インフレ率が過去 40 年間で最高を記録する中、比較的インフレ耐性が高いとされるリアルアセット(リアル資産/実物資産)の存在感が高まっています。本記事では時代と共に多様化するリアルアセットと、インフレ環境下で注目されている3つの分野について見てみましょう。
なぜ、リアルアセットはインフレに有効なのか
リアルアセット(リアル資産/実物資産)がインフレヘッジに向いているとされる理由は、株式や債券といった市場の影響を受けやすい資産クラスとの相関性が低く、インフレ感応度とポートフォリオの分散効果が期待できる長期投資対象として、歴史的に優れたパフォーマンスを発揮しているためです。
また、リアルアセット(リアル資産/実物資産)は資産そのものに価値があるため、資産価値がゼロになりにくいという特徴があります。
多様化するリアルアセット インフレ環境下で注目の3つの分野
伝統的なリアルアセットとして、天然資源やインフラストラクチャー、不動産、コモディティなどが挙げられますが、近年は需要の変化に応じてその領域が多様化しています。以下、インフレ環境下で注目されている3つの分野を見てみましょう。
分野1. 脱炭素化を視野に入れた「ティンバーランド」
英語で「木材」を意味するティンバー(Timber)は我々の生活に不可欠な天然資源の一つであり、住宅や家具、生活用品、資源利用(バイオマス、チップなど)、エネルギーなど、その用途は広範囲に及びます。
木材の原料となる林業用の森林地はティンバーランド(Timberland)と呼ばれ、二酸化炭素の吸収から水源のかん養まで、脱炭素で重要な役割も果たしています。ティンバーランド(森林)投資商品には、生産性の高いティンバーランドや木材関連製品を生産する企業への直接投資、あるいは複数の銘柄を組み合わせたETF(上場投資信託)やREIT(不動産投資信託)などがあります。
JPモルガン・チェースの分析によると、ティンバーランド投資は1991~2021年の期間、米国債券(5.7%)や米REIT(7.9%)を上回る平均8.9%という年率リターンを記録しました。
「金利上昇による住宅市場の冷え込みが材木需要を縮小させる」との懸念もありますが、世界的な不況のリスクが懸念されている2023年は、インフレ耐性のある長期的な投資対象を求める投資家が増加しています。ティンバーランドは脱炭素に焦点を当てた投資対象としても注目が高まっており、需要を後押しする可能性が高い分野です。
分野2. デジタル・トランスフォーメーションの基盤を創る「デジタル・インフラ」
コロナ禍で世界的に急加速した社会・産業のデジタル化を受け、その基盤となる「デジタル・インフラ(Digital Infrastructure)」の重要性が益々高まっています。
5G(第5世代移動通信システム)やインターネット、通信塔、データセンター、クラウドに代表されるデジタル・インフラは、我々の日常生活に不可欠な「第4の公共サービス」として、国家規模で投資が活発化している分野です。近年はデジタルサービスやIoT(モノのインターネット)などの普及拡大と共に、デジタル・インフラも多様化しています。
モバイルアプリやソフト、プラットフォーム、API(Application Programming Interface/ソフトやプログラム、Webサービス間を繋ぐインターフェイス)、オペレーショナル・セキュリティ(OPSEC/セキュリティ対策)、スマート家電といったエッジデバイス(※インターネットに接続された製品)などが、デジタル・インフラとして市場を拡大させています。また、これらのサービスや製品に必要なソフトウェアなどを開発する需要も伸びています。
その一方で、データーセンターのような物理的施設は、インフレ耐性のあるインフラ資産としても関心が高まっています。これは、デジタル・インフラの強力な需要によって、賃貸料の上昇が見込めるという期待感に起因するものです。
このような背景から、デジタル・インフラの世界市場規模は2021~26年の期間、年平均成長率 12.2%のペースで成長を続けると、国際市場調査企業Global Market Estimatesは予想しています。
分野3.新たな不動産分野を開拓する「セルフストレージ」
データセンターと並ぶ不動産投資商品として注目されているのは、「セルフストレージ」です。「セルフストレージ」とは利用者が荷物を収納するためにレンタルする収納スペースのことで、日本では「トランクルーム」と呼ばれることもあります。必要に応じて自由に荷物を出し入れできるという合理的なシステムが現代人の需要とマッチし、世界の市場規模は持続的な成長を続けています。
国際市場調査企業Proficient Market Insightsのデータによると、世界のセルフストレージの市場規模は2021年に540億6,723万ドル(約6兆9,206億円)に達しており、2027年までに835億7,520万ドル(約10兆6,976億円)に成長する見込みです。
近年は、欧米を中心に小規模な保管倉庫.やオフィス用の家具やトイレを完備した「ストレージオフィス」の役割を果たすストレージが急増するなど、ビジネス分野においても活用幅が広がっています。
通常の保管倉庫やオフィスに比べると「ストレージオフィス」の設備は簡素ですが、コワーキングスペースよりプライバシーが確保しやすく、長期契約不要かつ低コストで利用できるため、中小企業や個人経営者間で需要が高まっています。たとえば、英ストレージサービス大手Storage Worldが提供している「ストレージオフィス」は、週55ポンド(約8,635円)という低額から契約できます。リモートワークの普及により通常のオフィスの需要が低下している現在、さらなる成長が見込まれます。
不動産投資という観点から見ると、セルフストレージは建設費用や運用費用が低く、歴史的に高リターンが期待できる投資商品の一つでもあります。Motley Foolのデータによると、過去10年間のセルフストレージREITのパフォーマンスは、他の不動産投資商品を大幅に上回っています。
現在の金利の上昇とインフレ圧力から短期的な影響を受ける可能性は否めないものの、短期契約サイクルと固定ベースの利用料金制度というセルフストレージのビジネスモデルは、市場環境の変化に応じて柔軟かつ迅速に利用料金を増減することが可能です。これにより、耐インフレ効果が期待できます。
メリットだけではなくデメリットにも注意
世界的なインフレの長期化が懸念されている現在、リアルアセットの需要はさらに高まることが予想されます。
しかし、リアルアセットと一言にいってもそれぞれの資産に異なる特性があり、必ずしもインフレ耐性があるとは断言できないため、過信は禁物です。投資判断の際には、それぞれのメリットやデメリットをしっかりと把握しておくことが重要です。
また、時代の流れと共にさまざまな派生分野が生まれているため、常に情報のアンテナを貼っておくことが新たな投資のチャンスにつながるでしょう。Wealth Roadではインフレ環境下におけるリアルアセットの動向に注目していきます。
※為替レート:1ドル=128円、1ポンド=157円
※上記は参考情報であり、特定企業の株式の売買及び投資を推奨するものではありません。また、過去の実績は将来の運用成果等を保証するものではありません。
(提供:Wealth Road)