本記事は、大村大次郎氏の著書『サラリーマンのための起業の教科書:損しないフリーランスの極意』(小学館)の中から一部を抜粋・編集しています。

経費,ゴム印
(画像=sakura/stock.adobe.com)

自宅の家賃もおおむね6割程度を経費にできる

起業したとき、生活に関連する様々な支出を事業の経費に計上できる場合があります。

もちろん、生活関連費を事業の費用に計上できれば、それだけ税負担は安くなるわけです。

よく「自営業者はサラリーマンに比べて税金が安い」といわれますが、それは自営業者が生活関連の様々な費用を事業経費に計上しているからなのです。

「経費に計上できる生活関連費」の最たるものが家賃です。

事務所や店舗を構えずに、自宅で仕事をしているというフリーランスはかなりの数に及びます。

この場合の自宅の家賃などを経費に計上することができるのです。

ただ自宅家賃を経費にする場合、全額を計上することはできません。あくまで事業に関する部分のみです。だから原則としては、プライベートで使っている部分と事業で使っている部分を按分しなければなりません。

「按分の仕方」は特に決まっていないのですが、合理的でなければなりません。

たとえば、自宅のうち仕事で使っているスペースを割り出して、その広さの割合に応じて経費に計上するというようなことです。

この按分の方法がなかなか難しいものではあります。

仕事の部屋と居室が分かれていればいいのですが、都会の狭い住居などでは、仕事部屋とプライベートの居室が兼用になっていることが多いはずです。

そういう場合は、だいたい家賃の6割程度だったら、普通は税務署も認める範囲です。だから、もし仕事部屋とプライベートを明確に分けることができなければ、6割を目安に経費計上すればいいということになります。

ただ、これは法律で確定していることではなく常識の範囲内(いわゆる社会通念上というやつですね)での話になります。

たとえば、高額家賃の広い部屋に住んでいて、仕事はその中の一室だけを使っている、というような場合は、家賃の6割も経費に入れるのは認められないでしょう。その場合は、仕事で使っている部分をきちんと按分して計上すべきです。

逆に非常に狭い部屋に住んでいて、そこで仕事をしている場合、仕事のスペースは8割と計上しても文句は出ないでしょう。もちろん、光熱費や通信費なども按分して経費にすることができます。

また別に住む場所はあるのだけど、仕事のためだけに別に部屋を借り、そこで居住している場合などは全額を経費に入れることができます。

家族への給料を計上できる「専従者給与」「専従者控除」

起業すれば、家族に給料を払うこともできます。

青色申告の個人事業者には「専従者給与」という支出が認められています。

「専従者給与」とは妻や親、子どもなどが、その事業の手伝いをしている場合、一定の支出を認めるという制度です。

青色申告の場合は、この専従者給与には限度額はなく、一般の常識の中でならいくらでも専従者への給料を出せます。

ただし給料支払いの対象となる家族は、事業者と生計をいつにしていて、年齢が15歳以上ということになっています。配偶者控除の対象となっている家族、扶養控除の対象となっている家族は、この給料支払いの対象とはなりません。

また給料の額は、事前に届出書を出さなければなりません。届出書に記載された範囲の額までであり、いくら儲かった年でもそれ以上は出すことはできません。この点が、会社をつくって家族に給料を払うときと大きく違う点です。

白色申告の場合は、「専従者給与」の支払いは認められていませんが、その代わり「専従者控除」というものが認められています。これは妻(配偶者)は年間86万円、他の親族ならば年間50万円が、「専従者控除」として事業の経費にできるというものです。青色申告と違って、事前に税務署への届け出などは必要ありません。なので、家族への給料を計上するかどうかは、決算が終わってから判断することもできるのです。「今期は儲かったから家族へ払ったお金を専従者控除として計上しよう」ということもできるのです。

