ESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みは、投資先や取引先を選択するうえで投資家のみならず大手企業にとっても企業の持続的成長を見極める視点となりつつある。本企画では、エネルギー・マネジメントを手がける株式会社アクシス・坂本哲代表が、各企業のESG部門担当者に質問を投げかけるスタイルでインタビューを実施。

今回は、株式会社バンダイナムコホールディングス経営企画本部サステナビリティ推進室の露木項治氏と平秀之氏にお話をうかがった。株式会社バンダイナムコホールディングスを中核とし、デジタル事業やトイホビー事業、アニメ・音楽、ライブエンターテインメント事業、アミューズメント事業等を展開する、バンダイナムコグループ。欧米やアジアなどグローバルでもその名を知られている、日本を代表するエンターテインメント企業グループだ。

同社では、2021年4月に「バンダイナムコグループのサステナビリティ方針」を策定。「地球環境との共生」「適正な商品・サービスの提供」「知的財産の適切な活用と保護」「尊重しあえる職場環境の実現」「コミュニティとの共生」といったマテリアリティ5項目も特定し、実現に向けた取り組みを開始している。

2050年までに自社拠点におけるエネルギー由来の二酸化炭素排出量を実質ゼロとすることを中長期目標とし、省エネルギー施策・再生可能エネルギーの導入など、脱炭素化社会の実現に向けても歩み始めた。本稿では、施策の詳細や現状の課題、目指すべき未来像などについてインタビューを通じて紹介する。

(取材・執筆・構成=大正谷成晴)

株式会社バンダイナムコホールディングス
露木 項治(つゆき こうじ)
――株式会社バンダイナムコホールディングス 経営企画本部 サステナビリティ推進室 ゼネラルマネージャー 兼株式会社バンダイナムコビジネスアーク 取締役(画像右)
1969年6月22日生まれ。神奈川県出身。1992年バンダイ入社。玩具営業、アパレル事業、玩具事業(幼児向け)ゼネラルマネージャーを経て、2017年よりバンダイナムコグループ総務部を担当。2022年4月より現職。グループにおけるサステナビリティ、リスクコンプライアンス、情報セキュリティの事務局長を務める。
平 秀之(たいら ひでゆき)
――株式会社バンダイナムコホールディングス 経営企画本部サステナビリティ推進室サステナビリティ推進チーム マネージャー(画像左)
1975年11月24日生まれ。東京都出身。1998年株式会社ナムコ(現:株式会社バンダイナムコエンターテインメント)入社。アミューズメント施設勤務を経て、2000年より株式会社ナムコ・エコロテックで企業のEMS構築支援、環境配慮製品の企画開発に従事。2009年から株式会社バンダイナムコゲームス(現:株式会社バンダイナムコエンターテインメント)で品質保証/グリーン調達/CSR、広報や総務などのコーポレート部門を担当、2022年より現職。ISO14001審査員補。

株式会社バンダイナムコホールディングス
2005年9月に玩具メーカーの株式会社バンダイとゲーム・エンターテインメント事業の株式会社ナムコの経営統合により設立された持株会社。東京都港区芝に本社を構える、アミューズメント施設からゲームや玩具、映像ソフトなどまで扱う業界トップクラスの総合エンターテインメント企業。エンターテインメントを通じて「夢・遊び・感動」を提供し続けている。

2010年から「バンダイナムコグループCSR重要項目」を運用かつ定期的な見直しを実施。2022年4月に「Fun for All into the Future」をパーパスとして、これらを実践すべく新たに特定した5つのマテリアリティをもとにSDGsやESG経営などサステナビリティマネジメントにも尽力している。
坂本 哲(さかもと さとる)
―― 株式会社アクシス代表取締役
1975年6月21日生まれ。埼玉県出身。東京都で就職し24歳で独立。情報通信設備構築事業の株式会社アクシスエンジニアリングを設立。その後、37歳で人材派遣会社である株式会社アフェクトを設立。38歳で株式会社アクシスの事業継承のため、家族とともに東京から鳥取にIターン。

株式会社アクシス
エネルギーを通して未来を拓くリーディングカンパニー。1993年9月設立、本社は鳥取県鳥取市。事業内容はシステム開発、ITコンサルティング、インフラ設計構築・運用、超地域密着型生活プラットフォームサービス「Bird(バード)」運営など多岐にわたる。

