税の適正化には、相続発生前からの対策が肝要
事業承継では、後継者が経営者から自社株式や事業用資産を引き継がなければならないが、これらの取得には贈与税や相続税が発生する。
相続税の負担が重すぎて後継者が十分な株式を取得できなかったり、従業員を後継者に決めたものの、自社株式取得に伴う贈与税を払う資金が準備できなかったりするなど、重い税負担は円滑な事業承継の妨げになることがある。
中小企業の事業承継に伴う税金については、納税猶予や免除などさまざまな特例が用意されているので、しっかりとした対策を立てることで、負担を軽減することができる。
中小企業対象の事業承継税制
例えば、事業承継税制は、後継者が相続や贈与によって取得した自社株式などについて、一定の要件の下、相続税や贈与税の納税が猶予・免除される制度だ。
事業承継税制が適用されると、自社株式の取得に伴う相続税、贈与税は全額の納税が猶予されるため、承継時の税負担をゼロにできる。
親族に限らず、従業員等への親族外承継でも適用されるので、後継者となる従業員が納税資金の調達を心配することなく承継できる。
生前贈与の活用
自社株式などを生前贈与する場合には、一定額について非課税になる制度もある。年間110万円までの贈与については贈与税が課税されないので、毎年後継者に対して計画的に自社株式を譲渡することで節税対策ができる。
また、生前贈与された財産については、相続財産に合算する相続時精算課税制度を活用できる場合もある。
60歳以上の父母または祖父母から20歳以上の子または孫に対し贈与した場合に選択することができ、特別控除額2,500万円までの金額には贈与税が課税されない。
この制度を選択した場合、相続時に合算される贈与財産の価額は、贈与時の価額で計算される。そのため、贈与時より相続時の方が、評価額が上昇している場合などに適用すると税制上有利になる。具体的には、会社の業績が伸びており、将来自社株式の評価額の上昇が見込まれる状況で、後継者に株式を生前贈与する場合に活用できる。
中小企業の事業承継に伴う税負担については、このようにさまざまな特例が用意されている。もっとも、相続発生後など事後的に対応できる制度は限られる。
元気なうちに相続のことを考えるのには抵抗を感じる経営者も少なくないだろうが、事前の準備で税負担に大きな違いが生じる可能性は高い。税負担の適正化はもちろんのこと、納税資金の準備など、ここでも早めの対策が肝要だ。