本記事は、福山敦士氏の著書『イマドキ部下を伸ばす 7つの技術』(あさ出版)の中から一部を抜粋・編集しています。
ホウレンソウをしつこく求めない
上司が受信者責任を負うようにする
部下には、ホウレンソウ(報告・連絡・相談)をしつこく求めないようにしましょう。
求めすぎると、主体的なホウレンソウがなくなってしまいます。
部下の仕事ぶりが気になってしまうのは、業務設計・マニュアルが未整備だからです。
自分の責任にもかかわらず、部下の仕事への集中力を阻害してはいけません。
上司と部下のコミュニケーションに紐づく考え方に、「発信者責任」と「受診者責任」があります。
発信者責任とは、相談を持ちかけた〝部下〞に責任があるという発想です。それに対し、受信者責任とは、相談を受けた〝上司〞に責任があるという思考です。
理想は、上司が責任をとる受信者責任でいることです。
受信者責任を基本としておけば、部下から持ちかけられるどんな相談や報告に対しても、上司が責任をとることとなります。それはすなわち、上司が責任を持って情報を集めることにつながるのです。
もし上司ではなく、部下が責任をとる発信者責任を基本としてしまうと、つい部下を指導・評価する視点に立ってしまい、「報告書がなっていない」「レポートの形式が不十分」「議事録の形になっていない」などと部下のミスに注目して指摘することになり、部下は完璧な報告資料を永遠につくり続けかねません。
会社や組織の利益最大化が一番の目的だとすれば、それらの指摘は些末なことだと分かります。
むしろ、余計な仕事を部下に押し付けることとなり、本来発揮するべき生産性が得られないことにもなります。
上司が得るべきなのは的確で正確な報告です。
大事なのは、ホウレンソウをしつこく求めることではなく、上司自ら拾いにいくことなのです。
丁寧なレポートを求めない
僕の前職時代にも、発信者責任と受信者責任、それぞれの考え方で仕事をしていた上司がいました。
発信者責任で仕事をする上司についていたときは、エクセルのフォーマットにレポートの数字をまとめていたのですが、その数字に半角と全角が混ざっているだけで「これはどうなっているんだ! こんな資料をお客さんに出すのか!」と叱られました。
その指導自体は間違っていなかったと思うのですが、レポート作成で残業することも多く、それが成果をあげるための仕事につながっていたかどうかはわかりません。経験としてはマイナスではありませんが、プラスは小さかったと感じています。
次についた上司は、受信者責任で仕事をしている人でした。
具体的には「報告資料はテキストでもエクセルでもなんでもいい」という人だったので、ファクトの数字から相談事まで気軽に文章で提出することができました。
その結果、レスポンス(やりとり)が多くなり、僕は成果を飛躍的に伸ばすことができたのです。資料の修正に時間をとられることなく、本来やるべき仕事に集中でき、かつ上司とのコミュニケーションも良好だったからです。
提出されたものについては受信者責任として受け取ること。しつこく「ホウレンソウ」を求めなければ、それだけ部下はやるべき仕事に邁進できます。
ちなみにAmazon社では、プレゼン資料にパワーポイントの使用を禁じています。その理由は、ストーリーが単線的になり、また装飾や視覚効果によって内容をごまかせてしまうためです。それでは、複雑な議論ができません。
プレゼンでは思考のプロセスも含めて上司と共有することが求められます。そのためにはパワポ資料やスライドではなく、文章でまとめて伝えるのが最適です。
実際、プレゼン企画は深掘りすることで、より良いものになります。それには言葉が必要です。ビジュアルにこだわるよりも、文章でまとめる習慣を身につけさせることが、上司の指導としては正しいのです。
本来の仕事に集中してもらうために
僕の会社でも、テキストベースでの報告を推奨しています。
ただ、かつての上司に教え込まれた社員の中には、どうしてもエクセルにまとめたがる人もいます。綺麗なグラフをつくろうとし、クイックなフィードバックが得られません。
事実、報告者のこだわりが強すぎて、1週間もレポートがあがってこないこともありました。資料が綺麗にまとめられていると「やった感」はあるのですが、仕事が遅れると、それだけでビジネスチャンスを逃してしまいます。
1年間は365日、52週ですが、大型連休を除くと50週ほどしかありません。つまり1週間遅れるということは、全体の50分の1を失うことになります。2週間遅れれば50分の2です。その分だけ意思決定が遅れ、会社は機会を失います。
2%の損失でも、積み上がると大きくなります。個人の成果ならともかく、会社全体としては、いずれ10億円、100億円という規模の損失にもつながりかねません。
だからこそ、上司は受信者責任で対応することが求められます。
部下の報告ではなく、現状を把握できなかった自分のミスであることを自覚し、そこに落ち度があることを踏まえて、自ら情報をとりに行くようにしましょう。
部下に完璧な「ホウレンソウ」を求めるのが上司の仕事ではありません。
上司が自分で吸い上げて、部下には部下の仕事をしてもらうこと。組織で仕事をしている以上、やるべきことに集中してもらう工夫が仕事の成果を最大化します。
- Point
- 管理は上司の仕事。
管理の責任を部下に押しつけてはいけない。
DORIRU株式会社(旧ギグセールス)代表取締役
慶應義塾高校 講師(ビジネス実践講座)
1989年横浜生まれ。 大学卒業後、サイバーエージェントに入社。会社員生活になじめず成績が上がらない日々を過ごすものの一念発起し、仕事の仕方を変えたところ、25歳でグループ会社(シロク)の取締役営業本部長に就任。27歳で独立起業。複数企業/事業を立ち上げ4度のM&A(売却)をすべて上場企業相手に実行。ショーケース社へのM&A時、同社取締役に就任。人事本部長として、採用育成、人事制度設計、マネジメント研修などに従事。2020年、ギグセールス社にM&Aにて参画、2022年から代表取締役就任。
慶應義塾高校、代々木ゼミナール教育総合研究所などで学生にビジネスを教える講師を務めている。
著書累計12万部超。学生時代は野球ひと筋16年。甲子園ベスト8。3児のパパ。※画像をクリックするとAmazonに飛びます