新型コロナウイルス感染拡大の長期化や企業物価の高騰などで経営環境が悪化する中、先行きの暗さを見越して「廃業」を検討する中小企業の経営者は少なくない。背景には後継者探しやコスト上昇分の価格転嫁の難しさといった要因が挙げられるが、廃業のメリットとデメリットは何なのだろうか。さまざまなケースを通して考察してみよう。
目次
「廃業」を検討する企業が少なくない
コロナ禍を機に廃業を検討する企業が増えているのはなぜなのだろうか。
年間4万件超で高止まり
中小企業庁の2022年版中小企業白書によると、2021年の休廃業・解散件数は4万4,377件で、コロナ禍が深刻化した2020年(4万9,698件)と比べて5,000件余りのマイナスだった。とは言え、2019年と比べると1,029件も増加している。休廃業・解散件数は、2016年から6年連続で4万件台を超えたまま高止まりしている状態だ。
ところが、これらの企業の半数超は、休廃業・解散する直前期決算の当期純利益が黒字だった。それにも関わらず事業の継続を断念するケースが多いのは、70歳以上の経営者の割合が年々高まっていることが大きいだろう。
社長の高齢化と後継者不在が要因
東京商工リサーチの調査では、2021年の全国の社長の平均年齢は調査を開始した2009年以降で最高の62.77歳だ。さらに、休廃業・解散企業の社長の平均年齢は71.0歳に達した。
一般的に高齢の社長は自らの成功体験に捉われやすく、経営改善などに消極的で長期ビジョンを描きにくいと言われている。その結果、事業承継や後継者育成も遅れ、事業発展の芽を失ってしまうパターンに陥りがちというわけだ。
このような状況での中、2014年以降の中小企業の後継者不在率は60%を超えている。しかも、2025年には70歳以上の経営者が245万人に上り、国内企業の3分に1に当たる127万社が休廃業・解散、あるいは倒産に直面するという危機が叫ばれているのだ。
原材料費などの価格転嫁にも苦心
帝国データバンクが2022年9月に実施したアンケートによると、原材料費などの高騰にあえぐ中小企業の価格転嫁率は36.6%にとどまった。コストが100円上昇しても、わずか36.6円しか販売価格に反映できていないことを示している。
社長の高齢化と後継者不足というリスクを抱えたまま事業を継続しても、その先に待ち受けているのは厳しい状況でしかないという現状を踏まえれば、「大きな借金を抱える前に事業をたたんでしまおう」と考える事業主が少なくないのは無理のないことなのかもしれない。