ただし、事業所得を専従者の数に1を足した数で割った金額が上限となります。

たとえば、専従者控除を差し引く前の事業所得が140万円で、専従者の数が1人だった場合、「140万円÷2=70万円」が専従者控除の額となります。

また事業者の配偶者控除の対象となっている人、扶養控除の対象となっている人は、この給料支払いの対象とはなりません。

家族に給料が払えるといっても、その業務の対価として適正でなければなりません。著しく高い給料は認められません。

交際費を使い倒そう

事業の経費の中には、交際費というものがあります。交際費というのは、その名の通り仕事に関連した交際にかかる経費のことです。

フリーランスが、税金の上でもっとも得になるのがこの交際費といえます。

特に酒好き、社交好きの人は、自分の遊興費の多くを「交際費」として事業の経費に計上できるのです。

この交際費は、けっこう範囲が広いものです。取引先だけでなく、部下や同僚との交際でも大丈夫なのです。少しでも仕事に関係する人であればOKなのです。

その人と一緒に飲食などをすることで、仕事上有益な情報を得られる可能性があるのならば、それは十分に交際費に該当するのです。また事業を行っている人が、その社会的付き合いから、やむをえず参加しなければならない会合などの費用も当然、交際費に含めていいのです。

そしてフリーランスの場合、この交際費の制限がないのです。

法人(会社)の場合、原則として交際費は税務上の経費にはできません。資本金100億円以下の法人は、交際費の半額しか経費に計上できず、資本金100億円を超える大企業やその子会社は、交際費をまったく経費に計上できません。資本金1億円以下の中小企業は年間800万円を超えると半分までしか交際費を認められていません。

しかし、フリーランスにはそのような制限はありません。つまり、理屈の上では、フリーランスは交際費を無制限に使えるのです。

この点に気づいていないフリーランスはかなり多いのです。営業が主体で接待交際費が多い事業などでは、あえて法人化せずに個人で事業を行うというのもアリだと思われます。

この交際費という経費は、税務署と見解の相違が起きやすいものでもあります。

税務署としては、私的経費が含まれているのではないかと常に疑いの目を持っています。仕事とはまったく関係のない、私的な交際費であれば経費にできませんので、税務署はそれを見つけたいのです。そしてあの手この手で交際費を否認してこようとします。

ですが、先ほども述べましたように、交際費は少しでも仕事に役に立ちそうなものであれば大丈夫です。大事な取引先を連れて、高級レストランやキャバクラに行っても構いません。

また交際費が仕事に関連するかどうかの明確な基準はありません。

その場合、何が判断基準になるかというと、まずは納税者が「交際費と判断したかどうか」です。日本は申告納税制度を採っているので、原則として納税者の申告は認められるのです。税務署側が、その交際費を否認するための明確な証拠を持っていない限り、否認することはできません。

また税務署は、「交際費が多すぎる」などといってくることもありますが、交際費が多すぎるからといって否認できるものではありません。1つ1つの交際費が、交際費に該当しているのであれば、多すぎるからダメなどということはありえないのです。

だから、税務署に対してしっかり主張しましょう。そして、税務署の質問に惑わされないようにしましょう。

ただし交際費について、税務署の目が厳しいことは確かなので、領収書や相手先などの記録はきちんと残しておく必要があります。

=サラリーマンのための起業の教科書
大村大次郎
大阪府出身。元国税調査官。国税局で10年間、主に法人税担当調査官として勤務し、退職後に経理事務所などを経て、経営コンサルタント、フリーランスのライター・作家となる。執筆、ラジオ出演、連続ドラマの監修など幅広く活躍している。ベストセラーとなった『あらゆる領収書は経費で落とせる』『税務署員だけのヒミツの節税術』(共に中公新書ラクレ)のほかに『やってはいけない相続対策』『やってはいけない老後対策』(共に小学館新書)など多数のヒット作を上梓している。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます
ZUU online library
(※画像をクリックするとZUU online libraryに飛びます)