ESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みは、投資先や取引先を選択する上で投資家のみならず、大手企業にとっても企業の持続的成長を見極める視点となりつつある。本企画では、エネルギー・マネジメントを手がける株式会社アクシス・坂本哲代表が、各企業のESG部門担当者に質問を投げかけるスタイルでインタビューを実施。今回は、株式会社オープンハウスグループ専務取締役/CFOの若旅孝太郎氏にお話を伺った。

戸建て事業を中心に事業を展開する、総合不動産会社として知られるオープンハウスグループ。現在は関東圏に加えて名阪地区にも進出を果たし、収益不動産事業や金融サービスも手がけるなど、グループの事業を拡大している。また地域共創への取り組みや、持続可能な発展を支える環境保全活動や地域貢献活動にも注力している。本稿では環境面のトピックを中心に、同社の施策や成果、今後目指すべき姿について、対談を通じて紹介する。

(取材・執筆・構成=大正谷成晴)

若旅氏
若旅孝太郎(わかたび こうたろう)
――株式会社オープンハウスグループ専務取締役/CFO
株式会社住友銀行(現株式会社三井住友銀行)、スターバックスコーヒージャパン株式会社を経て、2009年入社。執行役員企画部長、取締役 執行役員企画本部長、取締役 常務執行役員 管理本部長 兼 企画本部長を歴任し、現在は株式会社プレサンスコーポレーション取締役、オープンハウスグループ専務取締役。財務責任者、サステナビリティ委員会委員長などを担当する。

株式会社オープンハウスグループ
株式会社オープンハウス及び関係各社において、戸建関連事業、マンション事業、収益不動産事業、アメリカ不動産事業を中心に、住まいや暮らしに関連する各種サービスを展開。
2022年1月より、株式会社オープンハウスグループを純粋持株会社とする持株会社体制に移行。創業の首都圏に加え、名古屋圏、大阪圏、福岡圏へと展開し事業を拡大するとともに、近年は地域共創のための活動や、環境保全活動にも注力している。
株式会社オープンハウスグループ Web サイト URL:https://openhouse-group.co.jp/
坂本 哲(さかもと さとる)
―― 株式会社アクシス代表取締役
1975年生まれ、埼玉県出身。東京都で就職し24歳で独立。情報通信設備構築事業の株式会社アクシスエンジニアリングを設立。その後、37歳で人材派遣会社である株式会社アフェクトを設立。38歳で株式会社アクシスの事業継承のため、家族とともに東京から鳥取へIターン。

株式会社アクシス
エネルギーを通して未来を拓くリーディングカンパニー。1993年9月設立、本社は鳥取県鳥取市。事業内容はシステム開発、ITコンサルティング、インフラ設計構築・運用、超地域密着型生活プラットフォームサービス「Bird(バード)」の運営など、多岐にわたる。

目次

  1. 株式会社オープンハウスグループの再エネ・脱炭素に対する取り組み
  2. 株式会社オープンハウスグループが考える脱炭素経営の社会・未来像
  3. 株式会社オープンハウスグループのエネルギー見える化への取り組み

株式会社オープンハウスグループの再エネ・脱炭素に対する取り組み

アクシス 坂本氏(以下、社名、敬称略):鳥取県に本社を構え、システム開発を中心に事業を展開している、アクシス代表の坂本です。現在は電力の見える化などのサービスも提供しています。本日はよろしくお願いいたします。

オープンハウスグループ 若旅氏(以下、社名、敬称略):オープンハウスグループ専務取締役の若旅です。ESG全般について管掌する取締役を務めています。弊社もいろいろと取り組んでいますが最先端を走っているわけではなく、試行錯誤しながら進めているところです。本日の対談で、我々も考えを深めたいと思います。よろしくお願いいたします。

坂本:御社は温室効果ガス排出削減やエネルギー・マネジメント、森林保全など環境保全に対する活動を行い、2021年には日本の森林問題・環境問題を国産材の利用を通じて解決することを目的に、御社を加えた分譲住宅メーカーが手を組み、一般社団法人 日本木造分譲住宅協会も設立しました。ここではESG・脱炭素を中心に、これまでの取り組みや成果、ビジネスへの影響をお聞かせください。

若旅:ESGに関して比較的早くスタートしていたのは脱炭素というより、地域共創でした。弊社代表が群馬県出身ということもあり、行政とタイアップしていくつか取り組みをさせていただいています。例えば、みなかみ町では地域の課題解決に向けた「みなかみまちづくりプロジェクト」を産官学金連携で推進し、温泉街の再生やスキー場の運営などまちづくりに関わり、ぐんま昆虫の森での森林整備を行う「オープンハウスの森プロジェクト」も推進しています。

▼「オープンハウスの森プロジェクト」を推進

オープンハウスの森
(画像=株式会社オープンハウスグループ)