目次

  1. 株式会社バンダイナムコホールディングスのESG・脱炭素への取り組み
  2. 株式会社バンダイナムコホールディングスが考える脱炭素経営の社会・未来像
  3. 株式会社バンダイナムコホールディングスのエネルギー見える化への取り組み

株式会社バンダイナムコホールディングスのESG・脱炭素への取り組み

アクシス 坂本氏(以下、社名、敬称略):弊社は、鳥取県のIT企業で首都圏の上場企業が主なお客さまです。最近は、電力の見える化にも取り組んでいます。本日はよろしくお願いいたします。

バンダイナムコホールディングス 露木氏(以下、社名、敬称略):株式会社バンダイナムコホールディングスの露木です。サステナビリティ推進室は、2022年4月に立ち上がった新設部署で、グループにおける危機管理や倫理、コンプライアンス、情報セキュリティも担当しております。これら全てがサステナビリティ、つまり企業の持続的成長には欠かせないもの、グループ横断で取り組むべきものと考え、サステナビリティ推進室がグループを統括する役割を担っています。

バンダイナムコホールディングス 平氏(以下、社名、敬称略):露木と同じくサステナビリティ推進室の平です。本日はよろしくお願いいたします。

坂本:御社では、サステナビリティ方針を定め、5つのマテリアリティも特定し、2050年までに自社拠点(社屋、自社工場、直営アミューズメント施設など)におけるエネルギー由来の二酸化炭素排出量実質ゼロも目指すなど、さまざまな取り組みを始めています。まず今日までの成果やビジネスの影響についてお聞かせください。

露木:私たちはバンダイとナムコの経営統合時から、玩具やゲームといった事業の延長線上でCSR活動に取り組んできました。しかしながら現在は企業が社会の一員として社会問題に取り組む、「サステナブル経営」の実践が必要不可欠となっています。「サステナブル活動の強化」「リスク機能の集約」といったことを目的に、このたびサステナビリティ推進室を立ち上げることになりました。今後はバンダイナムコらしさを発揮しながらサステナブル活動に取り組んでいきたいと思います。

:バンダイナムコグループは2010年に「バンダイナムコグループCSR重要項目」を策定、それ以降CSR活動に取り組んできました。そして社会の一員として持続可能な社会の実現に向けた責任を果たすため、またCSR活動をサステナブル活動へと発展させるべく、2019年よりマテリアリティの特定を開始しています。マテリアリティの特定においては「バンダイナムコグループにとっての重要性」だけでなく、「ステークホルダーの皆さまにとっても重要なこと」といった2つの軸を踏まえつつ、有識者にコメントをいただきながら作業を勧めました。

そういった経緯を経て特定されたマテリアリティが「地球環境との共生」「適正な商品・サービスの提供」「知財財産の適切な活用と保護」「尊重しあえる職場環境の実現」「コミュニティとの共生」の5つとなります。

▼バンダイナムコホールディングスが特定する5つのマテリアリティ

株式会社バンダイナムコホールディングス
くまのがっこう ©BANDAI
(画像=株式会社バンダイナムコホールディングス)

:玩具を始め、弊グループの商品には多くのプラスチックを使っており、また全国のアミューズメント施設では多くの電力を使っていますから、脱炭素や廃棄物削減、代替プラスチックといった取り組みは率先して取り組むべきだと考えます。また弊グループが扱う商品・サービスは老若男女を問わず、障がいがある方にも楽しんでいただくものですから、誰もが使い易く、かつ安全・安心でないといけません。IP(Intellectual Property :キャラクターなどの知的財産)の適正な活用や保護もエンターテインメントの持続的な発展に寄与すると考えています。ダイバーシティや人権についても取り組み、弊グループに関わるあらゆる人が、働きやすい職場環境を実現することも大切です。地域やユーザー、世界各国を含めたコミュニティとの共生も忘れてはなりません。このように5つのマテリアリティのどれも私たちの事業展開の上では重要な課題と考えています。

坂本:5つのマテリアリティについてのご説明ありがとうございました。では、ESGの中でも「E」のエネルギー環境を中心とした御社の具体的な取り組みについてお聞かせください。

露木:脱炭素に関しては、2021年度よりグループ会社が入居するビルにおいて再生可能エネルギー由来の電力への切り替えをスタートしました。例えば株式会社バンダイナムコアミューズメントでは、2022年3月より本社ビルで使用する電力の全量を実質的に再生可能エネルギー由来の電力に切り替え、オフィス業務で発生するCO2排出量を実質ゼロにしました。

