経営者の個人保証解除を専門家が支援

事業承継では、自社株式や会社所有の不動産などプラスの財産だけでなく、経営者個人が借り入れている事業用資金などの債務や担保、保証の承継についても考える必要がある。

債務等の相続対策を

例えば、経営者が死亡し相続が発生する場合には、誰が経営者個人の債務を相続するかという問題が生じる。また、経営者が自己所有の不動産を会社の債務の担保としたまま相続が発生した場合、担保物件が複数の相続人の共有状態となり、経営に支障をきたすケースも考えられる。

このようなケースでは、事業承継とともに経営者の相続対策も併せて進めなければならない。

経営者保証ガイドラインを活用

さらに厄介なのが、経営者保証の問題だ。中小企業が金融機関から事業資金を借り入れる場合、経営者の個人保証か、経営者が所有する土地や建物等の担保提供を求められる場合がほとんどだろう。

このような経営者保証は、事業承継を行う上で大きなネックとなるが、経営者保証を解除しようとしても、金融機関は消極的な態度を取ることが一般的とされてきた。金融機関としては、経験の浅い後継者は信用に乏しいと評価するためだ。かといって、経営者保証を残したままでは会社に不測の事態が起きた場合、前経営者が多額の返済負担を負う可能性がある。

この経営者保証が事業承継の阻害要因の一つとなっていることに鑑み、日本商工会議所と全国銀行協会は、「経営者保証に関するガイドライン」を策定している。同ガイドラインは、金融機関に対して経営者保証の解除や後継者との保証契約の必要性などについて検討するよう求めており、中小企業が経営改善に取り組むことで、金融機関が経営者保証の解除に応じるケースも増えている。

東京商工リサーチの「経営者保証に関するガイドライン認知度アンケート報告書」(2016年)によると、経営者が金融機関に対して保証解除の申し出や相談を行った結果、46%が解除に応じたという。

経営者保証解除を目指す中小企業に対しては、専門家による支援事業も用意されている。各都道府県の事業承継・引継ぎ支援センターに相談申し込みを行うと、経営者保証コーディネーターが、経営者保証に関するガイドラインの要件を満たすかどうかをチェックしてくれる。要件を満たす場合は、希望すれば専門家が金融機関との面談に同席し、経営者保証解除に向けた支援まで行う流れだ。

「多面的」な視点で「同時並行的」な対策を

中小企業の事業承継が抱える「2025年問題」は、現状のままでは、中小企業の廃業が急増し、2025年までの累計で約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる可能性があるとの試算もなされている。個々の企業の問題にとどまらず、国にとっても大きな損失として議論される喫緊の課題となっているのだ。

この状況で事業承継を成功へと導くためには、多角的な視点を持って早めに同時並行的に対策を始めることが何よりも肝要だ。特に中小企業は、今日、明日の経営状況や課題に目を向けがちだが、5年後、10年後の自社の姿をイメージしながら、将来に備えて計画的に準備しなければならない。

そのためには、前述した3つの課題への対策とともに、現段階で自社が抱える課題、自社が持つ価値を正しく把握し、将来へ向けた磨き上げを継続していくことが経営者には求められている。自社の価値を磨き上げることで、金融機関からの信頼確保や優秀な人材の獲得につなげることができれば、事業承継の選択肢も自ずと広がることになる。