この記事は2022年12月22日(木)配信されたメールマガジンの記事「クレディ・アグリコル会田・大藤 アンダースロー『新たな長期金利のマクロ・フェア・バリューは0.5%程度』を一部編集し、転載したものです。
シンカー
政策変更など債券市場全体に大きな影響を与える動きがある局面ではマクロ・ファンダメンタルスを基に算出したフェア・バリューを把握することが重要だろう。
日本の長期金利(10年国債利回り)はネットの国内資金需要(対GDP比%)、日銀の政策金利(コールレート)、日銀の長期国債買入れ額(対GDP比%)、米国10年国債利回り、YCCダミー、連続指値オペダミーで推計できる。
日銀は連続指値オペが存在するだけで生ずる市場圧力に頼る必要性が後退したと思われ、今回の容認レンジ拡大は連続指値オペダミーが解除されたと考えるのが適切だろう。
連続指値オペが解除された中、日銀が年間108兆円程度の国債買入れを実施した場合、国債10年金利のマクロ・フェア・バリューは0.50%程度と新しい容認レンジの上限に近い水準になる。
グローバルな景気減速懸念も一段と強まる中、日銀が年間108兆円程度の買入れを維持した場合、国債10年金利のマクロ・フェア・バリューは足元の0.5%程度から下がる可能性が高い。
フェア・バリューを把握することが重要
2022年12月の日銀金融政策決定会合で日銀は国債10年債利回りの誘導目標の変動幅の容認レンジを従来の±0.25%から0.5%へ拡大した。
政策変更など債券市場全体に大きな影響を与える動きがある局面ではマクロ・ファンダメンタルスを基に算出したフェア・バリューを把握することが重要だろう。
日本の長期金利(10年国債利回り)は推計できる
日本の長期金利(10年国債利回り)はネットの国内資金需要(対GDP比%)、日銀の政策金利(コールレート)、日銀の長期国債買入れ額(年率換算、対GDP比%)、米国10年国債利回り、YCCダミー、連続指値オペダミーで推計できる。これらの変数を使うことで、1990年からの日本の長期金利のマクロ・フェア・バリュー(四半期ベース)が算出でき、10年国債利回りの99%の動きが説明できる。
- 国債10年金利(%)=0.31+0.68 コールレート+0.27 米長期金利-0.05 ネットの資金需要-0.03 日銀長期国債買入れ額(年率換算、対GDP比)-0.38 YCCダミー -0.11連続指値オペダミー(2022年4-6月期から2022年10-12月期まで1、これからは0)+ 0.52 アップダミー-0.46 ダウンダミー;R2=0.99
モデルを基に過去のマクロ・フェア・バリューを計算すると、連続指値オペが実施される前の2022年1-3月期にはすでにフェア・バリューは日銀の従来の誘導目標の0.25%まで上昇していた。
その後、グローバルなインフレ高進やそれに対応するための海外主要中央銀行の利上げの動きは米金利上昇を通して、フェア・バリューの上昇圧力を強めた。
2022年4月に日銀は連続指値オペという一段と強い金利抑制コミットメントを示した。
容認レンジの拡大に踏み切ったと考えられる
ただ、連続指値オペやYCCの影響を除いたフェア・バリューが上昇する中、日銀はアナウンスメント効果を柱とした連続指値オペの金利抑制圧力に過度に頼るのは難しいと判断したようだ。債券市場の機能低下への対応という理由も含め、容認レンジの拡大に踏み切ったと考えられる。
容認レンジ拡大に踏み切っても、日銀はYCCの枠組みは維持し、今後も金利誘導政策を実施する強いコミットメントを改めて示した。
一方で、連続指値オペが存在するだけで生ずる市場圧力に頼る必要性が後退したと思われる。今回の容認レンジ拡大はモデルの観点からは、連続指値オペが解除されたと考えるのが適切だろう。
国債買入れを実施すると発表
日銀は容認レンジ拡大と同時に当面の国債買入れ方針として月間9兆円程度(年間108兆円程度)の国債買入れを実施すると発表した。
指値オペが実施されれば、この額に上乗せされた分、金利の低下圧力となる(連続指値オペの影響は、日銀の長期国債買入れ額の中に反映される)。
現状のコールレート、米金利水準、ネットの資金需要を前提に、連続指値オペダミーが解除された中、日銀が年間108兆円程度の国債買入れを実施した場合、国債10年金利のマクロ・フェア・バリューは0.50%程度と新しい容認レンジの上限に近い水準になる。
日銀の景気の先行き判断
日銀の景気の先行き判断は、「資源高や海外経済減速による下押し圧力を受けるものの、新型コロナウイルス感染症や供給制約の影響が和らぐもとで、回復していくとみられる」と海外経済減速への警戒感が強い。
来年には米国のインフレ高進も落ち着き、グローバルな景気減速懸念も一段と強まる中、日銀が年間108兆円程度の買入れを維持した場合、国債10年金利のマクロ・フェア・バリューは足元の0.5%程度から下がる可能性が高い。
図:10年国債利回りとマクロ・フェアーバリュー
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