その他にもアミューズメント施設では、既存機器・設備の省エネ施策ということで「一部店舗の照明」「クレーンゲーム機」「メダルゲーム機」などのハロゲンランプ・蛍光灯をLEDランプに変換しています。また静岡で新たに建設するプラモデル工場(2024年稼働予定)は環境認証に準じた建物にする予定です。

:2022年度においては弊グループの主要拠点がグリーン電力に切り替わります。静岡のバンダイホビーセンター(プラモデル工場)は太陽光発電も併設しています。こういった取り組みからCO2排出量は、約2,000トン程度削減できる見通しです。

▼バンダイホビーセンター(静岡)

坂本:グリーン電力への切り替えは、ビジネスにどのように影響していますか?

露木:各事業現場は、少しコストが上がるので商品・サービスにおいてどのように回収するか悩んでいると思います。ガシャポンは1つ100~300円程度の商品ですから原材料を減らす事は難しいです。小さくしたり薄くしたりすると良いものができない可能性もあります。

坂本:今後の方向性としては、現状の割合で調達を維持していかれる計画でしょうか、それともオフサイト・オンサイトPPAを含めた自家発電の割合を増やしていかれる計画はありますでしょうか?

露木:方向性で言うと、自家発電にはまだまだ踏み込めていません。自社工場(オンサイトPPAの導入予定)があるプラモデル事業以外は、中国やタイ、フィリピンといった海外生産のウエイトが高いこともあり、まだ先は見えていません。ただ今後はよりその部分にも踏み込んで取り組んでいくべきと考えています。

坂本:ありがとうございます。では、その他の取り組みについてもお教えいただけますか。

露木:トイホビー事業の製品を対象に「製品本体」「容器包装」「取扱説明書その他」のカテゴリーごとに設定した独自の環境基準をクリアした製品に与える「エコメダル」認定制度も導入しています。2021年度は490アイテムがエコメダル認定となりました。また業務用ゲームを対象に「エコアミューズメント製品要求事項」を策定。ガイドラインに定められた「グリーン調達基準適合」「省電力」「省資源」等の7つの基準の中で、一定レベルを満たす設計を「エコアミューズメント製品」と認定しています。

▼エコアミューズメント認定製品「機動戦士ガンダム 戦場の絆Ⅱ」

株式会社バンダイナムコホールディングス
©創通・サンライズ
(画像=株式会社バンダイナムコホールディングス

:デジタル事業においても2021年より国連の「Playing For The Planet Alliance」に賛同し、 UNEP が主催している「Green Game Jam」に、スマートフォン向けゲームアプリケーション「PAC-MAN」で参加しています。ゲーム内イベントでは、検索すると緑が増える検索エンジン「Ecosia」を通じた植林活動への貢献も呼びかけています。

▼「パックマン」を使った植林活動への貢献

株式会社バンダイナムコホールディングス
PAC-MAN™& ©Bandai Namco Entertainment Inc.
(画像=株式会社バンダイナムコホールディングス

露木:バンダイナムコグループの共同企画としては、ガンダムシリーズのプラモデル「ガンプラ」のランナー(プラモデルの枠部分)を回収し、リサイクルにより新たなプラモデル製品に生まれ変える「ガンプラリサイクルプロジェクト」も2021年4月から始めています。

全国の「namco」をはじめとするアミューズメント施設約200ヵ所に専用の回収ボックスを設置し、ファンの皆さまから作り終わったランナーを回収したところ、2021年度においては年間目標回収量の110%となる11トンを超えるランナーを回収できました。

回収したランナーは、マテリアルリサイクルとして活用する以外にケミカルリサイクル実証実験のための材料として活用したり、サーマルリサイクルとして電力に生まれ変わったりしています。

▽「ガンプラリサイクルプロジェクト」の概要

ガンプラリサイクル
©創通・サンライズ
(画像=株式会社バンダイナムコホールディングス

「適正な商品・サービスの提供」について

玩具においては日本玩具協会の定める玩具安全基準に加え「安全性」「性能」「表示」のカテゴリーに分かれている約260項目の独自の品質基準を定めクリアした商品しか出荷していません。おかげさまで経済産業省が主催する「製品安全対策優良企業表彰」で第2回(2008年度)、第6回(2012年度)、第9回(2015年度)において「大企業 製造事業者・輸入事業者部門」の最上位賞「経済産業大臣賞」を受賞し、「製品安全対策ゴールド企業」として認定されました。サプライヤーさまと一体になった取り組みとしては、協力メーカーさまと一緒に品質勉強会を毎年実施しするなどしています。

