この記事は2022年11月18日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「過剰流動性の下で乱高下する暗号資産価格」を一部編集し、転載したものです。


過剰流動性の下で乱高下する暗号資産価格
(画像=sumire8/stock.adobe.com)

(CoinMarketCapウェブサイト)

財政支出と金融緩和は、金融市場のみならず、暗号資産市場にも影響を与えている。各国の財政支出が、金融緩和も手伝って過剰流動性を生み出し、暗号資産価格が急騰するなど、その乱高下を引き起こしている。

2018年1月に日本の大手暗号資産取引所であるコインチェック社が約580億円相当の暗号資産流出事件を起こしてから、暗号資産価格は伸び悩んでいたが、2021年に入り急上昇した。暗号資産全体の時価総額の約40%を占めるビットコインの価格も2021年11月には700万円台まで上昇し、史上最高値を更新した。

2021年の価格急騰の主因は、(1)米連邦準備制度理事会(FRB)を中心とする先進国の中央銀行が、2020年にコロナ禍で金融緩和に転じ、各国の長期金利が低下したこと、(2)世界的な株価上昇によりリスクマネーが増加するとともに、暗号資産市場に流れ込んできたこと──が考えられる。

暗号資産は金利が付かないため、リスク回避資産として活用される。つまり、新型コロナの影響で世界中の経済がかつてないほど悪化する中で、投資家が暗号資産へ資金をシフトさせたことが価格上昇に寄与した。

その後、2022年に入り暗号資産価格は急落し、2022年10月には、ピーク時の約4割の水準まで下落した。これは、世界中の物価高に伴う金融引き締めにより、暗号資産から金利の付く資産へのシフトが進んだことが一因である。今後も利上げが続く可能性は高く、暗号資産を巡る環境はますます悪化するだろう。

暗号資産価格が乱高下するのは、取引の大半が投機目的で、レバレッジ取引が活発であることも背景にあると思われる。また、株式・債券市場には、1日に価格が上下する幅を制限する「値幅制限」や、短時間のうちに一定価格以上、上下動した場合に強制的に取引を停止する「サーキットブレーカー制度」など価格安定の仕組みがあるが、暗号資産市場には、そうした機能がない。

暗号資産を巡る規制環境も厳しさを増している。G20の金融監督当局で構成される金融安定理事会(FSB)は2022年10月に、暗号資産に関し、準拠すべき国際ルールを加盟国に対して提言した。また、先進国は、暗号資産取引の課税逃れを防ぐための情報交換を行う新しい枠組みを構築する予定である。

現時点では、暗号資産価格の急落は、各国の金融システムに甚大な悪影響を及ぼさないと思われるが、今後、金融引き締めの影響が顕在化してくる。引き締めのスピードが急でその幅が大きいだけに、楽観視はできない。

過剰流動性の下で乱高下する暗号資産価格
(画像=きんざいOnline)

三菱UFJリサーチ&コンサルティング 主席研究員/廉 了
週刊金融財政事情 2022年11月22日号