本記事は、大野伸氏の著書『「情報リテラシー」情報洪水時代の歩き方』(同文舘出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

True,False
(画像=ELUTAS/stock.adobe.com)

コロナ禍もフェイクとの戦い

コロナ禍初期、ある人から転送されてきた1通のメールに驚いた。

このメールを事例に、予備校の早稲田塾で担当している「スーパーメディアリテラシー講座」で、コロナ禍の3年間にわたって高校生たちと議論をしてきた。日本での新型コロナウイルス発生初年の2020年3月にはフェイクであることを見破れない高校生もいたが、この3年で誰もがフェイクだと気付くようになった。

その理由は後ほどお伝えするが、2020年3月の時点から説明をしたい。

当時は新型コロナウイルスの感染源を巡る話は、トランプ大統領はじめ、アメリカの政治家も巻き込んだ中国との大激論となっていた。トランプ大統領は武漢にあるウイルス研究所から中国がわざと流出させたのだと主張し、中国を攻撃した。一方で中国は、交流のために武漢を訪問していたアメリカ軍がウイルスを撒いた疑いがあると主張した。実在の武漢の研究者までが発言し、国際的な調査団が現地に入ったものの、どこが感染源なのかを断定する調査とはならなかった。

2020年3月の初期には、コロナがどうやって発生しており、どう治療をすればいいのか正解がまだわかっていない段階だった。現在に至るまで解明されていないことも多いが、解明をされてきたことも多く、ワクチンや治療薬も複数できた今とは大きく状況が異なっていた。この答えがない状況だからこそ、陰謀論が生まれやすい状況にあったと思う。こういう中での1通のチェーンメールだった。

以下、原文ママである。


医者一家で育った友人から送られてきた情報です。長文ですが、とりあえず転送します。

ご参考までに!
知人の病院の理事長からです。
参考にしてください。

今回のウイルスは、熱に、弱いそうです。冷たい飲み物は、厳禁です。いつも、温かい飲み物、ぬるま湯をもちあるいてください。研究所からです。武漢研究所に派遣されるクァク・グヨンの米国友人の文です。必ずたくさん伝達してください。

彼は無限肺炎ウイルスの研究を行なっています。たった今電話をかけて聞いた内容です。風邪を引いたときは鼻水と痰があり、コロナウイルス肺炎は鼻水のない乾いた咳なので新しいタイプのコロナウイルス肺炎です。これが最も簡単な識別方法です。このような医療知識についてもっと知れば、予防に役立ちます。

今回の武漢ウイルスは耐熱性がなく、26~27度の温度で死にます。そのため、お湯をたくさん飲む。皆にお湯を飲ませれば予防できます。陽射しの下に行ってください。冷たい水、特に氷水を飲まないでください。お湯を飲むことはすべてのウイルス死滅に効果的です。ぜひ覚えてください。

コロナウイルスに対する医師の助言:
1.ウイルスの大きさが非常に大きく、(セルの直径は約400~500nm)、すべての一般マスク(N95の機能だけでなく)もこれをフィルタリングすることができます。しかし、感染した人があなたの前でくしゃみをすれば3メートル離れ、気をつけてください。
2.ウイルスが、金属の表面につけば、12時間以上生存します。金属に触れた場合は石鹸で手を洗ってください。
3.ウイルスは服で6~12時間活性化状態を維持することができます。洗濯洗剤はウイルスを殺します。毎日洗う必要のない冬服の場合、太陽の下に置いてウイルスを殺すことができます。

コロナウイルスによる肺炎の症状:
1.のどを先に感染させ、のどが3~4日間持続される乾燥した咽喉の感じを持つようになります。
2.それではウイルスが混合され、器官に流れ入って肺にも入り肺炎を起こします。この過程は5~6日が所要されます。
3.肺炎で高熱と呼吸困難が発生します。鼻腔の混雑は正常な種類と異なります。おぼれたように息苦しくなるでしょう。こんな感じなら、すぐに医師の診察を受けてください。

予防について:
1.感染される最も一般的な方法は公開的に物を触ることなので、手をよく洗わなければなりません。ウイルスは5~10分の間いろんなことが発生することができます(目をこすったりしてはダメです)。
2.手をよく洗うことのほかにもBetadine Sore Throat Gargleでうがいをしてのどにいる間、細菌を除去したり、最小化することができます。
しょっちゅうお湯を飲むことをお薦めします。

との事です。よろしかったら参考にしてください。

様々な場所でこの事例を紹介すると、相当多数の人に出回っていることもわかった。

そして学生に、「このメールにどこか不審な点があると思うか?」という質問をしたところ、「お湯を飲ませれば予防できるというのはおかしい。こんな簡単なことであればここまで感染が拡大していないだろう」という的確な回答があった。その通りで、「お湯を飲ませれば予防できる」、そんなはずがない。科学的な効果への立証ができないと感じたということ。

また別の学生は、「26~27度の温度と言うが、それなら体に入った時点でウィルウスは死滅しているはず」。これもきわめて冷静な判断で、人間の体温はもっと高いので26~27度で死ぬはずがない。