これらの活動と並行してCO2削減についても検討・実行してきましたが、直近ではいくつか事例が出始めました。中部電力ミライズと大阪ガスによる電力会社、CDエナジーダイレクトの提供する再エネ電力をお客様にご紹介するのは、その一つです。弊社の強みである「顧客との接点」を活かした取り組みを進めています。各電力会社・ガス会社は再エネ電力のメニューを用意していますが、それほど宣伝していませんし、お客様と新規契約を締結する際に積極的におすすめすることもできません。ところが、我々は住宅を販売する際にご説明やご推薦ができます。住宅をご購入する際は、どうしても家自体が主役になり電力は後回しになりがちで、再エネメニューが普及しにくいという事実もありますから、弊社がクッションとして入り認知度を高めることで社会に貢献したいです。私たちが電力を作るというよりは、世の中にある再エネメニューを浸透させたいと考えています。

▼CDダイレクトの再エネを顧客に紹介

再エネ電力供給
(画像=株式会社オープンハウスグループ)

坂本:次に、省エネ住宅に対する取り組みについても教えていただけますか。

若旅:東京ガスとの取り組みで、弊社グループのオープンハウス・ディベロップメントで新築注文住宅を建てる全国のお客様を対象に、初期費用が設置工事費のみで太陽光発電設備を導入できる「ずっともソーラー(フラットプラン)」の提供を、2022年4月より始めました。これは、東京ガスが提供する太陽光パネルを屋根の上に載せる屋根貸しのメニューです。我々はお客様が戸建てを建てるところから関わらせていただきますから、その中でご提案が可能です。

坂本:昨今はエネルギー価格の高騰もあり、太陽光発電設備に対する消費者の関心は高いと思います。また、2025年度から住宅の省エネ基準適合化が義務化されますが、住宅そのものに対する省エネ化については、どのような取り組みをされているのでしょうか。

▼新築注文住宅を対象に提供する「ずっともソーラー(フラットプラン)」

株式会社オープンハウスグループ
(画像提供=株式会社オープンハウスグループ)

若旅:都心部に手の届く価格で住宅が持てることは、弊社の特徴かつ存在意義です。社会的背景を振り返ると、今は共働きが当たり前で、昔のような専業主婦の世帯はあまりありません。これに伴い、郊外の庭付きに比べると多少狭くても都心部に家を持ちたいというニーズは高まっています。とはいえ都心の住宅は高額ですから、我々は無理のない価格で良質な住宅を提供することを前提としています。

その中で何ができるかというと、住宅性能を高めるオプションの用意です。一般的なグラスウール断熱材よりも機密性が高く、防湿機能に優れた高性能グラスウールを採用するなど、購入予算とのバランスを見ながら、企業努力によって幅広い選択肢を提供しています。省エネ住宅を標準にすると手の届かない価格になり、通勤時間が長い郊外に住まざるを得ないというのは避けたく、そこはバランスが重要だと思っています。

坂本:御社が提供する住宅での取り組みについては、よく理解できました。一方、事業所も含めて自社内における省エネへの取り組みについて教えてください。

若旅:弊社はメーカーと違い、排出量自体は多くありません。最も多いのは営業車両です。これに関してはハイブリッド車を全面的に使用し、インフラの普及が進むにつれ、順次EVにシフトする案もあります。

坂本:脱炭素の取り組みは、事業者のコスト負担増を招く可能性があります。そのあたりはどのようにお考えでしょうか。

若旅:まず、本業の収益をきちんと上げていくことです。省エネ・脱炭素のコストは必要なものですから、投資できる環境にしておくことが肝心です。

坂本:太陽光の自家消費はしていらっしゃいますか。

若旅:太陽光の自家消費はしていません。ただし太陽光ファンドの組成を始めたので、将来は転用を視野に入れています。

▼太陽光ファンドを組成

太陽光ファンド(群馬)
(画像=株式会社オープンハウスグループ)

株式会社オープンハウスグループが考える脱炭素経営の社会・未来像

坂本:SDGsやESGの観点を含めて今後の御社における未来像や構想についてお聞かせください。

若旅:繰り返しになりますが、消費者が都市部に住宅を持てるように企業努力を続けることが当社の存在意義だと考えています。ニューヨークやロンドンなどの先進国の都市部では、20代や30代の方が平均的な住宅を買うことができず社会問題になっています。それが可能なのは日本くらいであり、実現に寄与するとともに、さらに良質な住宅を提案できるようレベルの向上にも努めます。

脱炭素社会が進む中で我々ができることは、バランスをどう取っていくかだと思います。現実の世界では一足飛びにゲームチェンジが起こることはないため、私たちもそうですし、建築資材や住宅設備といったサプライヤーと協力しながら、少しずつ良くしなければならないと思っています。そのためには行政による規制や補助金、税制面など、バックアップも必要です。国土交通省が前向きに検討しており、すでに省エネ住宅への補助金や税制優遇がありますから、これらを活用しながら普及させていけばよいでしょう。

