後継者が事業を引き継ぎたくないと感じる4つの理由

後継者側の視点に立つと、どのような場合に事業承継をしたくないと感じるのだろうか。

1.会社に将来性がない

日本政策金融公庫総合研究所の調査でも回答として示されたように、引き継ぐ事業に将来性があるかどうかは事業承継の成否に重要だ。

2019年版「中小企業白書」は、事業承継の後継者が直面している課題についての調査結果を紹介している。ここでは、事業承継の後継者候補を、事業を継ぎたいと考えているがまだ合意はとれていない「積極的後継者候補」と、前向きではないが事業を継ぐかもしれないと考えている「消極的後継者候補」に分類した。

この「消極的後継者候補」に、事業を継ぐことに前向きでない理由を尋ねたところ、「事業の将来性」と回答した割合が40.4%だった。これとは対照的に、「積極的後継者候補」に事業を継ぎたい、または継いでもよいと考える理由を尋ねたところ、30.0%が「事業に将来性があるから」と回答した。

後継者候補が積極的か消極的かに関しては、事業の将来性が大きく影響していることが読み取れる。

2.経営に自信がない

事業の将来性と同様に、引き継いだ会社を経営していく自信が持てないことも、後継者が事業承継に前向きになれない理由として大きい。「消極的後継者候補」に事業を継ぐことに前向きでない理由を尋ねた質問で、最も多かった回答は「自身の能力不足」の57.6%だった。

さらに、「消極的後継者候補」を「事業の将来性に懸念がある」グループと、「事業の将来性に懸念はない」グループに分けて、事業の将来性が経営に対する自信にどのような影響を及ぼしているかを分析した。

結果は、「事業の将来性に懸念がある」グループで、「自身の能力不足」を事業承継に前向きになれない理由として挙げた割合が57.4%、「事業の将来性に懸念はない」グループは57.7%だった。

つまり、事業の将来性の有無にかかわらず、「消極的後継者候補」の半数以上が、会社を引き継いだ後の経営に自信が持てない実態を示している。

3.今の仕事を辞めたくない

事業承継に対して前向きになれない主な要因は、事業の将来性と経営に自信が持てないことの2つだが、他にも理由はある。

例えば、後継者候補が引き継ぐ会社の事業とは別に仕事をしており、その仕事を辞めたくないというケースだ。「消極的後継者候補」が前向きになれない理由として3番目に多かったのが、「現在の仕事への関心」の28.6%だった。

4.事業承継後の混乱

会社を引き継いだ後に社内でさまざまなトラブルが生じ、事業承継に失敗した事例もある。例えば、後継の経営者のことを他の従業員が認めておらず、離職者が相次いだり、反対に後継者を追い出そうとしたりするケースだ。

家族経営の会社の代替わりで親族トラブルが生じ、資金流出が起きて業績悪化につながることや、後継者に反目するベテラン従業員との関係がこじれ、ひいては取引先が離れることも珍しくはない。

あるいは、後進に道を譲ったはずの前経営者が影響力を持ち続け、会社の意思決定に口をはさむなどして混乱が深まる場合もある。いずれのケースでも、トラブルの収拾に手間取り有効な対策を打てなければ、最悪廃業に追い込まれるかもしれない。事業承継は会社を引き継いだ後のことまで考えて行う必要がある。