「知的財産の適切な活用と保護」について

重要な経営資源のIP(キャラクターなどの知的財産)を適切に活用・保護することでエンターテイメンントの持続的な発展に寄与できる活動を推進しています。なかでもガンダムは、グループが持つIPのなかでも重要な存在の一つです。

▼IPを適切に活用・保護

2021年度からは人口問題・地球環境問題への新しい発想や技術を募集する企画「ガンダムオープンイノベーション」を実施。パートナー企業さまやいろいろな知見をお持ちの研究機関・企業さまと連携して、さまざまなサステナブルプロジェクトを立ち上げています。2024~2025年度には、採択パートナーとの活動を報告する予定です。

少し形は違いますが、横浜の「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」で展示している「動くガンダム」はグループの知見だけではできないため、外部の知見を取り入れてプロジェクト化できた好事例だと思います。また知的財産保護の取り組みとしては、国際知的財産保護フォーラムのメンバーとして各国の行政機関・関連団体と連携し、実効性のある対策に努めています。

「尊重しあえる職場環境の実現」について

従業員をはじめバンダイナムコグループに関わるあらゆる人々が、各自のライフステージに合わせ生き生きと働ける職場環境を実現すべく取り組んでいます。在宅勤務はもちろんですが、グループ各拠点のオフィスの一部をグループ各社社員が自由に使えるサテライトオフィスとして開放する等、働く場所は、各自が選択する働き方を推奨しています。また人材育成においてもグループ各社がそれぞれの特性に合わせた研修をおこなっています。

▼グループサテライトオフィスYU-PORT

「コミュニティとの共生」について

地域社会に向けた取り組みとして、例えば台東区駒形のバンダイ本社では1階・2階をミュージアムとして近隣の皆さまに開放しています(現在はコロナ禍のため閉鎖中)。バンダイ本社横に設置した様々なキャラクターの立像は、フォトスポットとして有名な場所になってきました。また栃木県下都賀郡壬生町にある、おもちゃ団地協同組合が社会貢献・地域活性化を目的に開催するイベントの参加や支援も行っています。災害時の子ども支援や、玩具を通じた心のケアなどを展開する「バンダイ災害時子ども応援活動」も実施しています。

その他にもバンダイナムコフィルムワークスでは、拠点を置く東京都杉並区と連携してアニメ作品のキャラクターフラッグの制作や展示に協力したり、またアニメ「ラブライブ!サンシャイン!!」の舞台である静岡県沼津市では公共交通機関のラッピングバスの協力なども行いました。

▼「ラブライブ!サンシャイン!!」のラッピングバス

株式会社バンダイナムコホールディングス
© 2017 プロジェクトラブライブ!サンシャイン!!
(画像=株式会社バンダイナムコホールディングス

このように各地域で地域活性やアニメ文化の発展に貢献した活動を実施しています。またライブを開催してチャリティグッズの売上金の一部を震災や豪雨などの被災地への義援金として寄付するなど音楽事業も行っています。一方、スポーツ事業では施設の運営やプロバスケットボールのBリーグで島根スサノオマジックの経営に携わるとともに島根県と連携して集客を支援しました。

海外の取り組みとしては、アメリカのカリフォルニア州アナハイムに弊グループの拠点があることから、2022年4月に米メジャーリーグのロサンゼルス・エンゼルスとスポンサー契約を締結しました。バンダイナムコのロゴマークやパックマンがデザインされた看板をスタジアムに掲出するほか、エンゼルスのラジオ番組やSNSでバンダイナムコの情報を配信したり、地域イベントを開催するなど多彩な演出でバンダイナムコファンとエンゼルスとをつなぎ、ともに球場を盛り上げています。このように多種多様な取り組みを行っていますが、まだまだ模索しながら進めている状況です。

