産」の定義
そもそも「暗号資産」とは何か。最初にその定義を明確にしておこう。ちょうど日本銀行のWebサイトに「暗号資産(仮想通貨)とは何ですか?」という記述があるので、まずはそこからの引用をご紹介する。
「暗号資産(仮想通貨)」とは、インターネット上でやりとりできる財産的価値であり、「資金決済に関する法律」において、次の性質をもつものと定義されています。
(1)不特定の者に対して、代金の支払い等に使用でき、かつ、法定通貨(日本円や米国ドル等)と相互に交換できる
(2)電子的に記録され、移転できる
(3)法定通貨または法定通貨建ての資産(プリペイドカード等)ではない
代表的な暗号資産には、ビットコインやイーサリアムなどがあります。
日本語では「暗号資産(仮想通貨)」と呼ばれるが、英語では「Crypto Currency(クリプトカレンシー)」である。「Crypto(クリプト)」の意味が「暗号」だからだが、資産を意味する「asset」という言葉は使わず、むしろ単に「Crypto」と呼ぶことの方が一般的だ。つまり単純に和訳すると「暗号通貨」だが、なぜか日本語では「暗号資産」だ。これは令和2年5月1日施行の資金決済法の改正により、法令上「仮想通貨」を「暗号資産」へ呼称変更したからだ。
さて、まずここで1つ明確に定義されているのは、法定通貨ではないが「不特定の者に対して、代金の支払い等に使用できる」ということ、すなわち「財産的価値をやり取りすることが可能な仕組みのもの」ということだ。この仕組みが「通貨同等」だからこそ「Currency」とか「通貨」と呼ばれる。だが、日本では「法定通貨ではない」という点を明らかにするためにも、「暗号通貨」ではなく、「暗号資産」という呼び方になった。
ニュアンスの微妙な違いに思われるかもしれないが、「通貨」と捉えるか、「資産」と捉えるかによって、投資対象としても、また投資判断の仕方としてもまったく違ったものとなる。「法定通貨」と区別する意味で「資産」という言い方に変えたその意図は理解できるのだが、「資産」と表記したことで別の誤解を生んでいる可能性は否定できない。なぜなら暗号資産は裏付け資産を持っていないので、その根源的な価値を特定できないからだ。
ともあれ、「暗号資産」がオルタナティブ投資の資産クラスかどうかを論じる上で、ここで1つ説明を加えておかなければいけないことがある。「オルタナティブ投資戦略」には2つの側面があるということだ。