「販売先を拡大」という選択肢

新規事業を展開するよりリスクが少なめ

上述の通り、売る相手を増やす方法では、自社が提供する製品やサービスを、基本的にはそのまま横展開することになる。そのため、全く新しい事業に打って出る場合と比べると、リスクは小さいと言える。

地方企業の場合、人材の頭数や質の面で制約が多いことはすでに述べた。そんな中で新規事業を始めるとなると、限られた人的資源がそちらに投入されるほか、仮に事業化するとしても、社員教育などが新たに必要になるかもしれない。既存事業の延長であれば、これらのコストを節約できるメリットがある。

今まで開拓していない販路の獲得を目指す

販売する先を増やすと言っても、その方法はいくつかある。例えば、自社がコーヒー豆を喫茶店向けに卸しているとする。最近は地方にもスターバックスやタリーズなど、チェーンのコーヒーショップが増え、地場資本の喫茶店はどんどん減っている。このままでは自社の業績は先細りが必至だ。

この時、取りうる方法として、まず「営業エリアを広げる」という方法がある。これまでは基本的にA県内の喫茶店を対象としてきたが、今後は隣のB県の喫茶店も営業対象に加えるということだ。

これは同じビジネスを面的に大きくするだけなので、過去に培ってきたノウハウをそのまま活用できる。ただし、B県の喫茶店にも昔ながらの仕入れ先はあるため、製品やサービスに後発で取引をひっくり返すだけの魅力があるかどうかは検証しなければいけない。

一方で「売る業種を変える」ことも考えられる。例えば、対象をレストランなどの飲食店や宿泊施設にも広げ、食後のコーヒー用に豆を売るといった方法だ。最近は、オフィスでの利用に活路を求めるコーヒー豆卸業者もある。これまで、コーヒーに力を入れていなかった業態をターゲットにすれば、そこは未開の地であり、大きなシェアを獲得できる可能性もある。

あるいは「売り方を変える」という方法もある。コロナ禍では食事の宅配サービスが次々と現れた。コーヒーも食卓を彩るものの1つなので、このような宅配サービスとコラボしたり、単独で宅配サービスを始めたりする手法が、これに当たる。

「新規事業を展開」するポイントは?

自社の強みをうまく生かせるか確認

一方、自社を巡る状況を大きく変えるには、新たな事業を始めるという方法がある。新ビジネスでは、これまで接点のなかった相手と取引が始まる場合もあり、単純に売上高や利益が増えるのみならず、会社としてビジネスの幅や奥行きが増す効果も期待できる。

そこで大前提として大切にしたいのが、新たに参入しようと考えているビジネスが既存事業に関係あるか、関係ないか、という点だ。経営学では前者を「関連多角化」と言い、後者を「非関連多角化」と呼んでいる。

関連多角化は分かりやすい。自社の既存事業と重なり合う部分のあるビジネスを手掛けるので、自社の強みを生かしたビジネスを設計できる。ここでは、既存事業とのシナジー(相乗)効果が見込まれる。「1+1=2」ではなく、「1+1=3」になるような展開を目指す。

一方、非関連多角化は、どちらかと言うと、リスク分散の観点が強い。例えば、宿泊施設とレストランを経営しているケースでは、いずれも人々が外出することを前提にしているため、コロナ禍のような状況になると、共倒れになってしまう。

それでは、レストランではなく食品スーパーを展開していたらどうなるか。食品スーパーは利益率こそ高くないが、経済社会の移り変わりに対し、大きくは連動しない安定したビジネスだ。もしもリスク分散という観点を重視するなら、あえて既存の強みからは少し離れた分野で事業を考えてみると良いだろう。

投資コストに見合っているか入念に検討を

もちろん、新事業の場合は常にそうだが、投資コストに見合ったリターンを期待できるかどうかは念入りに調べる必要がある。

仮に、それなりの数の客がついても、採算が合わなかったり、市場規模が思ったよりも小さくて永続性がなかったりすると、投資を回収するのもおぼつかなくなる。そのビジネスの先行きや現在の市場の調査を欠かしてはならない。

経営者自身の「弱さ」も認め、新しい感覚を導入する必要あり

「デジタルネイティブ」という言葉がある。幼い頃からパソコンやスマートフォン、タブレット端末に親しんだ世代を指す言葉だ。このような層は、高校生になってようやく「ガラケー」を買ってもらったり、働いて初めて「ポケベル」を持ったりした世代とは、感覚やスキルが全く異なる。

経営者は孤独であり、ともすれば自分の殻に閉じこもってしまいがちだ。過去の成功体験に引きずられることも多い。しかし、昔は昔だ。時が流れ、次々と異なる感覚を持つ世代が出てきてマーケットで存在感を高める中、以前に成功したビジネスモデルが今も成功するとは限らない。

新たな事業を考える上では、経営者自身が過去の成功体験に固執せず、仮に自分が「食わず嫌い」をしている分野であっても、例えば若い社員が強い関心を示しているなら、彼らに話を聞いてみるような姿勢が望ましいだろう。