▼米ロサンゼルス・エンゼルスとスポンサー契約を締結

株式会社バンダイナムコホールディングスが考える脱炭素経営の社会・未来像

坂本:DXやIoTが進みスマートシティ構想も現実味を帯びてきました。そんな来るべき未来において、御社が考える脱炭素社会のイメージをお聞かせください。

露木:脱炭素社会は、国や企業が単体で取り組むのではなく、ファンや地域の皆さん、サプライチェーンといった全ての人々の協力がないと実現しません。それは企業の中でも同じことが言えると思います。私たちサステナビリティ推進室だけが声を上げて取り組むのではなく、会社全体で取り組むために、グループ社員一人一人の意識を変えないとサステナブル活動は進まないと思っています。社員一人一人の考えが変わる。そうなればグループが展開する玩具やゲーム、ライブなどにもサステナブルな要素が盛り込まれ、そういった商品・サービスを通じて世の中も一緒になって変わっていく。世界中の人々の意識改革が積み重なってこそ初めて脱炭素社会が実現されると考えています。

私たちバンダイナムコグループは「つながる」「ともに創る」をパーパスの重要な要素としています。「ファンの皆さんと一緒になって取り組むことはできないか」「キャラクターやゲームを通じて少しでも何か伝えることができないか」と想像しながら私たちも社内で動いています。前述の「パックマン」でもご説明させていただきましたが、森林再生の重要性を訴えるゲームといったような楽しみながらサステナビリティを学ぶことが出来るのはエンタメならでは、と考えます。また静岡にあるバンダイホビーセンターでは、その土地柄から茶殻や卵の殻を混ぜたガンプラも作ったりするなど石油由来のプラスチックに代わる新素材の開発もしています。バンダイホビーセンター見学(現在はコロナ禍のため休止中)では、ランナーの端材などをマテリアルリサイクルで成形したエコプラを使い、環境に関わる話をしたり、親子でガンプラを作りながらリサイクルについても学んでいただくような取り組みを始めています。

▼卵殻プラスチックで作られたガンプラ

株式会社バンダイナムコホールディングス
©創通・サンライズ
(画像=株式会社バンダイナムコホールディングス

:実はガンプラリサイクルプロジェクトを始めるとき「ランナーをわざわざ回収ボックスまで持ってくる人はどれだけいるのか?」という疑問の声は社内でもありました。一方、ガンプラの担当者は「ガンプラのファンはこの活動にきっと参加してくれる」と断言していました。実際に始めたら、本当に想像以上の量が回収されるようになり、もっと多くの場所に回収ボックスの設置を求めるご意見も届いたほどでした。

私たちバンダイナムコのサステナブル活動は、ファンの皆さんに参加いただくことが重要と考えています。私たちの活動がファンの皆さんを巻き込んで、それをきっかけに、ファンの皆さんもサステナビリティについて考えていただくようになり、その結果としてサステナブルな未来、脱炭素社会の実現につながっていく。私たちバンダイナムコがそんなきっかけを作れたら良いな、と考えています。

坂本:御社は、サステナビリティの取り組みを積極的に公開していらっしゃいます。各企業でも情報公開を考えておられますが、ESGや脱炭素社会の実現に向けた情報公開やプロモーションをする際に心がけておられる点はありますでしょうか?

露木:いまもホームページなどで情報を発信していますが、よりバンダイナムコらしい打ち出し方ができるよう試行錯誤しているところです。

:サステナビリティに限った話ではないと思いますが、どんな情報であっても興味がない人にその内容は届かない、届きにくいものと思っています。興味がない人に知ってもらう必要はない、と思う方もいるかもしれません。ただ私たちバンダイナムコグループはファンの皆様とともに、世界中の人々を巻き込んでサステナブル活動に取り組むことを目標にしています。どうやってその取り組みを知っていただくのか。私たちが伝えたいことと、ファンの皆さまが知りたいことは異なります。当たり前かもしれませんが、ファン目線、ユーザー目線での情報発信が重要だと思います。

私たちがここで活用するのがIPです。バンダイナムコグループには「パックマン」や「ガンダム」を始めとして、「太鼓の達人」「たまごっち!」「くまのがっこう」など沢山のIPがあります。こういったIPがファンに伝えるチカラは、本当に大きいものです。IPが伝えるチカラは、どんな言葉を並べるよりも影響力、メッセージ性は高いと考えます。例えば「海を綺麗にしよう!」という言葉と「パックマンがゴミを食べることで海がキレイになる」といった動画。どちらがファンの心に残るのでしょうか?ひょっとしたらファンの海洋汚染に対する意識の変化のきっかけに繋がるかもしれません。これこそIPのチカラです。IPのチカラを使ってサステナブルな未来を描く。IPのチカラを信じて世界中のファンの皆さんにサステナブルなメッセージを届ける。それが出来るのは私たちバンダイナムコだと思っています。

