従業員持株会は、従業員が自社株(勤務先の株式)を購入できる制度です。資産形成手段として活用できる一方で、いくつかのデメリットも存在するため、従業員持株会に加入する前に特徴を理解しておくことが大切です。本記事では、従業員持株会の仕組みやメリット・デメリットを解説します。

従業員持株会とは

従業員持株会は入るべき?仕組みやメリット・デメリットを知っておこう
(画像=WhoisDanny/stock.adobe.com)

従業員持株会とは、従業員が給与天引きで自社株を購入できる制度です。主に上場企業において、福利厚生として導入されています。会社から奨励金が支給され、より多くの株式を取得できるのが魅力です。

通常の株式投資と同じように保有株数に応じて配当金が支払われ、売却益を得ることも可能です。従業員持株会への加入は任意であり、強制ではありません。

従業員持株会の導入状況

東京証券取引所の調査によると、2021年3月末現在、大手証券会社5社(大和証券、SMBC日興証券、野村證券、みずほ証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券)のいずれかと、従業員持株制度の事務委託契約を締結している会社は3,239社です。国内上場会社3,752社のうち86.3%が従業員持株会を導入しています。

従業員持株会の加入者1人あたりの平均保有額は223.8万円(前年度比53.3万円増)です。

奨励金は、調査対象会社3,239社の96.5%にあたる3,127社で支給されています。奨励金額は「100円以上150円未満」が1,225社(37.8%)で最も多く、次いで「40円以上60円未満」が1,162社(35.9%)となっています。

奨励金額とは、拠出金1,000円につき会社から加入者に支給される金額(買付手数料、事務委託手数料に対する補助を除く)を指します。

従業員持株会の仕組み

ここでは、従業員持株会の仕組みについて確認していきましょう。

持株会の名義で自社株を購入する

従業員持株会は民法上の組合に該当します。持株会の運営管理は、証券会社などに委託するのが一般的です。

会員である従業員の給与から一定額が天引きされ、その拠出金を原資に持株会名義で自社株を購入します。購入した自社株は持株会の名義で保管され、従業員には出資額に応じて配当金が支払われます。

自社株から得られる利益は従業員に帰属するため、その利益にかかる税金は従業員が負担します。

停止や退会も可能

従業員持株会に加入しても、「積み立てをやめたい」と思ったら停止や退会ができます。

停止は、自社株の購入資金の拠出をストップすることです。これまで購入した自社株はそのまま保有され、保有株数に応じて配当金も支払われます。停止した後に積み立てを再開することも可能です。

転職や退職などの理由で従業員持株会をやめたい場合は、退会手続きを行います。退会を申し出ると、持株会名義で保有されている自社株は個人名義の証券口座に振り替えられます。個人口座に振り替えられた自社株はそのまま保有するか、売却して現金化することになります。

停止・退会手続きの流れは、会社の担当者に確認しましょう。

従業員持株会に入るメリット

従業員持株会に入るメリットは以下の通りです。

給与天引きで株式投資ができる

従業員持株会は、給与天引きで株式投資ができます。一度手続きをすれば、毎月の給与から拠出金が天引きされ、自動的に自社株を購入してくれるので手間がかかりません。

また、定期的に一定額を購入することで株価が高いときは少なく、株価が安いときは多く購入することになり、結果として平均購入単価を下げる効果も期待できます(ドルコスト平均法)。

少額で株式を購入できる

上場株式は、基本的に単元株(100株)単位で取引されます。例えば、株価1,000円の銘柄を購入するには10万円(1,000円×100株)が必要です(株式売買手数料は考慮外)。株価が高い銘柄は、まとまった資金がないと購入できません。

しかし、従業員持株会の場合は、「毎月1万円」のように少額・定額で自社株の購入が可能です。給与から一定額を自社株の購入に回すことで、無理なく資産形成ができます。

配当金や値上がり益が期待できる

従業員持株会を通じて自社株を購入すると、保有株数に応じて配当金が支給されます。保有株数が多くなるほど得られる配当金も増えるため、安定した収入源になるかもしれません。自社株の株価が上昇し、購入時より高い価格で売却できれば、値上がり益を得ることも可能です。

会社から奨励金がもらえる

従業員持株会は、会社から奨励金がもらえるのも魅力です。「従業員の資産形成支援」「安定株主の確保」などの観点から、多くの上場会社で持株会奨励金が支給されています。持株会に加入すれば、奨励金によってより多くの自社株を購入できるのでお得です。

仕事への意欲向上につながる

従業員持株会に加入すると、仕事への意欲向上につながります。会社の業績が良くなれば、株価が上昇して購入した自社株の価値が上がり、配当金が増えるかもしれません。会社に貢献することが従業員の利益に直結するため、仕事に対するモチベーションがアップします。

インサイダー取引にならない

インサイダー取引とは、上場会社の関係者がその職務や地位により知り得た未公表の情報を利用して自社株などを売買し、利益を得ようとすることです。インサイダー取引規制に違反すると、懲役や罰金などが科される可能性があります。

従業員持株会で毎月定額(1回あたり100万円未満)の自社株を購入する場合は、インサイダー取引に該当しません。従業員持株会なら、インサイダー取引を心配することなく自社株を購入できます。

従業員持株会のデメリット・注意点

一方で、従業員持株会には以下のようなデメリットや注意点もあります。

元本割れリスクがある

株式投資である以上、従業員持株会で購入した自社株にも元本割れリスクがあります。購入後に株価が上昇しなければ、売却時に損失が生じる恐れがあります。

従業員持株会は給与天引きで自社株の積み立てができ、奨励金も支給されますが、必ず利益を得られるわけではないことを理解しておきましょう。

リスクが集中しやすい

従業員持株会は、リスクが集中しやすいのもデメリットです。

会社の業績や株価が好調なうちは問題ありません。しかし、業績が悪化して会社が倒産すれば、収入(給与・賞与)と保有資産(自社株)の両方を同時に失うことになります。自社株以外の資産もバランスよく保有するなど、リスク分散を心掛けることが大切です。

売却に時間がかかる

通常の株式投資であれば、株価の値動きを確認しながらすぐに売却注文を出せます。

一方、従業員持株会で購入した自社株を売却するには、個人口座に振り替えてから売却する必要があります。個人口座への振り替えは手続き完了まで時間がかかるため、すぐに売却できません。自社株を現金化したい場合は、余裕をもって手続きを進めましょう。

株主優待を取得できない

株主優待は、株主に対して自社製品や優待券などを贈る制度です。多くの上場会社が株主優待制度を導入しています。しかし、従業員持株会は株主優待の対象外です。購入した自社株は従業員持株会の名義で管理されるため、会社が株主優待制度を導入していても優待品を取得できません。

まとめ

従業員持株会は給与天引きで自社株を購入でき、会社から奨励金が支給されるため、個人の資産形成に活用できます。ただし、自社株だけに投資を行うとリスクが集中してしまいます。従業員持株会に加入する場合は、他の資産もバランスよく保有してリスク分散を心掛けましょう。

(提供:Incomepress



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