さらに別の学生は、「氷、水を飲まないでくださいってあり得ない」。これもそんなことを医師が助言するはずがないということだ。

しかし、何人かはこれを慌てて親に転送してしまったという学生もいた。

生徒たちと議論してまとめた「怪しいメールの見破り方」は次の通りとなった。

(1)翻訳機能ニュアンスには要注意

「必ず~しなさい」は日本人が使わない強い表現方法だと感じた。一方で英語、中国語ではよく使うニュアンスなので、日本語以外の言語を日本語に翻訳されたものだと感じた。つまりこのメールは、海外から日本へ混乱を狙って発信されている可能性がある。このメールに添付ファイルやリンクが貼られていたら、違うリスクが生じる可能性もある。

(2)権威をたくさん出してくるメールには要注意

「研究所」「博士」など、わざわざ使い回しているのが権威を借りようとしている。疑わしい部分のカモフラージュである。

(3)常識でおかしいことがある

学生が指摘した部分はまさにここ。常識があればメール内容の矛盾に気付くはずである。

こうした基本的な見破り方を念頭に置きながら、医療情報として本当に正しいのか調べるということが重要だ。これは、厚生労働省や日本医師会など専門家によるコロナ関連情報を調べるだけでも基本的なフェイクを見破れるだろう。

またフェイクは社会など何らかの事象への不安、自分のコンプレックスなど人の心の隙に入り込んでくる。

その際の見分け方として、アメリカのワシントンD.C.にあった「NEWSEUM」というニュースに関する博物館(現在は閉館された)では、フェイクニュースを見破るコツとして、合い言葉「E.S.C.A.P.E. JUNK NEWS」をあげている。「E.S.C.A.P.E.」とは、注意すべきポイントの頭文字から取ったものである。

E:EVIDENCE 証拠
S:SOURCE 情報源
C:CONTEXT 文脈
A:AUDIENCE 読者
P:PURPOSE 目的
E:EXECUTION 完成度

コロナ禍のフェイクニュースで述べた事例で言えば、まさにこのケースに該当する。

このほかにも、新型コロナウイルスを巡ってはたくさんのフェイクニュースが流れた。タイで流れたのは、「日本から来る刺身にはコロナウイルスが付着している」というものだった。アジアを中心に流れたのは「ニンニクが感染予防によい」「ペットから感染する」「感染者が触っているかもしれないから、中国からの手紙は消毒しなければならない」というものがあった。

悩んだのが海外からの宅配便だった。アメリカから届いたスポーツウエアは段ボールの中、さらには衣類を包装しているビニール袋の中の空気に飛沫が残っていないだろうかと心配をした。科学的に郵便物などは大丈夫だと専門家が話しており、頭では理解をしていたが、元気なウイルスが残っていたら……、などの根拠のない心理的な不安はあり、消毒薬で拭いたりしてから触れた。

さらには直接的ではないフェイクも多数流れた。「トイレットペーパーは中国製だから店頭からなくなる」という噂によって、全国的に店頭からトイレットペーパー商品が一時的に品薄となる事象も起きた。

「news every.」で報道する際には「トイレットペーパーがなくなった店頭の映像」と合わせて必ず「メーカーの倉庫にはこれだけ在庫があり、これだけ生産を拡大している」という映像と「国内で製造をしている」という情報を盛り込んで伝えるようにした。さらには「店頭で予想よりも急ピッチで売れてしまうと物流が追いつかない」という背景も盛り込むなど、丁寧に事実を、かつ誤解を防ぐように報道しようとスタッフに指示をした。

「情報リテラシー」情報洪水時代の歩き方
大野伸
日本テレビ放送網株式会社 「news every.」前統括プロデューサー
早稲田大学パブリックサービス研究所研究員、早稲田塾講師、日本メディア学会会員、sweet heart project(障がい者自立支援プロジェクト)アドバイザー
1996年に日本テレビ放送網入社。報道局に配属になる。社会部にて警視庁記者クラブなどを担当した後、2003年より経済部にて経済産業省、日本郵政公社、財務省、内閣府などを取材。三菱自動車やダイエーの経営再建取材など民間企業の取材も多数。2008年から経済部デスク兼ニュース解説者として「news every.」「スッキリ」「NEWS ZERO」などでスタジオ解説、ラジオ日本の朝の番組「岩瀬惠子のスマートNEWS」での解説など。2013年に営業局へ異動し、ルーブル美術館やリオ五輪でのCM撮影を行なう。「第68回広告電通賞優秀賞」を受賞(チーム受賞)。2016年より報道局にて「Oha!4 NEWS LIVE」プロデューサー、2018年12月から2022年5月まで「news every.」統括プロデューサーを務める。元青山学院大学兼職講師(2011年~2015年)。大学、財団法人、公共団体、経営者勉強会、広報勉強会、海外など含めて多数の講演歴や学術誌やWEBメディアでの執筆活動も行なう。早稲田大学大学院政治経済学術院公共経営研究科修了(公共経営修士)。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます
ZUU online library
(※画像をクリックするとZUU online libraryに飛びます)