事業承継に失敗しないためにすべき3つのこと

以上の点を踏まえ、事業承継に失敗しないためには何が必要だろうか。

1.事業の将来性を高める

「消極的後継者候補」のおよそ4割が事業承継に前向きになれない理由として事業の将来性を挙げていることからも、事業の将来性を高めることがいかに重要かわかる。

もっとも、一口に事業の将来性を高めるといっても、それは簡単なことではない。どのタイミングで事業を引き継ぐかを見据えながら、人材育成に業務改善、コスト削減などを進め、先々の見通しを示していくほかはないだろう。

2021年版の中小企業白書によると、事業承継を実施した企業の当期純利益成長率は、そうでない同業企業の平均値と比べて、約20%高かった。後継者候補に自社に将来性があることをいかに示していくか、工夫と努力が必要だ。

2.後継者教育

事業の将来性にかかわらず、半数以上の「消極的後継者候補」は経営に対して自信を持てないでいる。後継者をいかに育成していくかも事業承継の成否を左右する。

後継者の育成に関しては、社外で経験を積ませる方法と社内で教育する方法の2種類がある。

社外教育のメリットは、自社では経験できない仕事などを通じて新たなスキルや経営手法を身につけられたり、人脈を広げられたりする点だ。社内で後継者を育成するメリットは、さまざまな部門を経験させて業務全体のプロセスを理解させたり、経営幹部として参画させ、使命感や責任感を養ったりできることである。

いずれか一方のみで後継者を育成するのではなく、若いうちに社外経験を積ませ、後に社内に戻して経営者としての自覚を促すなど、年齢やタイミングを考慮して中長期的に育て、自信をつけさせるのがよいだろう。

3.事業承継計画の準備

会社を引き継いだ後に社内トラブルが生じて事業承継に失敗することを回避するためには、入念な事業承継計画も必要だ。

従業員や取引先など関係者の理解を得ずに拙速に事業承継を進めれば、思わぬトラブルを招きかねない。後継者候補に対して他の従業員がどのような思いを抱いているか、また、親族の間で不満がくすぶっていないかなど、関係者の気持ちに意識を向けることも重要だ。

事業承継の場面では、自社株や土地、借入金の扱いなども焦点になる。後継者と緊密にコミュニケーションをとりながら齟齬が生じないようにし、事前に計画を立てて、関係者の理解を得ながら円滑に進めたいところだ。

後進が経営者になりたいと思うような経営者像を示す

事業承継の課題の1つが後継者不足である以上、後進が経営者になりたいと思うような経営者像を示すことも肝要だ。そのためには、経営に関心を持っている世代が経営者に対してどのような憧れを抱いているのか、知っておいて損はないだろう。

日本政策金融公庫総合研究所の「2021年度起業と起業意識に関する調査」によると、起業関心層が起業したいと思う理由で最も多かったのが「収入を増やしたい」の61.6%だった。次いで多かったのが「自由に仕事がしたい」の48.9%で、「自分が自由に使える収入が欲しい」が17.5%と続いた。

同調査では、実際に起業した起業家にも、その動機を尋ねている。起業の動機として最も多かったのは「自由に仕事がしたかった」の61.1%で、続いて多かったのが「収入を増やしたかった」の39.6%だった。

2つの質問からうかがえるのは、経営に関心を持つ世代が、「自由に仕事がしたい」という思いと、収入増への憧れを抱いていることだ。

後継者の事業承継に対する思いはそれぞれ個別の事情があるだろうが、一般的にこのような経営者像を抱いているという点は留意しておいてよい。