実際のところ、電気代が高騰し始めたことをきっかけに、一般家庭におけるエネルギー問題は身近になっていて、家庭での太陽光発電システムは本格的に普及するフェーズに差しかかっています。一方で何をすればよいかわからないというのが正直なところで、だからこそ再エネを推進・啓蒙することが重要だと思います。弊社は大都市圏において相当な規模の事業をさせていただく立場であり、お客様と直接の接点を持っているからこそ、訴求に努めなければなりません。長い年月をかけ、それが当たり前の社会になるまで貢献していきたいと考えています。

坂本:御社は、ESG・脱炭素に対する取り組みをホームページなどで積極的に公開しています。今後、脱炭素社会実現に向かい、各企業はどのような取り組みを行うべきでしょうか。

若旅:他社について論ずる立場ではありませんが、まずは経営陣の理解と前向きに取り組むためのコミットメントが必要です。最先端の取り組みは取り上げられやすく、事業者も力を入れがちです。それはそれで必要だとは思いますが、地道な活動も忘れてはなりません。特に生活に密着する住宅については、弊社としてもコツコツ進めていくことが大切だと考えています。長い目で見ると、それが最も効果が出ると思います。

株式会社オープンハウスグループのエネルギー見える化への取り組み

坂本:脱炭素を実現するには、電気やガスなどの使用量を表示・共有するエネルギーの見える化が必須といわれていますが、御社ではどのようなことに取り組まれていますか。

若旅:現状で行っているのは、GHG排出量の可視化などベーシックな取り組みくらいです。見える化は事業者側・消費者側の双方にとってモチベーションになります。ただし、トラッキングには費用がかかるので、そことの兼ね合いだと思います。

坂本:Scope1、2の集計はどのように行っていますか。

若旅:各事業所で電力料金に係数をかけてCO2排出量を算出し、エクセルを使って経営企画部が取りまとめています。

坂本:昨今は、ESG投資が機関投資家・個人投資家から注目されています。その観点で御社を応援する魅力をお聞かせください。

若旅:私はCFOも務めているので投資家の皆様と対面する機会が多く、欧州系の方々を中心にESGに対する弊社の取り組みについて質問を受けることが増えました。これまでは環境についていえることは少なかったのですが、今後は省エネ電力の普及・推進の実績をお出しできると思います。そのような点に注目していただけると幸いです。

坂本:本日のお話で、省エネや脱炭素に対する御社の姿勢がよくわかりました。

若旅:坂本社長は弊社の取り組みについて、どう思われましたか。再エネに関しても太陽光以外に風力や地熱などがあり、何がベストかわからず手探りの状態です。前に進まないと何も始まりませんから始めていますが、さまざまな事例をご覧になっているお立場からご意見をお聞きしたいです。

坂本:今年度に専門部署を立ち上げるなど、これから本格的に取り組む企業が多いという印象を受けています。ですから、御社の動きが遅れているとはまったく思いません。一方、ほとんどの企業は手計算でCO2排出量を計算しているようですが、自動化にシフトするケースも出てきました。そのほうが事務作業や人件費の削減でき、間違いやチェック作業からも解放されます。エネルギー見える化の効率化に取り組む企業も出てきており、弊社でも2022年になってから問い合わせが急増しました。

どの企業も最終的に悩むのはScope3の集計です。国自体の方針が定まらず、各企業もどこまでを自社のScope3だと認識すべきかが曖昧になっています。おそらく今後は業界ごとに範囲を定めて、国に認めてもらうという流れになると思います。

若旅:排出権取引の状況や今後の整備はどうなるのでしょうか。

坂本:まだ確実ではありません。今後製造業など自社でCO2をかなり排出する企業は、電力を調達するだけでなく、自社で発電施設も保有すると思います。その場合、自社発電分もトレーサビリティしなければ正確な排出量を証明できないので、最近は電力の経路の見える化に対するご相談も増えてきました。使用量の削減だけでなく発電状況や経路の把握も必要になり、創エネの考え方も広がっています。外部に頼ると価格変動のリスクにさらされるので、資本力のあるプライム企業などはリスクヘッジも含めて考えているようです。

若旅:上場企業は環境意識の高い外国人投資家も多いのでプレッシャーがあるでしょうし、今はESG・脱炭素関連の予算もつきやすいと思います。

坂本:Z世代は環境への関心が高く、その層へのアピールもあるようです。海外では、環境対策を行わない飲食チェーンがバッシングを受けることは珍しくありません。顧客に対して自社のエネルギー情報を見える化しておくことも、今後はより求められると思います。本日はありがとうございました。