超富裕層の資産ポートフォリオの構築例を3つ紹介

それでは、超富裕層はどのような資産ポートフォリオの構築しているのだろうか。ここからは、代表的な3つの構築例を紹介する。具体的には、

1. 外資系金融機関が運用するバランス型の投資信託またはファンドラップ
2. ドル建て債券で個別の債券ポートフォリオを構築
3. マンデート(投資一任運用契約)

の3つだ。それぞれを解説していこう。

(1)外資系金融機関が運用するバランス型の投資信託またはファンドラップ

(1)は「外資系金融機関が運用するバランス型の投資信託またはファンドラップだ。外資系金融機関(外資系プライベートバンク)は、各社がハウスビューを持っている。平易に言えば「当社は現在の金融市場をこう見ており、今後こうなると思っている。したがって、モデルポートフォリオはこのように組んでいる」と発表しているイメージだ。

そして、このモデルポートフォリオを元にしてバランス型ファンドやファンドラップを提供していることが外資系金融機関の1つの特徴だ。このようなバランス型ファンドなどを保有することによって、外資系金融機関のハウスビューに沿った国際分散ポートフォリオ運用を手軽に行うことができる。

残念ながら昨今の日本国内においては、外資系大手金融機関の撤退などで実際にアクセスできるチャネルが少なくなってきている。実際、山口氏がかつて在籍していたバークレイズで提供していたバランス型の投資信託も、今は日本国内では投資ができない、という。

参考までに紹介しておくと、安定重視型運用から積極型運用まで5つの最適化されたポートフォリオが用意され、さらにバークレイズのハウスビューに沿ったアセットアロケーションを、ETFで構成するファンドオブETFと、各アロケーションをバークレイズが選別する運用会社または運用チームに運用を委託するファンドオブファンズ(マルチマネジャー戦略)が存在した。また、別の外資系大手金融機関では同様にハウスビューをファンドラップの形で提供するところもある。

現在バークレイズ・ジャパンでは、上記の投資信託の情報を引き継ぐ形で、バークレイズ・マルチアセットスイッチ指数なるものが、その運用パフォーマンスを公開している。実際に同指数に投資をすることは叶わないが、今回は、参考までに具体例として、バークレイズ・マルチアセットスイッチ指数を紹介しよう。この指数はリターンではなくリスクを目標としている点がユニークだ。同指数には目標変動率5.0%と2.5%の2種類がある。

世界の主要8資産(米国債券、欧州債券、日本債券、米国株式、欧州株式、日本株式、国内REIT、米ドル)を投資対象とし、ハウスビューに基づいてポートフォリオを組む。また、短期的な変動に対しては、人間の判断ではなくプログラミング売買で随時資産を入れ替えていく。詳細は以下のバークレイズ公式ウェブサイトをご覧いただきたい。

「バークレイズ・マルチアセットスイッチ指数」について

(2)ドル建て債券で個別の債券ポートフォリオを構築

(2)は「ドル建ての個別債券で債券ポートフォリオを組む」ということだ。昨今、ドル建て債券は日本でも容易に入手可能で、国内の超富裕層でも比較的取りやすい選択肢だろう。

ポイントはプライベートバンカーが顧客の要望やリスク許容度を加味し、債券の特性を活かして、オーダーメイド型のポートフォリオを組んでいく点にある。クーポンや発行体、格付けなどを見て、良さそうなものを買っているというわけではない。

一言で「個別債券」と言っても、何を重視するかによって、保有すべき銘柄が変わってくる。今回は以下3つの運用戦略を紹介しよう。

1. ロークーポン戦略
文字通り、クーポンが低い銘柄に投資する戦略だ。債券は基本的に「クーポンが低いほど、また残存期間が長いほど、金利変動に対する債券単価のボラティリティが大きくなる」という性質を持っている。そのため、今後の金利下落を予想しているのであれば、クーポンが低い銘柄に投資することで、キャピタルゲインを狙いやすくなる。保有中のインカムゲインは少ないが、償還差益または途中売却時の利益が大きくなるというわけだ。

2. ハイクーポン戦略
クーポンが高い銘柄に投資する戦略だ。目先のインカムゲインを重視したい場合や、金利動向が読みにくく価格安定性を重視したい場合は有効だ。保有中のインカムゲイン実額が大きいので、運用の実感が得られ、リターンの回収が早い。

3. バーベル投資戦略
クーポンが高いものと低いものの両方、もしくは残存期間が長いものと短いものの両方を組み合わせて、今後の不透明性に備える戦略だ。機関投資家の運用現場でよく活用される。金利低下局面が来れば、ロークーポン戦略ほどではないが、債券単価上昇によるメリットも享受できる。

(3)マンデート(投資一任運用契約)

(3)はマンデートと呼ばれる投資一任運用契約だ。投資一任運用契約とは、端的に言えば「お任せ運用」だ。運用の権限を金融機関側に渡して、逐一顧客に売買の許可を取らずに運用を進める。顧客は一定の間隔で運用結果を報告してもらう。

このマンデートは、海外の超富裕層ではメジャーな運用であり、日本でも野村證券がSMA(セパレートリー・マネージド・アカウント)というサービスを提供している。本場海外においては、外資系金融機関のプライベートバンキングサービスにおける顧客との打ち合わせは、フロント担当であるプライベートバンカーと運用を管理するポートフォリオマネージャーの二人三脚で対応することが多いようだ。

今回はマンデートの3つのポイントを紹介しよう。

1. 各社のグローバルリサーチ、運用力を結集
大手外資系金融機関は、世界中にリサーチチームを設置している。そのリサーチ結果は、このマンデートの運用に活かされることになる。現場のことは現場に聞けということで、各地域の情報はそれぞれのリサーチチームが調査し、本国は情報を統括する立場である。つまり「世界基準の運用が可能です」ということが1つのセールストークになっているわけだ。

2. 体系的で規律ある運用管理
運用資産は一定の方針のもと、個別の資産配分戦略や明確に規定されたルールに従って運用されている。そのため、体系的で規律ある管理がなされていると言える。また、手数料に関しても、個別の売買にフィーがかかることはない。直接投資する部分ではファンドラップのように間接的なコストがかかることも少なく、その分運用パフォーマンスに反映されるコストは軽減できる。また、成功報酬を取り入れた管理口座手数料の形態を採用しているため、コスト面に関しても透明性が高い。

3. サポートチームの充実
サポートにおいては、定期的にポートフォリオの状況をアップデートしていくことが中心になる。投資環境とポートフォリオの状況は、連続した時間軸の上でレポートされるため、過去の検証と将来に向けた打ち合わせが可能になる点が特徴だ。また、前述のような二人三脚の対応に加えて、ポートフォリオマネージャーに対して「この特定の銘柄はポートフォリオに入れないでくれ」といったオーダーを投げることも可能だ。特に複数の金融機関と付き合っている超富裕層の場合、有名企業には各社で重複して投資してしまっている可能性も想定される。そのようなときに、たとえば「アップルは他社でもうたくさん投資しているので御社のマンデートでは入れないでくれ」と要望できるわけだ。ディスカッションでは、ポートフォリオマネジャーの投資判断の考えや根拠も直接聞けたりする点が本格的なマンデートならではの魅力であり、日本ではないサービスである。

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