廃業にかかるコストとデメリット

経営者としては、後継者が見つからないと「廃業せざるを得ない」と考えてしまいがちだ。しかし、廃業には多額のコストがかかる可能性があることに注意したい。

たとえば、廃業するときは次のようなコストが発生する。

・建物の解体費用
・物件の原状回復費用
・設備や機械の処分費用
・在庫処分費用
・税理士や司法書士に支払う報酬

廃業コストは、事業規模や事業内容、設備や機械によって大きく異なるものの、数百万円はかかるケースが多い。場合によっては、1,000万円を超える費用がかかることもある。

廃業コストによって、会社にある資産が減ってしまうのはもったいないことだ。勇退後にゆとりある老後生活を送るためにも、廃業以外の選択肢にも目を向けるようにしたい。

廃業を考えたときに知っておきたい選択肢

廃業にいたるまでに、3つの事業承継について知り、希望する形で事業を引き継ぐことを考えてみてほしい。続いては、事業承継の3つの選択肢について詳しく解説していく。

1.親族内承継

親族内承継とは、親族に事業を引き継ぐことだ。実子以外に、甥や姪に事業を引き継ぐケースもある。

親族に後継者がいれば廃業を考えることはないと思うかもしれないが、もう一度、実子以外の親族や配偶者の親族にも目を向けて、後継者候補がいないか検討してみる価値はある。

親族内承継は、顧客や取引先、従業員から心情的に受け入れられやすいことがメリットだ。また、先に代表取締役を交代して経営権のみを後継者に引き継ぎ、自社株は時間をかけてゆっくり贈与していくなど、柔軟に承継を進められるというメリットもある。

一方、親族内承継は相続とも密接にかかわるため、他の親族への配慮をおろそかにすると、相続争いが発生しかねない。親族内承継では、専門家にも相談しながら、遺言などを活用して進めていくことが大切だ。

2.社内承継

親族に後継者がいなければ、続いて選択肢となるのは従業員への承継だ。

社内承継なら、仕事ぶりを見て適任者を選べるため、現場の混乱が少なく、スムーズな事業承継が叶うというメリットがある。また、自社株の売却益を得られるため、オーナー経営者の勇退後の生活にゆとりが生まれることもメリットだ。

一方、ある役員に事業承継を打診したら、別の役員が腹を立てて離職するなど、社内で軋轢が生じてしまうことがある。従業員同士の人間関係には十分配慮することが大切だ。

また、社内承継では、従業員の資金力が問題になることが多い。自社株を従業員に引き継ぐには、従業員がオーナー経営者から自社株を買い取らなければならない。しかし、自社株を買い取るのに十分な資金を従業員が持っていなかったり、高額な買い取り資金を捻出するのに抵抗感を抱いたりするケースが多い。

せっかく後継者候補が見つかっても、資金力の問題で話しが進まなくなるのはもったいないことだ。資金力の問題を解決するスキームはいくつか存在するため、専門家に相談しながら進めることが望ましい。

3.第三者承継(M&A)

親族にも従業員にも後継者にふさわしい人物がいなければ、第三者から広く後継者候補を探す第三者承継(M&A)を検討することになる。

M&Aのメリットは、幅広い候補者の中から適任者を探せることや、自社株の売却益を得られること、買い手の事業内容との相乗効果でさらに事業が発展していくことだ。廃業せずにすめば、従業員の生活を守ることもできる。

M&Aでは、M&A仲介会社に依頼して後継者候補を探すことが一般的だ。担当者とともに自社の財務状況や強みを分析し、社名を伏せて買い手を探していく。双方の条件が一致すれば、社名を明かし、経営者同士が直接対話するトップ面談へと移る。

M&Aは、お互いの経営理念について対話したり、専門家をまじえて条件交渉をしたりしながら、じっくりと進めていく。後継者が見つからなくてもまずはM&Aで後継者を探し、どうしても候補者が見つからず条件が合わなかったときに廃業を考えるのでも遅くはないはずだ。