この記事は2022年12月23に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「転換点が意識される23年の不動産マーケット」を一部編集し、転載したものです。


転換点が意識される23年の不動産マーケット
(画像=WhoisDanny/stock.adobe.com)

今回は、法人や投資ファンド間で売買され、不動産市場に大きな影響を及ぼす大型不動産の取引に注目し、2023年を展望してみたい。

不動産市場の好不調は、価格や取引量をもって語られることが多い。不動産価格指数を見ると、パンデミックが来襲した2020年に少し下落したが、その後は上昇を続けてきた(図表)。

一方で、取引量は2022年7~9月(3Q)になって減少した。これは、株式市場の軟調からJリートの公募・売り出し(PO)による取得資金の調達が難航し、新規の物件取得が少なかったこと、売り手と買い手の価格目線が合いにくくなったことなどが背景にある。

数百億円規模の大型取引も依然として多数見られるものの、この流れを不動産市場の変調の兆しと捉える向きもある。

そうした中で2023年はどうなるか。まずポジティブな要因を挙げると、さまざまなアセットタイプの不動産において賃貸収益の回復が期待できる。経済活動の正常化に伴う人々の外出増加やインバウンド需要の回復によって、商業施設やホテルの賃貸収益が息を吹き返すだろう。

オフィスについては、リモートワークの活用によってオフィス面積を減らしている企業があるのは事実だ。しかし、個別企業の動きを見ると、リモートワーク支援のサービスを展開する企業の成長と共に、リモートワークを考慮に入れた新しいオフィスの構築が増えるという前向きな意味合いでの需要も多くなっている。

他方、ネガティブな要因を挙げると、不動産価格が高値圏にあることで取引量が細る可能性がある。ハードルレートが高い投資家は、期待する利回りに見合った不動産が少なくなることで物件取得が難しくなる。

また、欧米の金融引き締めにより景気後退の懸念が強まっていることや中国の経済成長が鈍化していることが影響し、海外からの投資資金が減退する恐れもぬぐい切れない。加えて、22年末に日本銀行が長期金利の変動幅を拡大させる政策変更を行い、国内の金利も海外ほどではないが上昇傾向にある。

不動産はレバレッジを利かせて投資するのが一般的であり、低金利で安定的に借入れができる金融環境が長らく続いてきたなか、調達金利の上昇が進めば不動産価格に負の影響を及ぼしかねない。

これらを踏まえて、2023年のマーケット動向を推測すると、ポジティブ要因とネガティブ要因が綱引きする中で、これまで堅調に推移してきた不動産市場が転換点を迎える可能性は低くなさそうだ。それでも、長かったコロナ禍を抜け、日本各地の都市や観光地がにぎわいを取り戻し、不動産市場の健全な成長が続くことに期待したい。

転換点が意識される23年の不動産マーケット
(画像=きんざいOnline)

三菱UFJ信託銀行 不動産コンサルティング部 フェロー/大溝 日出夫
週刊金融財政事情 2023年1月3日号