▼パックマンビーチクリーン動画

▼マテリアリティ「地球環境との共生」をイメージしたパックマンのイラスト

株式会社バンダイナムコホールディングス
PAC-MAN™& ©Bandai Namco Entertainment Inc.
(画像=株式会社バンダイナムコホールディングス

株式会社バンダイナムコホールディングスのエネルギー見える化への取り組み

坂本:脱炭素を実現するには、電気やガスなどの使用量を表示・共有するエネルギーの見える化が必須といわれていますが、御社ではどのようなことに取り組まれていますか。

:弊グループは、2006年から試験的にCO2排出量の算定を始めました。2022年現在は、全社的にシステムを導入し国内外の全拠点で計測できるようにしています。Scope3対応に関しては事業が多岐にわたっていることもあり外部の協力を得ながら2022年から取り組み始めたところです。

露木:モノを作る玩具は分かりやすいのですが、ゲームやライブ、映画や映像の各事業は基準を設ける必要があるため、知見をいただきながら一歩踏み出したレベルです。見える化ももっと進めたいですね。ここは弊社としてまだ出来ていない部分だと思っています。サステナビリティ関連情報の開示については、今後取り組むべき課題だと考えます。

坂本:Scope3については、いろいろなサプライヤーがいらっしゃると思いますが、どのようにしてデータを収集されていらっしゃいますか?

:製造関連の情報は比較的集めやすいと思いますが、デジタルコンテンツや映像コンテンツの場合、プログラムやデバック、サウンドなどどこまでを上流とすべきなのか、下流に関してもスマホゲームならどこまで・どのように消費電力を計算するのか……正直、弊社でも分からず手探りの状態です。これから外部の協力を得ながら、算出ルールの策定に取り組んでいこうと考えています。

坂本:ダブルカウント・トリプルカウントになる可能性もあり、どこまでサプライヤーを追いかけるのかは、どの企業さまも悩んでいる内容です。弊社でもいろいろと議論を重ねていますが、完全に決め切るのは難しく、おそらく業界単位・業界団体で指針を決めて国に認めてもらう流れになると思います。

:現在私たちは同じエンタメ業界のみならず、様々な企業のサステナビリティ関係者の皆さまと情報交換をさせていただいています。お恥ずかしながら学ぶことばかりですが、そういった知見を取り入れながら適切な仕組み・基準を作り上げていきたいです。

坂本:昨今は、ESG投資が機関投資家・個人投資家から注目されています。その観点で御社を応援する魅力をお聞かせください。

露木:弊社は、経営戦略としてもIP軸戦略を打ち出していますから、サステナブル活動に関してもバンダイナムコらしさが評価につながると思っています。「他の企業様がやっているからではなく、バンダイナムコとしてやるべきこと、バンダイナムコだからこそできるサステナブル活動」への取り組みを強化したいですね。

:エンターテインメントとサステナビリティは中々結びつかないという方もいらっしゃるかもしれませんが、最近はステークホルダーの皆さまから、サステナビリティに関するご質問・お問い合わせをいただくようになりました。エンターテインメント企業だと人気タイトルの発売日などが注目されがちですが、少しずつ変わってきたようにも感じます。

サステナブル活動、そしてESGの取り組みが、どうやって企業価値向上に繋がるのか。例えばステークホルダーの皆さまが弊社のサステナブル活動を知ることで、もっとバンダイナムコが好きになる。その方が親になった時、お子さんにバンダイナムコの商品をお選びいただく。そしてそのお子さんは、新たなバンダイナムコのファンになっていただける。深化と成長といった好循環が続いていく。こういった積み重ねが、結果として企業価値向上に貢献できるものと私たちは思っています。

露木:好きなIPのサステナブル活動を通じて様々な地域のファンと交流するといったこともありますね。ガンダムが好きなファンがガンプラリサイクルプロジェクトに参加、新しい交流が生まれる。「ともに創る」「つながる」これこそがバンダイナムコのサステナブル活動です。『笑顔を未来につなぐ』をテーマに、サステナブルな未来を目指し、これからもバンダイナムコはファンの皆さまと一緒に様々なサステナブル活動に取り組みます。ぜひご期待ください!

▼IPを活かしてサステナビリティに取り組む

株式会社バンダイナムコホールディングス
©創通・サンライズ
(画像=株式会社バンダイナムコホールディングス

坂本:強力なIPを持つ御社だからこそできる施策について大変興味深いお話を伺うことができました。本日はありがとうございました。